■近藤史恵

2017/01/05

『ふたつめの月』 近藤史恵


『賢者はベンチで思想する』に続く久里子シリーズ第2弾。

作者が苦労したであろう、ある人物についての記述ににやり。前作を読んでいない人は違和感なく読み進められるのだろうか。気になる。

本作は久里子の成長(日常)物語に謎をトッピングしてみたという印象。久里子の前に現れる人物たちのなんて身勝手なこと。「たったひとつの後悔」の動機とか本当に酷いですからね。そんなことで他人の人生狂わせるなんて。

やはり赤坂老人が絡むお話が好き。ラストで家族からも久里子からも行方知れずとなってしまった赤坂老人ですが、もしシリーズが続くなら冒頭でふらっと現れて久里子に就職祝いをくれるのでしょう。期待してます。

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2016/12/18

『賢者はベンチで思索する』 近藤史恵

電子書籍にて。さくさく読める日常の謎ものかと思いきや、探偵役である老人に驚きの秘密が。

収録されている作品(謎)は3編ですが、突出した作品はないです。でも、日常の謎ものによくある「偶然の産物」とか「勘違い」から謎が発生するのではなく、そこに明確な悪意があるのが良いと個人的に感じました。

そして、うっすらと伏線の張られていた国枝老人の正体。これはいい。(ネタバレします)根っからの善人ではないのでしょう。過去に詐欺行為を働いていたのは間違いないのだし。けれど悪人でもないんだろうなあ。続編ではもっと国枝老人について掘り下げているのでしょうか。それとも登場人物一新なのかな。まさか本物の国枝老人が…?

続編を読むのが俄然楽しみに。1編数十分で読めるので寝る前の読書におすすめです。

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2014/01/16

『キアズマ』 近藤史恵

『サクリファイス』に始まったロードレースシリーズ第四弾。これまでのシリーズ、一貫して主人公だったチカは登場せず、とある事故をきっかけに自転車の魅力に惹き付けられてしまった正樹と、正樹のチームメイトでありエースでもある櫻井というふたりの大学生が本作の主人公。

とにかく、自転車が走り去るかのようにすらすら読める。あっという間の読了。今回は大学生ふたりの一年を描いているので、レースひとつひとつの描写は淡泊。ただそれが、正樹があっという間に掴んでしまった栄光と重なるようで爽快でもある。数カ月でトップに立てるかどうかの現実性は別にして…いや、それほどの才能ということか?

目を背けたいのに背けられない、まるで亡霊のような過去を持つふたりがこれからどんなロードレース人生を歩むのかはわからないけれど。いつの日かチカと同じレースに出場する…そんなシリーズ続刊を是非とも読みたい。そうじゃなきゃ、シリーズの一作として出した意味がない!そう、信じております。

あ、タイトルの『キアズマ』ですが、交叉を意味するギリシア語とのこと。正樹と櫻井、ふたりの路は交叉したばかりです。

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2013/07/21

『サヴァイヴ』 近藤史恵


『サクリファイス』『エデン』に続くシリーズ三冊目の短編集。描かれているのはチカの物語と、『サクリファイス』で圧倒的な存在感を魅せてくれた石尾&赤城の物語。

このシリーズの主人公はやっぱりチカなのだけれど、この短編集は石尾&赤城が完全にチカを喰っている。そして、『サクリファイス』を読んだ人には絶対読んでもらいたい。

石尾にもこんな時代があったんですよ、と

エースになるべくして生まれた男。絶対的エースとか読んじゃうとどっかのアイドルグループみたいですが(笑)石尾にはこの言葉がぴったりですよね。とにかく勝ちにこだわり、そして、勝ってみせる男。ああ、『サクリファイス』をもう一度読みたくなってきた。

そんなわけで、「プロトンの中の孤独」「レミング」「ゴールよりももっと遠く」からなる石尾&赤城3部作がお薦めです。そして、チカの物語は最新作『キアズマ』で楽しみたい…って、『キアズマ』はチカの物語ってことで良いのだろうか?

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2013/04/06

『エデン』 近藤史恵


『サクリファイス』の続編、ロードレースの本場とも言えるヨーロッパに渡りツール・ド・フランスに出場することになったチカの物語が本作『エデン』です。

正直、いつ殺人事件が起こるのだろう?と思って読んでいたのですが(笑)殺人なんて起こらなくてもおもしろかった!一瞬の判断が明暗を分けるレースの世界、エースを勝たせるためのアシストとして走ることを誓ったチカですが…勝負人だもの、勝つ可能性があるときに勝ちたいと思うのは当然。そんなチカの葛藤だとかチームメイトとの関係だとか、なによりレース描写だとか、とにかく興奮しっぱなしの2時間(読書時間)でございました。

ラルプ・デュエズのステージ優勝をチカに飾ってもらいたかったなぁとは思ったのだけれど。それだとチカがチカじゃなくなるからなあ…なんて、残念に感じながらも納得も出来ちゃう、一番印象に残ってるレース展開はここです。

ちなみに、ミステリ的展開もあるのよ。フランス期待の星、若手エースのニコラに掛かったドーピング疑惑。初めてのツールでマイヨ・ジョーヌ(レーストップの証)を着るほどの活躍を魅せる彼の実力は本物なのか…もちろん気になるところですが、まあ、おまけですとも。そのおまけだって綺麗にまとめられているのだから凄い。

このシリーズは他に短編集『サヴァイヴ』が出ていますが、やっぱりロードレースの長い駆け引きを楽しむのには長編が適していると思うので新しいチカの走りに期待したいところです。

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2008/11/17

『ヴァン・ショーをあなたに』 近藤史恵

ビストロ・パ・マルにようこそ

絶品料理に舌鼓を打ちながら

シェフの名推理に耳を傾けてはみませんか?

『タルト・タタンの夢』に続く「パ・マル(悪くない)シリーズ」の第二弾です。

今回は料理メインというより、“パ・マル”に働く人々(主に三舟シェフ)にスポットを当てた一作だったでしょうか。それでもやっぱりお腹が空いて食事を挟んでしまったんですけれどね!!

正直申し上げますと、本作はあまり心惹かれる短篇がなくって…『タルト・タタンの夢』よりもミステリ度減りましたよね?そのかわりに従業員の秘密や趣向、昔話が明らかになったわけですが…物足りない。ギャルソンの彼とソムリエの彼女に艶っぽい話が訪れるわけでもなく。物足りない。

そもそも艶っぽい話を求めて読んだ作品ではないので。ので、「氷姫」や「天空の泉」は厳しかった。ついでに言うなれば収録作の中でベストだと思っている「マドモアゼル・ブイヤベースにご用心」だって艶っぽく無くたって。マドモアゼル・ブイヤベースは何者なのか?って展開で充分だったのに。

あら、知らないうちに辛口。でも、“パ・マル”の料理はいつだって美味しそう。一度で良いから味わってみたいという思いは変わらないのです。

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2008/10/29

『タルト・タタンの夢』 近藤史恵

タルト・タタンの夢 (創元クライム・クラブ) Book タルト・タタンの夢 (創元クライム・クラブ)

著者:近藤 史恵
販売元:東京創元社
Amazon.co.jpで詳細を確認する

下町の片隅にあるフレンチレストラン

そこには絶品料理と極上のミステリが

さぁ、ご堪能あれ

パ・マルでフレンチをいただきたい!!

物語の中の料理に涎を垂らしたのは久しぶりでございます。どれもこれも美味しそう堪能したいごっくん。近藤史恵氏のことは『サクリファイス』までノーマークで、殆ど存じ上げていなかったのですが(申し訳ない)こんなに上質な作品を送り出してくれていたとはっ!勿体無い読書人生。

本作の舞台はフレンチレストラン“パ・マル”。店名に“悪くない”なんて名前を付けるなんて、なんと挑戦的なシェフだこと。もちろんその人物像も偏屈で“パ・マル”悪くない。カウンター7席、テーブル5つのそんなに大きくないお店に舞い込んで来るお客とミステリと。

個人的に最も好みだったのは「オッソ・イラティをめぐる不和」でしょうか。理由も告げずに実家へ帰ってしまった妻。「なにが契機だったのか?」を探るのは簡単。けれど、サムライの子孫・シェフ三舟が解き明かすは「そもそもの原因はなんだったのか」。ひとつの出来事が契機となって、これまでずっと我慢できていたことが我慢できなくなる。愛想を尽かす、とは少し違うまるでダムが崩壊するかの如く。

「ぬけがらのカスレ」も美しいですよね。女子なら思わずキュンとなる恋愛物語。

本作が巧いのは必ず料理とミステリが絡み合っているということ。ただレストランでミステリが起こるというだけじゃない。このレストランで、この料理と、このミステリが合わさることで謎が解かれる。うん、美味しい。

本作には続編が出ている模様。『ヴァン・ショーをあなたに』なるべく早く読みます!!

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2008/05/08

小説新潮別冊『Story Seller』

Story Seller (ストーリーセラー) 2008年 05月号 [雑誌] Book Story Seller (ストーリーセラー) 2008年 05月号 [雑誌]

販売元:新潮社
Amazon.co.jpで詳細を確認する

この雑誌を編集した方とお友達になれると思ふ

凄い豪華な執筆陣。夢の共演といっても過言ではない。そんな素敵な一冊を紹すべく、今日は一作ずつレビューを。

「首折り男の周辺」 伊坂幸太郎
本屋大賞受賞第一作は“首折り殺人請負人の周辺で生きる人々”を描いた作品。伊坂的“改心の物語”でございます。本屋大賞を受賞したって直木賞を受賞できなくたって、伊坂節は決してブレることはないのですが…どこか物足りない。その理由を探ってみて、伊坂短編は連作で読みたいのだと気付く。伊坂短編集に収録されている短編たちは、ひとつひとつが完成されていながらも、通して読むことで新たな意味や印象が浮かび上がってきますよね。そんな“新しさ”や“改まり”を欲しているのだと。だって、長編や連作でもいけそうなんですもの、この作品。風合としては『ラッシュ・ライフ』に近い感じで出来上がるのではないかと。でも、伊坂らしい“改心の物語”にやっぱり快心の笑みを浮かべてしまうのです。

「プロトンの中の孤独」 近藤史恵
思わぬところで『サクリファイス』の番外編に出逢えました。この『Story Seller』を注文した時点ではまだ『サクリファイス』未読であったため、全くノーマークだった近藤氏。嬉しい誤算。本作はエースになるべく産まれてきた男・石尾と、石尾の名アシスト名女房であった赤城の若かりし頃を描いた一作。あの石尾にこんな頃があっただなんて、ちょっと意外。石尾の想いの深さ大きさに感動させられた後だけに。そして、この少ない枚数でロードレースの駆け引き清々しさ泥臭さを伝える近藤氏の筆力はさすが。『サクリファイス』の後編がいまから愉しみです。

「ストーリー・セラー」 有川浩
有川氏が恋愛エッセンスをふりかけに重い主題で真っ向勝負を挑んだのが本作「ストーリー・セラー」です。最初は有川氏らしい甘い恋愛小説かと思ったんですが…ラストまで読んで少しだけ鬱状態になりました。ので、卑怯にもその辺りには一切触れずにレビューを。本作の個人的お気に入り台詞は「心の中、レイプされてるって言ったら分かってもらえるかなぁ」なんですが…なんて生々しい台詞がお気に入りなんだ。でも、あの状況下で出てくるこの台詞はもの凄く秀逸です。こういう言葉選びが出来る有川氏が好き。そして、激怒するおっさんの霊が光臨した作中の彼女も。私は「最初っから私は何にも持ってないんだ!」なんて啖呵は切れないから。

「玉野五十鈴の誉れ」 米澤穂信
実は初めましての“バベルの会シリーズ”。下地が無いので(バベルの会がどんな如何わしい会か解らないので)米澤氏が作品に潜ませているだろう主題や狙いを察することが出来ず残念。テイストとしては…ホラーですよね?妄信や妄信にえも云われぬ恐怖を感じてしまう私。五十鈴のあの行動がタイトルにある「誉れ」であるならば、あの行動を「誉れ」として取れる人間は、もはや人間では無いのでは無いかと。感情を殺して“無”になったら、もうその時点で人は人で無くなり、唯の物質ですよね。物質に為ってまで守りたい「誉れ」を持たない私には、その感情はまさしくホラーです。

「333のテッペン」 佐藤友哉
佐藤氏の名前を見かけるたびに「あの絶筆宣言は何だったのだ?」とか思ってしまう私は腹の黒い仔です。でも、本作は収録作の中で唯一ミステリですよね。タイトルの「333」とは333mの高さを誇る東京タワーのこと。東京タワーのテッペンに突如現れた他殺死体の謎…うわぁ、美味しい垂涎設定。本作に登場した探偵は佐藤氏の既出キャラクタなのでしょうか?主人公の土江田の過去も、なかなか気になります。アナタハイッタイナニヲシデカシタンダ?でも、個人的に一番愉しめた(感動した)のは、あとがき(?)の筆者コメントだったりする罠。

「光の箱」 道尾秀介
私はこの作品に“ミステリを装った恋愛小説である”という判定を下したのですが、皆様はいかがでしょうか?心の開き方を知らない少年と少女の恋愛小説。サンタクロースが届ける「光の箱」に収められたクリスマスの奇跡を添えて。箱と聞くと“パンドラの箱”を思い浮かべずにはいられないワンパターン思考を持つ私ですが、最後に残された希望を失わなかったからこそ人間は生きてこれたというあの逸話が、この作品には存外ぴったりくると思います。

「ここじゃない場所」 本多孝好
一番愉しみにしていた本多氏の作品…なんですが、作風変わりましたね。本多氏の魅力は言葉選びと行間にあると信じて止まない私ですが、行間を読ませることもなく書き込まれている感情感情感情。そんなに丁寧に感情を解説してくれなくとも良いですから!って正直思っちゃいました。もっと流れるような美しさが本多氏の作品には有ったように記憶しているのですが。この作品に登場した“四人組とアゲハの物語”を現在進行形で執筆中だったからでしょうか?ほら、アウトプットしているうちに浮かんでくる設定をいつの間にか書き込んでいたことによって情報過多になった、とかいうオチで。四人組の能力に現実的な解釈が為されているのも残念に思いました。多少の無理が生じたとしても、不思議を不思議のまま処理して欲しかった。本多氏の初期作品にはそういった不思議能力を持った人間が多く登場してましたよね。でも、こんな風に酷評していても、やっぱり本多氏の作品が大好きです。新作を読めただけで幸せな気持ちになれるって嬉しい。私にとって本多氏はそういう作家です。

うわぁ、冗長なレビューに自分でもうんざり。でも、本当に「よくこれだけのメンバを集めることが出来ましたね!お疲れ様です!!」と伝えたくなるような一冊。第二弾の刊行も愉しみにしております。

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2008/05/04

『サクリファイス』 近藤史恵

サクリファイス Book サクリファイス

著者:近藤 史恵
販売元:新潮社
Amazon.co.jpで詳細を確認する

「引きます。ついてきてください」

これが僕の役目

エースが勝ってくれれば、それで良い

おんもしろかった!!

このミス5位、本屋大賞2位は伊達じゃないです。読了後、1時間半の間いっしょに駆け抜けた満足感でいっぱいになれました。そんな素敵作品『サクリファイス』が本日のメニュー。

舞台は自転車ロードレースの世界。アシストとしてエースを助け勝利に導くことを喜びとする男の物語。脚光を浴びることは無いけれど、エースが勝利を得たときの充足感を求めて男は自転車を漕ぐ。

そんな男の耳にある日囁かれたエースの黒い噂。それは“後輩潰し”。自分を越えようとする後輩を許さない、事故に見せかけて選手生命を絶たれた者も。エースたる彼は、エースたる自分の役割やアシストされる重みを知っていると思っていたのに。信じていたのに。憧れていたのに。

生贄や犠牲という意味を持つサクリファイス。この『サクリファイス』というタイトルがまさにぴったりの一作です。もちろんそれは、自分を犠牲にしてエースと勝利に導くアシストのことだけでなく。エースに纏わる“黒い噂”の真実を、その想いが明かされたラストにはちょっぴり感動してしまいました。エースを陰で支えたアシストたる男(主人公)だからこそ、知ることのできた真実。これはもう、ネタバレなし、とにかく読んでもらいたい一作です。

ロードレースの世界にもすんなり…どころかグングン入ってゆけます。近藤氏はデビュー当時からロードレース作家ですか?ってなくらい、しっくり。帯の「気付けば新聞のテレビ欄をめくり、ロードレースの中継を捜していました」という紹介文なんて、まさに頷き。ロードレース、見たくなりますよね。その世界にちょっとだけでも、片足だけでも踏み入れたくなりますよね。

そんな心を熱くさせる一作。このミス5位、本屋大賞2位は伊達じゃない。

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