□十二国記

2006/11/02

『華胥の幽夢』 小野不由美

華胥の幽夢(ゆめ)―十二国記 Book 華胥の幽夢(ゆめ)―十二国記

著者:小野 不由美
販売元:講談社
Amazon.co.jpで詳細を確認する

長編でしか語ることのできない物語があるのなら、

短編でしか語ることのできない物語がここに。

十二国記珠玉の短編集。

“10000HIT御礼 十二国記レビュー”もこの『華胥の幽夢』レビューで終了でございますか。読み始めたら止まらない十二国記シリーズ。頁を捲る手を止めることができずに、レビューだけが遅々として進まないというなんとも申し訳ない結果に終わってしまいまして、大変申し訳なかったです。どこが“御礼”なんだ…自分が楽しいだけじゃないか…という至極真っ当なご意見が聞こえてくる前にレビューを。

この『華胥の幽夢』は十二国記シリーズ(今のところ)唯一の短編集。収録されている作品は「冬栄」「乗月」「書簡」「華胥」「帰山」の5作品です。今回は1作品毎にレビューを。

「冬栄」

舞台は戴国。『黄昏の岸 暁の天』に詳しい戴の惨劇が起こる前のお話。泰麒が幸せの絶頂に居たころのお話。泰麒が笑顔で居られた短い時間のお話。

泰麒は主・驍宗から大任を授けられる。それは“使節として漣国を訪問すること”。驍宗から大役を任せられたことの嬉しさと、驍宗と一時とはいえ離れてしまうことの寂しさの間で揺れ動く心。そんな泰麒の不安を取り除くのは農夫・廉王。

漣国主従、プラトニック過ぎます!!

戴国が舞台と書きましたが、ある意味この作品の舞台は漣国です。廉麟が「本当にもう、困った方ね」と廉王を叱れば、廉王は“子どものように、ごめんなさい”ですからね!のんびり過ぎる!!王様業は仕事ではなくお役目だよと笑う廉王は、美味しい実(野菜)が生ると廉麟が喜んでくれるのがとても嬉しいと泰麒に告白します。廉麟ががっかりするだろうな、と思うと踏ん張って頑張らずにはいられない。自分を見守っていてくれる廉麟の目が一番の励みになると…うわぁ、究極だ。この廉国主従が私大好きです。『月の影 影の海』に登場した功国主従のように、その関係が破綻し切ってしまった国もありましたが、やっぱり王と麒麟は一蓮托生、切り離せないものなのですね。

そして、泰麒の子守(笑)・正頼も私の愛してやまないキャラクタのひとりです。あの泰麒に話しかけるときの優しすぎる言葉遣いが私のツボです。私の妄想の中で正頼は、20代後半で黒髪セミロング、例えて云うなら「アンジェリーク」のセイラン(おぉ、腐女子全開)的なイメージだったのですが、結構なおじいさんらしいですね(よよよ)。そんな正頼の戴国に訪れた災厄の中で生死不明とのこと。お願い、生きていて正頼。

そして、漣国から戻った泰麒に思い掛けないご褒美が。漣国主従に学んだ“自分のお役目”を一生懸命果たそうと誓う泰麒。泰麒が一番幸せだった時間が切り取られた「冬栄」。好きです。

「乗月」

舞台は芳国。慶国で現在下官を務める祥瓊がかつて公主だった国。主人公は祥瓊からかつて「簒奪者」と罵られた月渓と、役人に追われた祥瓊を助けた桓魋。そのふたりが膝をつき合わせて語る主題はやはり…祥瓊。

『風の万里 黎明の空』をお読みの方なら、祥瓊がいかようにして成長し、かつての自分をどれだけ恥じていたかお解かりかと思いますが、その様子を生で見ていない月渓にとってはまさに寝耳に水。信じられるわけが無い。ましてや、祥瓊の大切な父=先王を自らの手で討たねばならなかったことを、未だに悔やみ続ける男なら尚のこと。

でも、私は芳国次期国王に月渓が選ばれるような気がしてならないのですよね!月渓は峯麒が自らの前で膝を折ったときに、果たして「許す」と云うことが出来るのか。云えば完全に王たる地位を簒奪することになると、再び悶々と悩んでしまうのではないかと。そんなことより、麒麟は蝕に巻き込まれ過ぎというツッコミポイントが有ったのでした…。

「乗月」で私の一番好きな言葉は桓魋のこの言葉。

「王が玉座にある朝を日陽の朝だとすれば、王のいない朝は月陰の朝じゃないかな。月に乗じて暁を待つ-」

珠晶の「委細構わず叩き出す」も捨て難いのだけれど。

「書簡」

舞台は雁国。主人公は変なものをついつい拾ってしまう星の下に生まれた巨大ねずみ。楽俊です。陽子との文通が主題のこの作品。陽子にとって大切な、この世界で始めてできた友人だからこそ、空元気を貫き通す。互いに空元気であることはわかっていても、心配させたくない…違うな、頑張る自分を見ていて欲しい、見守っていて欲しいという気持ちでちょっとだけ真実を隠した手紙をしたためる。

雁国の大学に首席で入学した楽俊。「一番で入学して、卒業できた奴はいない」そんな伝説を覆して、自分の新しい道を切り開くために楽俊は耐える。半獣であることで馬鹿にされることもある。書物を齧る…そんな偏見を受けても、いつでも優しくいれる彼。やっぱり、楽俊は最高です。

楽俊が功国の次期国王になる…そんな妄想を膨らましてみたこともありますが、同じ姓の国王が続くことは無いんですよね。もし半獣の彼が国王になったら…朝は荒れるでしょうね。雁国や慶国の後ろ盾があったとしても。そんな中、楽俊はどんな国を創ってゆくのか見てみたい気がします。でも、慶国で冢宰クラスの官吏になるっていうのも…アリですね。

楽俊がこれからどんな成長を遂げるのか。十二国記は成長の物語。坂道を転げ落ちるように出番の減ってゆく彼ですが、いつか彼メインの物語(長編)が読めることを期待しております。

「華胥」

短編集タイトルにもなっている本作。舞台は才国。一国が滅んでゆく姿が描かれた作品です。才国の宝重・華胥華朶はそれを枕辺に差して眠れば、理想の世を、華胥の夢を見せてくれるという。皆に望まれて采王となった砥尚であったが、国は一度も富むことなく沈もうとしている。采麟の夢見る華胥の夢と采国が一度も重なることのないまま。

この「華胥」は若干ミステリテイストです。密室の中発見された死体と、密室から消えた人物。果たして密室から消失を成し遂げた人物がその殺人事件の犯人なのか?十二国記にミステリ的なものは特に求めていないのですが、小野不由美主上はこのミステリの中に国の崩壊と自我の崩壊を投影させたのだと思ってます。

才国は「風の万里 黎明の空」で鈴が助けを求めた国として登場しますが、登場するのは采王・黄姑と采麟だけですので、どんな国なのかいまひとつはっきりしないなかった一国です。この「華胥」では最後にちょっとした驚きが潜んでおります。そうきますかっ!と。このオチで「乗月」レビューで書いた月渓の次期国王説もあるな…と勝手に思ったのですがいかがでしょう?

それにしても、麒麟の失道というのは辛いですね。自らが選んだ王によって、自らの命と精神を失うことになる麒麟。王と麒麟は一心同体、その摂理を再確認した一作です。景麒あたりなら「やはり…」とか憎まれ口を叩きそうなものですが、無垢な少女そのものの采麟があのように変貌してしまう姿は見たくない。現才王・黄姑が華胥華朶を使うことなく、才麟に華胥の夢を見せてあげられることを願いつつ。

「帰山」

物語の舞台は柳国。しかし、登場するのは雁国縁の人物と、奏国縁の人物。共に気の向くまま風の向くまま放浪を繰り返す人物…といえば、あの二人しかおりませんね。名付けて帰山コンビ。

二人は沈みかけた柳国の街で偶然…むしろ必然のように出逢う。そして始まる国の終焉談義。奏国の御仁は云う、雁国が沈むときは「延王がその気になったとき」。民も官も台輔も残らず、徹底的に雁国は無に還る。雁国の御仁は云う、奏国が沈むときは「風来坊の太子が、この世に繋ぎ止められるのに飽いて、宗王を討つ」ときだと。

奏国はまだ笑い話だとしても、雁国は本当に起こりそうで怖いよ!

「死なない王朝はない」と、時々怖くなるという奏国の御仁。「永遠のものなどなかろう」と冷たく云い放つ雁国の御仁。どちらも国の中枢にあって、国が沈むときは自らの命が断たれるとき。その想いが彼らを前に奔らせる。

十二国記は本当にキャラクタが魅力的で、どこの国の主従・官吏も素敵な人間ばかりです。だからこそ国が前に進む、豊かになる、続いてゆくのでしょうが、彼らにもいつか終わりがくることを思うと、いつも胸がザワザワとします。それは、十二国記シリーズにもいつか終わりがくることを惜しむ気持ちと同等。このまま十二国の時が止まれば、彼らはいつまでも終わることなく生き続けるのかと思うと、それを望んでしまう自分もどこかに居るんですよね。本当に不思議な気持ちにさせるシリーズです、十二国記。

そうそう、「帰山」で最後に奏国の御仁が語る慶国の様子にいつも嬉しく思います。奏国の御仁に「今度の慶は、いい感じだ」と云わしめる景王・陽子。やっぱり彼女は良い女王になるよ。

陽子の活躍、泰麒のこれから、愛すべきキャラクタたちとの再会をいつか果たしたときに、またこの“十二国記レビュー”に新たな記事が追加されることを願いつつ。“10000HIT御礼 十二国記レビュー”を締めくくりたいと思います。読んでくださってありがとうございました。また皆様とお逢いできる日を楽しみにしつつ、さようなら。

| | コメント (4) | トラックバック (0)

2006/10/31

『黄昏の岸 暁の天』 小野不由美

黄昏の岸 暁の天―十二国記 Book 黄昏の岸 暁の天―十二国記

著者:小野 不由美
販売元:講談社
Amazon.co.jpで詳細を確認する

泰王登極わずか半年にして、戴国に起こる惨劇。

反乱鎮圧に向かった地で行方知れずとなった驍宗、その後を追うように泰麒までもが姿を消す。

隻腕の将軍が最期に頼ったその人とは…慶国新女王・陽子。

泰麒にあの木漏れ日のような微笑をカムバック!!

はぁはぁ、ぜぃぜぃ。なんかもぅ、お姉さんは切ないです。『風の海 迷宮の岸』で悩み苦しんで、ようやく唯一無二の王を選びきった泰麒。そんな泰麒の幸せが半年足らずで終焉を迎えようとは。

驍宗が反乱鎮圧に向かった先で行方不明に…そんな悲報に幼い胸を痛める泰麒に忍び寄る魔の手。驍宗ならびに泰麒に手をかけ、王座の簒奪を企む者が。そんな悪意から己の身を守るために、泰麒はこれまで起こすことのできなかった蝕を起こす。鳴蝕-麒麟の悲鳴が起こす最小の蝕を。

王も麒麟も居ない国の政治が軌道に乗るはずも無く、簒奪者の手によって荒廃の一途を辿る戴。そんな戴を見ることが、戴のために何もできない自分が、なにもかもが歯がゆくて、最愛の友と共に決死の覚悟で慶国・金波宮まで辿り着いた戴国将軍…それが李斎。李斎の望みはただ一つ、かつての戴を取り戻すこと。

その望みを叶えるため、李斎は陽子にひとつの罪を唆す。軍を他国に侵入させる-覿面の罪を。覿面の罪は国氏(国の号)すらをも変えさせるほどの大罪。もちろん、王も麒麟の命も…無い。胎果であり、王様業の経験も浅い陽子はその故事を知らず…って、そこは長寿なことだけが誇り・雁国主従がいつものように仲睦まじく、唐突に起こしになられて陽子を止めるのですが。

王がすべきことは、まず自国を着実に導くこと。王の登極間もない慶国に他国を救う余裕はなく、陽子が悩んだ末に出した結論とは…十二国が団結し蝕によってあちらの世界に流れ着いた泰麒を捜索すること。麒麟であれば最小の蝕を起こすことができ、麒麟の気配を感じることもできる。まさにナイスアイディアなのですが、こちらの世界では十二国が共同でなにかをするという習慣そのものがありません。そこは胎果出身の陽子の柔軟な思考が物を云います。「所詮は他国のこと、なるようになれ、というわけだ?」という超ドS発言で延王を挑発し、なんとか重い腰を上げさせることにも成功します。

あちらの世界では泰麒がどのような生活を送っていたのか。そのあたりは『魔性の子』に詳しいのですが、それは本作とはまた別の話。『魔性の子』は読むのが本当に辛いんですよね。いつかきちんとレビューしたいと思ってます。

さて、物語の骨子は以上のような感じです。ここからは本作初登場の各国主従について書きましょうかね。

まずはナルシスト主従・範国。いやぁ、範国主従は最高ですね。自分の気に入った召し物が揃わないと着替えなんてしてやらないっ!と駄々をこねる氾王(注意:男)。そして、氾王に嬌娘(ひめ)と可愛がられ、温室育ち我侭放題の氾麟。雁国主従なんて山猿小猿呼ばわりですからね。最強です。

そして漣国。今回廉王は畑仕事が忙しくて参加できなかったのですが(笑)、最愛の廉麟を今回の大事業に遣わしてくれました。廉国主従はあんたら中学生かっ!ってなくらいピュアラバーなのですが、そんな廉麟に延王の魔の手が。尚隆、あんた廉麟くどいたね?くどいてるね?そんな尚隆も廉麟ののろけにやられて一発ノックアウトです。「私たちは、王がお側にいなければ生きていられないのですもの」「王のものなんだもの…」こうまで云われて引き下がれなかったら尚隆、男じゃないです。

そんな各国主従の協力もあって、ようやく泰麒を発見。泰麒を迎えに行く大役を買って出たのは…傷心の尚隆。「泰麒、と言って分かるか」と強き光をもって手を差し伸べる尚隆。もう二度と戻ることはないと誓ったかの地に、因果によって戻ってきてしまった尚隆。彼は弔いに代えて軽い目礼を…

やっぱり、キメることろはバキッとキメますね、尚隆。

そして、麒麟としての力と長い月日を失いながらも戻ってきた泰麒。泰麒は李斎と共に戴国へと戻ることを決意する。なにもできない麒麟であっても、戴国国民に希望の光を与えることができるなら…と。泰麒の生活はこれまでの充分苦しいものでありましたが、ここからが泰麒の正念場。これからもっと苦しい道が彼の前には敷かれているのでしょう。早く驍宗に出逢えると良いね、泰麒。

最期に、私が『黄昏の岸 暁の天』で最も好きなシーンを紹介しましょうか。それは421頁、世の中すべてが憎いのではないかと思わせる浩瀚の長台詞。あまりの長さに引用するのは避けますが(というか、したくない)きっと浩瀚はこれを息継ぎ無しに云ってのけるのでしょう。あれだけ捲し立てられて「何か間違っておりますか」と聞かれたからって「間違ってるよ、あんた」と云えるほどの度胸は、陽子にもなかった模様です、はい。ただ、この長台詞で一気に私の心を鷲掴みした浩瀚はやっぱり間違ってなかったのだと思います。

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2006/10/30

『図南の翼』 小野不由美

図南の翼 十二国記 講談社文庫 Book 図南の翼 十二国記 講談社文庫

著者:小野 不由美
販売元:講談社
Amazon.co.jpで詳細を確認する

先王の死から27年。

徐々に荒廃してゆく恭国を救うため、蓬山を目指した珠晶は弱冠12歳。

少女を駆り立てるその想いとは?そして最後に供麒が跪いた相手とは?

十二国記シリーズ第5作目『図南の翼』は、恭国が舞台。恭国といえば『風の万里 黎明の空』で供麒を引っ叩いた(笑)幼い女王が統治する国です。十二国広しといえども、麒麟を素手でぶっとばす王の居る国はこの国くらいでしょう。慶国も将来そうならないとは云い切れませんけれども…。

『図南の翼』主人公である珠晶は若干12歳。先王の死から27年の時が経ち、王の居る時代を知らない子どもです。珠晶は豪商の娘として生まれ、なに不自由無く暮らしてきた、そしてこれからも苦労することなく暮らしてゆけるであろう少女。そんな少女が蓬山を決意する。幼い胸に芽生えたその想いには、どんな真相が潜んでいるのか。

まず、『図南の翼』を語る上で欠かせないのが蓬山へ昇山するということの意味。『風の海 迷宮の岸』で驍宗様や李斎が昇山してきますが、彼らは剛の者。せっかく蓬山まで来たんだから、騶虞でも捕まえて帰っか!という強者だったため、昇山の辛さや厳しさがどうにも伝わってこなかったのですが、この『図南の翼』では蓬山に昇るということがどれだけ過酷なことなのか、死を覚悟して挑まなくてはならない道だということを知らされます。蓬山(黄海)には道は無い…たしかに歩くための平らな地面はあるけれども、そこには休むための宿や街が存在しない。そんな道なき道を進む珠晶たちに立ち塞がるのは…妖魔。

そんな過酷な黄海であっても、その黄海を知り尽くし、昇山する王候補たちを導くことを生業とする者が居ます。それが剛氏。彼らは黄海を行く上でどこが危険なのかを知り、依頼主をその危険から守る。仕事の無い時期には蓬山までの道を歩き、道なき道であっても決して消えてしまうことのないように手を入れる。しかし、剛氏は決して自分の依頼主以外は助けようとしません。なぜ剛氏は皆を助ける知識を持っているのに、それを伝え、一緒に危険を回避しようという心積もりがないのか。その理由を仕事があがったりになるから…としか思えない珠晶はやはりまだ幼いのでしょう。

そして剛氏と同じく黄海で生きる一族・朱氏。剛氏と異なるのは、朱氏は黄海で騎獣として扱うことのできる妖魔を狩ることを生業としています。人身売買で売られた子どもや、親を失った子どもが朱氏となる。その由来は朱い旅券を持ち、もう二度と自分の生まれた土地には戻らない戻れない決意をすることから、朱氏と呼ばれます。国を持たない一族は一族同士で結束するしかない。そんな孤独を抱えた朱氏と珠晶が出逢った場面からこの『図南の翼』は始まります。珠晶が蓬山までの護衛として雇ったのが朱氏・頑丘。この頑丘が良いんです。無口で必要なことしか…むしろ必要なことすらも語らない頑丘。そんな頑丘に頼るしかない珠晶、それが不本意で堪らない珠晶。このふたりの関係がラストにどうなるのか?それが『図南の翼』の見所のひとつ。どんなに生意気でも、苛々させられても、なぜか眼の離せないオーラを放つ珠晶は一体何者なのか?

そして、頑丘と共に珠晶の蓬山への道程を手助けする謎の男・利広。

利広好きです♪

巨大ねずみに三官吏に利広に…あんたはどれだけ浮気性なの?というお言葉が矢のように突き刺さっておりますが、気にしない気にしない。ちなみに今回の再読で最も私の中で株の上がったキャラは浩瀚(主に『黄昏の岸 暁の天』で活躍?)だったりします…って増えてんじゃんか!?

って、利広の話です。利広は幼い珠晶の昇山を止めるでもなく、むしろノリノリ。しかも、蓬山まで珠晶が辿り着けば、彼女が王になって登極するだろうという確信を持っている。そして、珠晶が王になった暁には自分と出逢ったことに意味が発生するという意味深なお言葉。貴方、何者ですか?実際のところ、大物だろうなぁとは思っておりましたが、あそこまで大物だとは思っていなかったのですよ。そうだよねぇ、12歳の女王じゃ、朝廷が荒れるに決まっているものねぇ。そこに利広がバキッと…登場できるのかは疑問ですが、彼の後ろにあるものはとにかくでかいですからねぇ。と、私も意味深な言葉を吐いてみる。とにかく、あの飄々としていながらも腹黒いめちゃくちゃ黒い彼に、私はノックアウトでございます。

そして、犬狼真君の登場。この犬狼真君も謎な人物なのですが、別れの場面で明かされる彼の名前を聞くだけで、ばぁっと世界が広がります。うわぁ、小野不由美主上そこまでやってくれますか!という感じ。彼はまだ黄海で彼の国が彼の望む姿になるのを待ち望んでいるのですね。本当に嬉しく思う。ただ、昔よりも性格悪くなりましたか、真君?アニメ版では『風の海 迷宮の岸』に登場したように記憶しているのですが、アニメ版の青みを帯びた黒髪が素敵でした。

真君と別れた後、珠晶に待ち受けているのは…麒麟との邂逅。あんなに自信たっぷりに「王になる!」と宣言していた珠晶も「どうして、麒麟が来るのよ…!?」と困惑気味。「私は奏の生まれだからね」これは利広。「俺は柳の生まれだ。ちなみに駮はおそらく黄海の生まれだと思うぞ」これは頑丘。それでも尚、戸惑う珠晶に「天神、麒麟まで巻き込んでおいて、いまさら何を言う」「-行け」と声をかけ、背中を押す頑丘。この暖かい三人の関係に、ぐっときてしまいます。みんな珠晶が好きなんだなぁって。そして、十二国記屈指の名台詞がこちら!

「-だったら、あたしが生まれたときに、どうして来ないの、大馬鹿者っ!」

ファーストコンタクトから平手打ちだもん、やっぱり恭国主従は素敵ですね☆でも、主上が赤ん坊だったら…これはネタ(笑)

というわけで、一国を巻き込めるだけの運の強さを持っていなければ王たる資格は無い。

羽搏いて旋風を起こし、弧を描いて飛翔する。雲気を絶ち、青天を負い、そして後に南を図る。南の海を目指して。
その鳥の名を、鵬という。
大事業を企てることを図南の翼を張ると言い、ゆえに言うのだ、王を含む昇山の旅を、鵬翼に乗る、と。

そう、それも悪くないね、頑丘。

| | コメント (4) | トラックバック (0)

2006/10/29

『風の万里 黎明の空』 小野不由美

風の万里 黎明の空〈上〉―十二国記 Book 風の万里 黎明の空〈上〉―十二国記

著者:小野 不由美
販売元:講談社
Amazon.co.jpで詳細を確認する

天命により慶国女王となった陽子。

しかし、胎果出身の陽子は、文字も制度も世界のあらましすべてがわからない。

わからないまま傀儡の王となって慶国を統べることになってしまうのか?

○日ぶりのレビュー更新…言い訳は致しますまい。この『風の万里 黎明の空』も読了してから一週間以上経過しておりますが、頑張ってレビューしたいと思います。

さて、この『風の万里 黎明の空』には3人の少女が登場します。『月の影 影の海』で慶国女王に即位した陽子。陽子と同じく虚海を越え、こちらの世界へと流されてしまった鈴。そして芳国公主でありながら、父の暴虐を知ろうともしなかった祥瓊。『風の万里 黎明の空』はこの少女たちの成長の物語です。

ここで激白するのなら、上巻の鈴と祥瓊については

とにかくいけ好かない小娘です。

鈴の不幸自慢と祥瓊の簒奪者への恨みつらみには、正直虫唾が走ります。確かに虚海を越え、言葉もわからない知人も頼れる人も居ない鈴は不幸です。でもね、妖魔に父親が喰われる様でも看取れたあんたは幸せよ-といけしゃあしゃあと云ってのける、その歪んだ精神が気に食わない。そして、公主としての責任を果たすことなく、ただ美しいものに囲まれ幸せに暮らすことが当たり前だと思っていた祥瓊も気に食わない。学生時代、義務と権利について教え込まされましたが、まさにそれですよね。公主としての権利は存分に行使するけれども、義務は負わない。負わないどころか、そんな義務があることすら知らなかったというのですから。

そんなふたりがそれぞれの思惑を持って慶国へ向かう。方や同じ海客である景王なら自分を哀れんで助けてくれるかもしれないという希望を持って、方や自分の失った地位や財宝をあっさりと手中に納めた景王への恨みを抱えて。その旅中に出逢うふたりの人物もまた、この物語のキーパーソンです。

不幸自慢・鈴が出逢うのは慶国の難民であり、前述の家族を妖魔に喰われた少年・清秀。清秀に出逢い、不幸自慢を繰り返していた自分が恥ずかしいものだと気づき始めた矢先に事件は起こります。妖魔に襲われた傷が原因で、視力が極端に落ち込んでいた清秀が馬車に撥ねられる。撥ねられた清秀を見ても、慶国・和州の民は知らんぷり。それは、その馬車が止水の郷長・昇紘の馬車であり、彼に楯突けば自分の首もまた撥ねられることを知っているから。悲しみに暮れる鈴の中に芽生えたのは、郷長・昇紘への恨みと、昇紘のような役人をのさばらせておく景王への怒り。そこから、鈴は昇紘への反乱を企てるグループへの参加を決意します。

そして、祥瓊が出逢うのは困った人間を拾わずにはいられない星の下に生まれた巨大ねずみ・楽俊です。無事雁国の大学に主席で入学し、延王直々に傾きかけている柳国の視察を以来された楽俊。柳国の宿で同室になった祥瓊に盗人の罪を着せられた楽俊ですが、そこは雁国冢宰の裏書した旅券を黄門様の印籠の如く、バキッを見せ付けて難を逃れます。そして、慶国に行きたいという祥瓊の素性をも受け入れた上で一緒に旅をする…

楽俊ってのは、本当に良く出来た巨大ねずみですね!

だったら、巨大ねずみとか云ってんじゃないわよ、貴方。とにかく、楽俊から公主の義務がなんたるかを教えられ、自分を恥じる祥瓊。そして、慶国・和州で行われていた公開処刑の場で、芳国でも同様の処刑が日常的に行われていたことを止められなかった自分への戒めも含めて、石を役人に投げつけるという暴挙に出る祥瓊。当然、祥瓊も役人に追われる羽目になり、その場を助けてくれた男の下に身を寄せることとなります。

そんな中、景王・陽子は金波宮を離れ、和州に程近い里家で遠甫という老人の下でこの世界のあらましを学んでいる最中でした。着実に知識を吸収し、成長を果たしていたある日、遠甫が誘拐されるという事件が発生。やっぱり陽子にトラブルは付きもののようです。そして、その誘拐犯の影を追っているうちに…鈴と祥瓊、その仲間たちと合流します。

景王であるという素性は隠して。

ここが最高なんですよ。王が反乱軍に参加しているとは知らずに、王の直属の軍である禁軍を勝手に動かしたのは誰なのか。すっかり反乱軍に馴染んだ陽子が、実は王だったと知ったときの仲間たちの反応はどうなのか。そして、景王へのいろんな想いを抱えて慶国までやってきたふたりの少女は、陽子に出逢いどんな言葉をかけるのか。ここからはダイジェストで印象深いシーンを幾つか。

①景麒に跨り、禁軍に前に立ちはだかる陽子

「お前たちの主はいつから靖共になった!靖共のために拓峰を攻めるというなら、禁軍全てを反軍とみなすがよいか!!」と、禁軍将軍をも萎縮させる程の覇気を持って宣言する陽子。というか、血まみれの姿で景麒を騎獣扱いするだなんて…

陽子って素敵☆

やっぱり陽子はドSだわ。まぁ、あの場では景麒に跨ることが出来る=景王という図式を示すことが一番効果的だったわけですが、だからってねぇ?血を忌み嫌う麒麟に「死ね!とまでは云わん、病め!」ってことですからね。そんなに景麒が憎かったですか…。

②陽子が景王であると仲間たちに宣言する鈴&祥瓊

鈴&祥瓊、というか祥瓊が素敵なんですよね。「我が芳国は先の峯王が公主、祥瓊と申す。-一国の公主が王に面識があってはおかしいか。我の身元に不審あれば、芳国は恵候月渓に訊くが宜しかろう。先の峯王が公主、孫昭をご存知か、と」あぁ、祥瓊、そんな立派な啖呵斬れたんですねぇ。若干嘘が混じってますが(公主を追われた後に景王が建っているとか、いま月渓に照会されたら一発で捕まるとか)あの場で、堂々と公主たる自分を宣言できるっていうのが祥瓊の成長の印です。えっと、鈴は…采王の御名御璽ってのは確かにすごいんですけれど、虎の威を借る狐状態なもんで。でも、鈴だってとっても成長しましたのよ!

③陽子・感動の初勅

勅命とは王直々に宣下する法律。そのなかでも初勅はこれから王がどんな国を作ってゆくか、どう国を導いてゆくかを端的に現すと云われてます。遠甫の下に陽子が身を寄せるようになったのも、その初勅がなかなか決まらなかったからなのですが、此度の反乱軍参加で陽子は自分の初勅を見つけてまいりました。その初勅は「伏礼を廃す」。ちょっと長いけど引用します。

「地位でもって礼を強要し、他者を踏みにじることに慣れた者の末路は昇紘の例を見るまでもなく明らかだろう。そしてまた、踏みにじられることを受け入れた人々が辿る道も明らかなように思われる。人は誰の奴隷でもない。そんなことのために生まれるのじゃない。他者に虐げられても屈することのない心、災厄に襲われても挫けることのない心、不正があれば糺すことを恐れず、豺虎に媚びず-私は慶の民にそんな不羈の民になってほしい。己という領土を治める唯一無二の君主に。そのためにまず、他者の前で毅然と頭を上げることから始めてほしい」

うわぁ、感動やね。この直前の「(他者に頭を下げさせなければ安心できないような)そんな者の矜持など知ったことではない」も最高なんですが。陽子ドS…じゃない、

慶国はきっと良い国になるよ…。

慶国の行く末を暖かく、ずっと見守って行きたいと思います。

風の万里 黎明の空〈下〉―十二国記 Book 風の万里 黎明の空〈下〉―十二国記

著者:小野 不由美
販売元:講談社
Amazon.co.jpで詳細を確認する

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2006/10/16

『東の海神 西の滄海』 小野不由美

東の海神 西の滄海―十二国記 Book 東の海神 西の滄海―十二国記

著者:小野 不由美
販売元:講談社
Amazon.co.jpで詳細を確認する

-国が欲しいか-

疲弊し、痩せ細った雁国にもようやく緑が見え始めたころ、国内で発生した反乱。

六太の問いに「任せろ」と応えた延王・尚隆はこの危機を脱することはできるのか。

十二国の中でも賢帝と呼び声高い雁国の、長い歴史はここから始まった。

初読の際に「今度こそ王になった陽子の話にちげぇねぇ!」と意気込んで手に取った『東の海神 西の滄海』でございますが、期待に反して登場したのは延王・尚隆でございました。それだって、抜群におもしろかったんだから十二国記はやっぱりすごい。

『月の影 影の海』で陽子が雁国を訪れた時に既に延王の治世は500年以上続いており、その豊かさは陽子だけでなく楽俊をも驚かせましたが、そんな雁国も最初から豊穣な国だったわけではありません。先王(梟王)の死去から新王(尚隆)が登極するまでに、14年もの月日を要し、疲弊し、荒野と化していた雁国。そんな雁国を自ら欲し、導いていった尚隆と六太の物語がこの『東の海神 西の滄海』でございます。

500年もの長きに亘り、一国を治められるなんて、延王ってどんなに有能なの?と御思いの方もあろうかと思いますが…

雁国は有能な官吏でもっていると云っても過言ではございません。

あぁ、猪突に無謀に酔狂に。この3官吏が私、大好きです!登極間もない尚隆に戸籍を投げつけ、「(尚隆が登極するまでの)八年の間にどれだけの民が死んだか、その目で確かめろ」と食って掛かった猪突。尚隆に「すでに諡は用意してある。興王と滅王がそれだ。あなたは雁を興す王になるか、雁を滅ぼす王になるであろう。そのどちらがお好みか」と、王と会話することも許されない府官でありながらも挑発の言葉を口にした無謀。先王に諫言し牢に捕らえられたが、王によって投獄されたのだから王の赦免がなければ牢からは出ない、と錠のかかっていない牢に50年近く居座り続けた剛の者・酔狂。この3官吏が雁国を影で…というか表立って支えております。

この3官吏コンビが(くどいようですが)私、大好きでね!

王に向かって「莫迦」「痴れ者」「昏君」と暴言を吐き、しまいには「置物」呼ばわりです。でも、そこにあるのは信頼なんですよねぇ。我等が王(尚隆)は普段はちゃらんぽらんだけど、やるべきところではきちんとやってくれるに違いない-という信頼と、王たる自分が多少遊んでいても奴等に任せておけば国はしっかりと前に進んで行くだろう-という信頼。だからって、賭博場で一文無しになって、下働きに精を出して良いってわけじゃないんだけれどね(とんでもない王様だ)

そして、『東の海神 西の滄海』を語る上で外せないのが更夜。新王が登極するまでの疲弊した雁国で少しでも食いぶちを減らそうと崖から突き落とされた子ども、それが更夜です。更夜は妖魔に拾われ急死に一生を得ますが、国がどれだけ豊かになっても妖魔と人間が相容れることはできません。そんな悲しみを背負った更夜を救ったのが、尚隆に対して反旗を翻した元州令尹の斡由。斡由は更夜に命じて延麒である六太の誘拐を企てる。そこからこの物語は始まります。

妖魔の子どもとして迫害を受けてきた自分を救ってくれた-という恩義から、唯一の友人である六太の誘拐をも引き受けた更夜。そこには深い悲しみが横たわっています。でも、尚隆の「俺はお前に豊かな国を渡すためだけにいるのだ」という言葉に心を打たれます。妖魔も人間も関係なく、幸せに暮らしてゆける国。自分のように捨てられる子どもの居ない国。更夜が望んだ国はそんな国です。尚隆にならそんな夢を、希望を託せるかもしれない。

そして、尚隆も更夜のそんな願いを引き受けます。更夜の望む国を作るためには長い月日がかかるから…と、更夜を仙籍に残したまま、見ていてくれと別れを告げる尚隆。

尚隆、やっぱりやるじゃん!!

「のんき者ではあるが、莫迦ではない」尚隆。治世が500年を超えた今であっても、まだその約束は果たせたとは云い切れません。この約束が果たされるまで、尚隆の闘いは続くのです。そして、それを黄海から見守り続ける更夜の闘いも。『図南の翼』で犬狼真君が登場したときには嬉しかったなぁ(ネタバレです。余談です)

というわけで、与太者・尚隆の熱い想いを知ることのできる一作。そして、悪態をつきながらも尚隆を心から信頼している六太。この信頼関係を、陽子と景麒にも学んでもらいたいと願いつつ、次巻こそ陽子の物語。

そうそう、『東の海神 西の滄海』で私の号泣ポイントは180~184ページです。今日、カフェで読書しながら泣いている女を北海道で見かけた方、もしかしたらそれは私だったかもしれません。公共の場で…泣いちゃった!

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2006/10/15

『風の海 迷宮の岸』 小野不由美

風の海 迷宮の岸―十二国記 Book 風の海 迷宮の岸―十二国記

著者:小野 不由美
販売元:講談社
Amazon.co.jpで詳細を確認する

天啓を受け、国の主たる王を選定する定めを負った神獣・麒麟。

戴国の黒麒麟・泰麒は蝕により蓬莱に流され、十年ぶりに蓬山に戻ってきたばかり。

幼い泰麒は天啓を持った王を選ぶことができるのだろうか?

10000HIT御礼十二国記レビュー第二弾『風の海 迷宮の岸』レビューをお送りいたします。

十二国記初読の際には、てっきり王となった陽子のその後の話が読めると思っていたので、肩透かしをくらった恰好になった『風の海 迷宮の岸』。それだって、一気に物語に惹き込まれたものですが。

この『風の海 迷宮の岸』は陽子と同じく、蝕に巻き込まれ蓬莱(日本)に流されてしまった胎果出身の黒麒麟・泰麒が主人公です。蓬莱では友だちを作ることも、家族に馴染むこともできず、常に違和感を持ちながら生きてきた泰麒。そんな泰麒が蓬山に戻り、本来の自分、自分の生まれてきた意味を知る物語です。

第一作『月の影 影の海』では語られることのなかった、十二国の摂理がこの『風の海 迷宮の岸』では存分に説明されているので、ひとつの物語として読むことはもちろん、「十二国記シリーズ」における資料としての役割も果たします。特に、麒麟と王との関係性についての記述がばっちり。

蓬山生まれの麒麟ならば、生まれながらにして可能である“転変”や“折伏”ができないことに悩む泰麒。何もわからない幼い自分に、本当に良く尽くしてくれる女仙たちに喜んで貰いたい気持ちが膨らめば膨らむほど、焦る気持ちも膨らんでゆき…。そんな泰麒を救う役目を果たすのが、不良麒麟・高飛車麒麟・威圧的麒麟・景麒(笑)です。

Photo_1





















自分で描いててなんなんですが、ぶっさいくですね。景麒になくてはならない“眉間のしわ”を描いてたときが一番楽しかったです。

そんな眉間にしわを寄せ、眼からコールドビームを発する麒麟・景麒(なんだ?そんなに景麒が嫌いか?いやいや、好きだからこそ虐めたくなるのです)が、段々と泰麒の愛らしさにノックアウトされる様が『風の海 迷宮の岸』前半の見所です。

後半はいよいよ、泰麒の王選びがスタート。州軍将軍として名高い李斎や、禁軍将軍であり次期国王の呼び声が最も高かった驍宗を見ても“王気”を感じることのできない泰麒。「中山までご無事で」と声をかける日々が続きます。そして、いざ驍宗が下山をすることが決まったときに、泰麒は罪を犯す。

王ではない者を王に据えるという罪を。

もう驍宗に逢えない、驍宗と離れたくない、驍宗の側に居たい。その気持ちを抑えることができずに、驍宗は王では無いと感じながらも膝を屈する泰麒。いつ自分は裁かれるのか、自分の罪が暴かれるのはいつなのか、あんなに離れたくないと思った驍宗の側に居ても、ちっとも笑うことのできない泰麒。

なんかもう、可哀想で可哀想で。蓬莱育ちというハンデを背負うだけでなく、珍しい黒麒麟であったがためにそれだけで注目を浴びる泰麒が痛々しくて。そんな泰麒が自分の犯した罪を初めて告白する場面。その相手は…冷血漢・景麒!

景麒は泰麒から驚きの告白を聞かされ、どんな言葉をかけてやることもできずにその場を去ります。なんか云ってやれよ(怒)そんな景麒が泰麒の前に連れてきたのが悪ノリ大将・延王尚隆。延王は泰麒に叩頭礼を強います。麒麟は自分の王以外には、決して膝を折らない生き物。その麒麟に叩頭礼を強要し、礼をしたくともできない泰麒に「含むところでもあるのか」と詰め寄る延王。

アンタは悪魔か!?

あぁ、私もすっかり泰麒贔屓に。でも、悪魔・延王のおかげで泰麒は救われます。“麒麟は自分の王以外には決して膝を折ることができない”ということを身を持って知ったのだから。そう、泰麒は間違ってなかった。泰麒はしっかりと自分の役目を果たしていたのです。感動の一幕。

結局は泰麒に思わせぶりな言葉だけを残し、“王気”がなんたるかをきちんと伝えていなかった景麒が要するに悪いわけ。

アンタ(景麒)の無口さ加減が生んだ悲劇かよ!

アンタ(景麒)なんて、裸で御前に参上し、陽子に鼻で笑われなさい!ふん。

というわけで、『風の海 迷宮の岸』は辛い想いを経験し、一段も二段も成長した泰麒の物語です。そして、泰麒が最も幸せだった時のお話。これからの泰麒に待ち受ける悲劇はこんなもんじゃない。景麒の所為にできるうちが華なのです。

小野不由美主上、「十二国気シリーズ」は陽子ものの長編があと2~3作あるという噂を耳にしました。陽子ものの長編はもちろんもちろん楽しみなのですが、泰麒の物語にもきちんと終焉を迎えさせてくださいね。できれば泰麒の春のような笑顔をもう一度。

| | コメント (2) | トラックバック (0)

2006/10/14

『月の影 影の海』 小野不由美

月の影 影の海〈上〉十二国記 Book 月の影 影の海〈上〉十二国記

著者:小野 不由美
販売元:講談社
Amazon.co.jpで詳細を確認する

-ゴゼンヲハナレズチュウセイヲチカウトセイヤクスル-

謎の男・ケイキのこの言葉に「許す」と答えたときから、女子高生・中嶋陽子の運命は激しく廻りだす。

小野不由美が描く十二国記浪漫、ここに開幕。

何度読んだって、いつ読んだって、泣いちゃうんだから!

ようやく開幕を迎えました“10000HIT御礼 十二国記レビュー”。右サイドバーで一方的かつ乱暴に投げかけておりました(現在は取り外しております)“読みたいレビュー”アンケートで、1位に輝きました十二国記レビューを10000HIT御礼として開始したいと思います。終幕までそんなに時間はかからないと思われます。だって、

何度読んだって、いつ読んだって、おもしろいんだから!

「十二国記シリーズ」は小野不由美主上の描く、成長と友情のファンタジーです。倭から月の影を通り抜け虚海を越えて辿り着いた先には、人道を具現化した麒麟と、麒麟が選んだ王が治める十二の国が。天命を持って王座に座す王は、その国と国民を守り、導く使命があり、十二国の一国・慶を統べるべく慶国の麒麟に選ばれたのが、中嶋陽子、本作の主人公です。

始めはわけもわからず、いつだって威圧的な(笑)景麒に拉致された恰好の陽子。「御前を離れず、詔命に背かず、忠誠を誓うと、誓約申し上げる」というあの、有名な台詞にたじろぐ陽子に、

「許す、とおっしゃい!」

と、ぴしゃり。景麒、貴方誰の麒麟よ?「愚かな!」「聞き分けのない」はまだしも、「私としてもこんな主人は願い下げだが、こればかりは私の意のままにならない」とは、なんたる不良麒麟(笑)いまなら景麒の不器用さを知っている私も、初読の際は「なんじゃ、この男!?」と苛っとさせられました。

襲ってくる妖魔から逃げ切ることができずに、景麒ご一行とはぐれ、独り孤独と戦う陽子。人を信じては裏切られ、遊郭にまで売られそうになり、もう希望も夢も未来も思い描くことのできなくなった陽子が出逢ったのが半獣・巨大ねずみ・楽俊です。

楽俊・LOVE!

ねずみ姿の楽俊の愛らしいことったら無いですNE!どんなドシリアスな場面だって、楽俊の髭がそよそよとそよげば、楽俊のしっぽがふりふりと揺れれば、にんまりとしてしまう楽俊フリークの私。垂涎、じゅるじゅる。『月の影 影の海』は下巻がもう感動の嵐で、何度読んだって号泣してしまうのですが、最初の号泣ポイントは雁国・烏号で楽俊と再会する場面です。

「おいらは陽子に信じてもらいたかった。だから信じてもらえりゃ嬉しいし、信じてもらえなかったら寂しい。それはおいらの問題。おいらを信じるのも信じないのも陽子の勝手だ。おいらを信じて陽子は得をするかもしれねえし、損をするかもしれねえ。けどそれは陽子の問題だな」

たっぷり引用させていただきましたが「殺そうと思った」と告白されて、こう云ってやれる楽俊はすごい。半獣として生まれ、上庠に進学することも、正丁として認めてもらうことも、田圃すら与えられず、ただただ辛い想いばかりを経験してきた楽俊。そんな楽俊が海客として途方に暮れる陽子を、真からの善意で助けてあげられるなんて。楽俊と出逢ったことが、陽子にとっての最大にして最高の奇跡です。

そんな楽俊と陽子も、陽子が慶国の王だとわかるとぎくしゃく。この場面が最高なのだよ!改まり、畏まる楽俊に陽子がかける言葉。ふたりの距離を一気に縮める言葉。

「楽俊はわたしを海客だからといって差別しなかった。なのに王だと差別するのか」
「わたしが遠くなったんじゃない。楽俊の気持ちが、遠ざかったんだ。わたしと楽俊の間にはたかだか二歩の距離しかないじゃないか」

そう云う陽子に心を打たれる楽俊。そして楽俊が発する言葉は、

「……おいらには三歩だ」

うぉぉぉぉぉぉ!感動!超感動!ダメだよ、もう前が見えないよ。このシーンは思い出しただけで涙が出てきます。感動し、(ねずみ姿の)楽俊を抱き締める陽子。ここで楽俊が陽子にかける、

「お前、もうちょっと慎みを持ったほうがいいぞ」

も最高。いや、素っ裸で往来をうろうろする楽俊もどうかと思うのですが…それはまだ陽子の知らないこと。

その後、延王・尚隆に保護され、玄英宮に案内される陽子。ここで陽子は“王になるかならざるべきか”を問われることになるのですが、このとき黙りこくっていたジュウユウ(冗祐)が主命に背き、陽子に声をかけます。

-王座を望みなさい。あなたになら、できるでしょう。

いつも独りだった陽子とともに、陽子をいつも見つめていたジュウユウの言葉だからこそ重い。主命に背いてまで陽子に伝えたかったその言葉こそが真実です。あぁ、ここでも号泣ですよ。ジュウユウ最高!それがまるでホイミンのような姿であっても(笑)

そしてラスト。延王の助力を得て、景麒を奪還する陽子。成長した陽子を見て、「本当にお変わりになった」と息を呑む景麒。そして二度目の誓約。薄く笑い「-許す」と陽子が決意したところで『月の影 影の海』は終焉を迎えます。でも、陽子の本当の戦いはここからなのですよ!あぁ、だから十二国記は止められない!!

ダメだ、もう力尽きた。とにかく最高、十二国記。

そうそう、私は一番笑ってしまう台詞で『月の影 影の海』レビューを締めくくりましょうか。

「振り向くなよ。今ちょっと障りがあるからな」

楽俊、やっぱりLOVE!!

月の影 影の海〈下〉十二国記 Book 月の影 影の海〈下〉十二国記

著者:小野 不由美
販売元:講談社
Amazon.co.jpで詳細を確認する

| | コメント (4) | トラックバック (1)