■横山秀夫

2007/03/27

『震度0』 横山秀夫

震度0 Book 震度0

著者:横山 秀夫
販売元:朝日新聞社
Amazon.co.jpで詳細を確認する

大震災の朝、N県警を襲った激震。

警務課長の失踪は事故か事件か?

保身と野心が渦巻く県警幹部の密室劇がいまここに開幕。

“おもしろい本がどうしても読みたくなったときのストック”として大事に大事に暖めておいた横山秀夫氏の作品にとうとう手を付けてしまった…そんなに『暗黒館』ショックは根深いのか、自分。でも、

やっぱり最高です、横山作品。

横山作品にハズレなし。この確信がより一層強いものとなりました。本作『震度0』は、警務課長の失踪をトッピングにした警察内部のどろどろ権力闘争のお話です。こういうどろどろ野心劇は主に女性の得意とするところなのですが、なかなかやります男性陣。

この密室劇の主役は警視正6名。キャリア2名、準キャリ1名、ノンキャリ3名が繰り広げる駆け引き!裏切り!!足の引っ張り合い!!!嗚呼、なんて心地良い響きなんだ。ちなみに、私が心のどこかで応援してしまったのはコドモ部長=キャリアの冬木警視正です。

もう、警務課長(不憫・不破氏)の失踪そっちのけで、誰がこの権力闘争に勝利するのかに熱中してしまいました。選挙違反摘発?ソバージュの女?ノン!ノン!ノン!!もはや“失踪の真相”ではなく“闘争で勝ち残るためのツール”に化してしまった情報たち。情報をどう活かすか、どう操るか。6名の警視正たちの“遊び場”と化してしまったN県警。でも、そんな彼らを嘲笑うかのように常に流れるものがある…それはテレビです。

テレビで流れる阪神淡路大震災の情報。激震と云われるマグニチュード7。多くの死者を出した惨劇が彼らには…見えない。“情報”で遊んでいたつもりが、“情報”に遊ばれる彼ら。そして、“最も大切な情報”=被災し苦しむ人たちの今がすっぽり抜け落ちる。なんて哀れ。

そんな哀れな密室劇にも終わりが訪れる。終焉をプロデュースするのは権力闘争からも失踪劇からも中庸を取り続け、自らの職務を全うした1人の警視正。誰がカーテンコールのベルを鳴らしたのか…どうぞお楽しみに。

やっぱり最高、横山作品。読者を引き込む・読ませる力は『クライマーズ・ハイ』に匹敵するかも。でも、感動は無かった。あまりに哀れで滑稽で。“情報”は活かすもので踊らされるものではない。本当に大切なものは今しなくてはならないことは、すぐ側にあるんだよという教訓。

何度でも云いましょう、横山作品ハズレなし。

| | コメント (4) | トラックバック (0)

2006/11/13

『看守眼』 横山秀夫

看守眼 Book 看守眼

著者:横山 秀夫
販売元:新潮社
Amazon.co.jpで詳細を確認する

短編の名手・横山秀夫。

彼の描く短編には、その枠に留まらないひとりひとりの人生が詰まっている。

渾身の一作。

やっぱり横山氏は短編だなぁと、私を唸らせた一作。『臨場』『顔』と連作(シリーズ)短編集を立て続けに読んだので、てっきり本作も連作だと思っていました。

刑事になりたいという夢を持ち続けながら看守としての人生を全うしてきた男が、定年目前にして見つけた真実を描く表題作「看守眼」を筆頭に、どれも素晴らしい出来栄えです。

短編は箱庭だと思っている私。限られた枠の中に山を造り、川を流し、ひとつの世界を造り上げる。ひとりの人間が何度も同じ枠内で箱庭を造る以上、作品自体が似てしまうのは避けられないことと思いますが、横山氏にはそれがない。ときには急な、ときにはなだらかな谷(オチ)を造り、私を魅了させる。横山氏、すごい。

ミステリ好きの宿命として、意外性のあるオチが無いとどうしても落ち着かない私にはぴったりです。先日『陰の季節』を読了した同居人に「こんなに意外性のあるオチばかり続いて、逆に飽きちゃわないのか?」という質問を受けましたが、フリークからすれば横山氏のオチは微妙に違うのだよ!ミステリ好きじゃないと、この微妙な違いはわからないのかもしれないなぁ。確かにそうかもしれないなぁ。

本作『看守眼』に収録されている作品で、私が最も気に入ったのは「自伝」。どれも甲乙付け難いのですが、この「自伝」のオチが一番しっくりきました。最後に強請らずにはいられなかった彼。強請った後に明かされた真実。悔やんでも悔やみきれない想い。こういう救われない話が好きです。病んでいるのかもしれません、自分。

横山氏の作品も、もうかなりの数を読みましたね。残すは『深追い』『半落ち』『震度0』の三作ですか。『半落ち』は直木賞論争のときに、うっかりネタバレ被害に遭っておりますが、実際に読んでみて自分がどういう感想を持つのか楽しみでもあります。でも、今の自分はすっかり横山信者なので(笑)ちょっと間を空けたほうが良いのかな?と思ったり。

| | コメント (4) | トラックバック (1)

2006/11/11

『顔 FACE』 横山秀夫

顔 FACE Book 顔 FACE

著者:横山 秀夫
販売元:徳間書店
Amazon.co.jpで詳細を確認する

「だから女は使えねぇ!」と怒鳴られながらも、警察組織の中で自分にしかできない仕事をしようと努める。

彼女は似顔絵婦警。

横山秀夫が描く、D県警シリーズ異色のヒロインがここに。

この『顔』は仲○由紀恵さん主演でテレビドラマにもなった有名作。すみません、当然のように見ておりません。いやぁ、おもしろうそうだとは思ったのですが、連続ドラマを見るという習慣がないんですよ、私。でも、原作がとてもおもしろかったので、今度レンタルしてこようと思います。しかし、オ○ジョーは一体誰役なんだ?ドラマオリジナルキャラクタかしら?

さて、横山作品異色の女性主人公です。横山作品立て続けに読んでおりますが、女性主人公に出逢ったのはもしかして初?横山作品といえば、中年男性には全く興味の無い私でも身悶えしてしまう素敵オヤジがバシバシ登場するのが、もうお決まりになりつつありましたが、女性主人公もイケますね!!

主人公・平野瑞穂巡査は『陰の季節』で既に登場済。本作は瑞穂が「黒い線」問題で鑑識課を追われたその後の話が描かれております。似顔絵婦警という仕事に誇りを持ち、がむしゃらに描き続けていたあの頃を懐かしみながら、そしていつか似顔絵婦警に戻れる日を願いつつ、広報室、なんでも相談テレホン、捜査一課と、課を点々とする瑞穂。どこに居ても、どんな事件を手掛けていても、いつも頭にあるのは似顔絵婦警の仕事。

彼女にとって似顔絵婦警というのは、警察署内における唯一の居場所だったのでしょう。唯一男性と肩を並べて仕事ができる、男性に負けない仕事。「だから女は使えねぇ!」と罵られたあの日を忘れることができすに、執拗なまでに似顔絵婦警に拘る彼女。その気持ち、わかるようなわからないような複雑な気分です。女は使えない…私も経験ありますが、見返してやれば良いと思うんですよね。でも、それは似顔絵婦警に拘ることでなく、人として平野瑞穂巡査その人として見返してやれば良い。うまく表現できませんが、似顔絵婦警に拘っているうちは、やっぱり使えないのかもしれません。

でも、そんな彼女も最終話「心の銃口」で一皮剥けましたね。最後に心の引き金を引いた彼女。それは自分に対して撃ち出した一発でもあったのかもしれません。

本作は似顔絵婦警として活かしてきた観察眼を瑞穂が遺憾なく発揮する、ミステリとしても充分読み応えある一作。再び似顔絵婦警としての道を歩み始めた彼女の活躍をまた読みたい気もします。

| | コメント (4) | トラックバック (0)

2006/11/09

『臨場』 横山秀夫

臨場 Book 臨場

著者:横山 秀夫
販売元:光文社
Amazon.co.jpで詳細を確認する

“終身検視官”の異名を持つ男・倉石。

死者が、犯人が、現場に残した最後のメッセージを汲み取る者。

そして、謎を解き明かす者。

『臨場』読了後、既に何冊か横山作品を読んでまして、しかもすべて短編集なものですから、ちょっと混じってます。すみません、いきなり云い訳です。

『臨場』は警察組織における“鑑識”にスポットを当てた一作。“鑑識”と云えば、耳かきに付いてるふわふわしたやつのでっかい版で粉を叩き、髪の毛一本逃さぬために床に這い蹲って目を凝らし、見つけた証拠品は嬉々としてビニール袋に…とかなり偏った(我ながら偏り過ぎだ)イメージを持っておりました。

ミステリでは、探偵は推理の飛躍を武器に、警察は科学捜査を武器に闘うものと相場が決まっておりますので(またもや偏見だ)警察における鑑識(科学捜査)の大切さは身にしみているのですが、その科学捜査の結果を印籠の如く叩きつける捜査一課の刑事にばかり目がいって、鑑識係そのものには全く目を向けたことはありませんでしたね。

そういえば、2時間ドラマで帝王・船越○一郎がそんなシリーズを持っていたようないなかったような…ググってみました。「火災調査官・紅蓮次郎」シリーズでしたか。そういえば、警察の制服ではなくて、ブルーのつなぎを着ていたような気がするよ。

さて、肝心の『臨場』レビューです。本作は8作の短編で構成されているのですが、主人公である終身検視官・倉石がフルで顔を出すもの、キーパーソンとしてのみ登場するもの、その造りは様々です。

私は8作のうち、「赤い名刺」の推理にグッときましたね。検視官はその現場を構成するすべての要素を拾い上げて、死者のメッセージを汲み取る。あのドアは世界と事件現場を遮断する物理的な役割はもちろん、犯人を遮断する役割も果たしていた。うん、すごい好きです、こういうの。あっ、さらっとネタバレしましたね。すみません。

そして、「餞」で倉石がみせた不器用な敬礼に倉石のひととなりが詰まっていて、またまたグッときました。倉石はぶっきら棒に見えて、実は暖かい。倉石校長と慕われる…のは実は良くわからなかったのですが、きっと触れ合うとグッとくるところがあるのでしょう。

こういうマイナな方向から警察組織を眺めるのも良いものですね。横山作品を読み始めてからというもの、警察事情にちょっとだけ明るくなったような気がします。

| | コメント (2) | トラックバック (0)

2006/10/13

『第三の時効』 横山秀夫

第三の時効 Book 第三の時効

著者:横山 秀夫
販売元:集英社
Amazon.co.jpで詳細を確認する

F県警強行班は各班同士が切磋琢磨する常勝軍団。

個性的な各班長の下、複雑怪奇に絡まった事件に立ち向かう。

F県警強行班を追った、連作短編集。

プチ横山秀夫祭を開催中です。早く十二国記のレビュー始めなさいよ、貴女。

いやぁ、『第三の時効』もやっぱり面白かった!この『第三の時効』はF県警強行班の3班持ちまわり(?)で6つの短編が収録されております。表題作「第三の時効」はウルトラCのテクニックで第三の時効を成立させてしまうというもの。ただ、『ルパンの消息』でもそのウルトラC技を見たような、見なかったような…。

収録されている6編のうち、私の最も好みだったのは「ペルソナの微笑」。自分では判断のできない無垢な子どもを利用して犯罪を犯し、逃げ遂せる犯人。残された子どもは自分の加担した罪を悔い、ペルソナを被るしかない。強固なペルソナの内側で、子どもたちはどんな涙を流しているのだろうか。嗚呼、切ない。このペルソナを被り、強行班1班に所属する矢代刑事がこの「ペルソナの微笑」の主人公です。ラストの矢代刑事のペルソナが一瞬壊れる部分は見所ですが、そこからのオチがあまりにも短く乱暴だったのが残念。ただ、矢代刑事でなければ犯人を落とすことはできなかったのかもしれませんが。そして、矢代刑事のペルソナを壊す手助けをしてあげた朽木班長は本当に素敵。

強行班3班の村瀬が活躍する「密室の抜け穴」も良かったですね。すべての出入り口が監視状態に置かれていたマンションから抜け出した容疑者。容疑者はどうやってマンションから消えたのか、誰が容疑者の脱走を見逃したのか。「閃き型」「天才型」と呼ばれる捜査手法を持つ村瀬が、この密室の謎を“第二の密室”を用いて解き明かす。なんかもう、あらすじを書いただけで身悶えしますね。ネタバレをしてしまえば、“第二の密室”とは県警内に設けられた断罪裁判会議室なのですが、その密室のすり替え(?)トリックの手法が新しいです。強行班の中では1班が最もお気に入りの私ですが、村瀬は好きです。その村瀬の期待にしっかり応える東出班長代理も堪らないですね。

そういえば、1班・3班についてはしっかり褒めましたが、「搦手型」「謀略型」の楠見班長をまったく無視しておりましたか。彼はその捜査手法の通り、ちょっとねちっこい感じがして倦厭気味です。ごめんね、2班の諸君。

というわけで、横山秀夫にハズレなし記録がどんどんどんどん伸びております。F県警強行班シリーズがもし続くならば、その作品も絶対にハズレないんだろうなぁ。

| | コメント (4) | トラックバック (0)

2006/10/10

『陰の季節』 横山秀夫

陰の季節 Book 陰の季節

著者:横山 秀夫
販売元:文藝春秋
Amazon.co.jpで詳細を確認する

警察内人事を素晴らしき采配で操る“エース”二渡。

県警内で起こった問題のすべては二渡の前を通過し、人事の形でアウトプットされる。

警察小説を新しい切り口で描いた連作短編集。

二渡警視、好みです。

いきなり告白です。中年男性にはこれっぽっちも興味なかったのですが、横山秀夫氏の描く中年オヤジは常にセクシィですね。この連作短編集に通して登場する二渡警視は、とにかくキレる。絡みに絡まった“人事のパズル”をひとつずつ紐解き、どこから見ても見事な人事に組み直す。それが二渡警視の仕事です。D県警最年少で警視に昇進…という見事に私のツボを付いた設定はもちろん、そのストイックな性格がこれまた萌える。どこで二渡警視が見ているかわからない、まるで市原悦子のように県警内のすべての事象に通じています。

そんな二渡警視をも唸らせたのが、第一話「陰の季節」に登場した尾坂部部長。警察内部での口約束は掟に相当する。そんな掟を破ってまで、現在のポストにしがみつこうとする尾坂部部長の真意とは?結末から云えば、この尾坂部部長に二渡警視は一杯食わされるのですが、尾坂部部長が勝ったのかと云えば…そうしないところが横山秀夫氏の憎いところ。刑事は犯人に手錠を掛けるからこそ、刑事でいられる。その精神、アツイですね。

この短編集で私が一番好きなのは二話目の「地の声」なのですが、主人公の新堂が最後に二渡警視の真意を人事名簿で知ったときの絶望と云いますか、どこにも向けることのできない憤りが良かったですね。自分の信念で助けた男に、足元を掬われた新堂。そんな新堂が第四話「鞄」で“エース”二渡に助けを求めたらどうだと持ちかけるところでさらにぐっときました。あぁ、認めてるんだなぁと。

なんか、読んだことのない方にはまったくわからないレビューで申し訳ないです。

人事制度というのは、警察に限ったことでなく外部の人間にはわからないようになっているものですが、この『陰の季節』で描かれているような足の引っ張り合いはどこの会社でも行われているのでしょうね。それを警察で描くというのが、新しい。秩序を司る警察内部ですら、秩序を守りきれていないのですから。

そうそう、この『陰の季節』は月曜ミステリー劇場でドラマ化されていたようですね。二渡警視は上川隆也さんですか…悪くないんだけど上川さんではちょっと優しすぎるような気がする。なんかもう“見るからにナイフ”みたいな切れ長の、ミッチー(及川光博さん)なんてどうですか?

| | コメント (8) | トラックバック (1)

2006/10/08

NHKドラマ「クライマーズ・ハイ」

クライマーズ・ハイ DVD クライマーズ・ハイ

販売元:角川エンタテインメント
発売日:2006/05/12
Amazon.co.jpで詳細を確認する

前編・後編と2週に分けて再放送されておりましたNHKドラマ「クライマーズ・ハイ」。ビデオ録画しておりました分を一挙に鑑賞致しましたのでレビューを。

中年オヤジパワー、魅せ付けられました!

これでもか!これでもかっ!と登場する中年オヤジたち。中年オヤジにこれほど萌えたのは初めてです。悠木=佐藤浩市をはじめとして、実力派中年俳優たちがわんさか登場、豪華絢爛。中年オヤジに豪華ってのもどうかと思うのですが、設定を曲げてまで眉目秀麗な若手を無理矢理押し込むより、しっかり演技のできる(安西の赤井秀和はまぁ別として)中年オヤジを配置することで見応えのある作品に出来上がっておりました。

一番良かったのは等々力部長を演じた岸部一徳。

等々力部長は原作でもかなり良い味を醸し出しておりましたが、岸部一徳の素晴らしいこと。原作に忠実、もしかしたら原作以上に等々力部長の良さが表現されていたかもしれません。

本当に原作に忠実なドラマでしたね。もちろんすべてを映像化することはできないにしろ、原作の中で表現しておかなくてはならない部分は決して削ることなく組み込まれていたと思います。記者VS営業の大喧嘩なんてものすごい臨場感があって、あのシーンは原作を超えたのでは?佐山からの電話で「抜き記事を打てる!」と湧き上がった仲間たちも良かった。唯一「あれ?」と私が思ったのは、北関を去る決意をした悠木を仲間たちが踏みとどまらせた、あの感動のラストがなんともあっさりと表現されていたこと。悠木は去る決意さえしなかったのでは…それだけが残念。いや、佐山の「どこに居たって、俺たちの日航全権は悠木さんですから」はいつだって感動なのだけれど。私は原作の岸の言葉が好きなんだけれどね。

墜落事故当時のニュースをふんだんに使用した映像作りも良かったです。ドラマをよりリアルなものにするのはもちろん、原作(そしてドラマで)表現しようとしていた命の尊さ・大きさを伝えるのに生の映像ほど適したものはありませんよね。あのニュースの部分だけでも考えさせられるものがありました。NHKでドラマを放送したのは良かったのかもしれませんね。

というわけで、久しぶりに原作の品位を落とさず、原作=ドラマのレベルを保ったドラマを観ることができました。ここのところ、原作に似ても似つかないドラマを立て続けに観せられていたものですから…。このビデオはとりあえずツメを折ることに致しましょう。そうしましょう。

クライマーズ・ハイ Book クライマーズ・ハイ

著者:横山 秀夫
販売元:文藝春秋
Amazon.co.jpで詳細を確認する

| | コメント (4) | トラックバック (2)

2006/09/30

『影踏み』 横山秀夫

影踏み Book 影踏み

著者:横山 秀夫
販売元:祥伝社
Amazon.co.jpで詳細を確認する

家人が寝静まった横で窃盗を働く“ノビ師”真壁。

塀の中から娑婆に戻ってきた途端に降りかかるいくつものトラブル。

真壁は中耳に住まう弟ともに、トラブルを解決することができるのか。

ミステリブロ愚のはずなのに、右サイドバーで開催中のゲームプレイ日記にばかりで夢中で申し訳ないです。BOOKレビューは…5日ぶりですか。お恥ずかしい限りです。

さて、只今プチ祭が開催されている横山秀夫氏。この『影踏み』は“ノビ師”の真壁を主人公に据えた連作短編集です。もちろん本作も良かった。どうして主題の異なる作品ばかりなのに、こうも良い物語をつむぐことができるのでしょうか?

窃盗で警察に捕まったことを恥じた母親によって業火に焼かれた双子の弟を中耳に住まわし、弟と助け合うことで降りかかる火の粉を掃う真壁。二重人格とは少し異なるこの関係が、この作品の肝です。死んだ弟が本当に真壁の中耳に居るのではないか?と思ってしまうほど、このふたりの関係は自然です。同じDNAを持ったもうひとりの自分、その絆があればこのくらいのこと出来てしまうかもしれないと思わせてしまうところが、横山氏の筆力の素晴らしいところです。

いくつかのトラブルに巻き込まれ(そのトラブルも完成度の高いミステリテイストに仕上がっていて満足)互いの能力を最大限に活かし、危険を回避し続けた彼らにも終わりがやってくるのですが、その終わり方も切なくて最高。なぜ弟は中耳に住み続けたのか、住まわしていたのは兄なのか弟なのか。ああいった終わり方をするとは思っていなかったので驚愕。すごいね、横山氏。

なんかもう、横山氏の作品というだけで手放しで褒めているような感覚に陥って参りましたが、そうじゃないんですよね。なにか面白い本が読みたいときの横山氏…ということで、ポイントポイントで横山氏の作品をチョイスしてゆきたいと思います。

| | コメント (0) | トラックバック (1)

2006/09/25

『真相』 横山秀夫

真相 Book 真相

著者:横山 秀夫
販売元:双葉社
Amazon.co.jpで詳細を確認する

一つの事件が終わった後に、人の心の事件が始まる。

事件のあとに加害者、被害者、密告者の心の中に残るものとは何なのだろう。

横山秀夫が描く事件後の人間の心の深層とは?連作短編集。

右サイドバーに納められております掲示板をご覧いただければお解かりかと存じますが、すっかりゲームに夢中です。でも、ちゃんと読書もしてます…寝る前だけだけど…

今回のレビューも、ゲームに勝るとも劣らず夢中になっております横山秀夫氏の連作短編集でございます。いやぁ、横山氏は本当に安定した読書を私に与えてくれますね。ただ、主題は違えど作品全体に流れるリズムなんかがどれもこれも一定なものですから、立て続けに読むのはどうかと思ってまいりました。あ、飽きそう…。

この『真相』は一つの事件が終わったあとに、関係者の人間に残される虚無感や罪悪感なんかを深く描き出しております。私のベストは「18番ホール」でしょうか。疑心暗鬼にならざるを得ない人間の心理や焦りに手に汗握りました。そしてあの悲しい結末。短い短編の中に、よくあれだけの要素を詰め込めたなぁと感心してしまいます。短編集ラストの「他人の家」なんかも良かったですね。“情けは人の為ならず”ってちょっと用法が違っておりますが、真の善意だけで親切にしてくれる人間なんてそうはいないのです。そこには必ず何らかの思惑があって然るべきであって、純粋な親切の方がある意味怖いかもしれない。“タダより高いものはない”ってやつですか?

私はこれまで幸いなことに、平々凡々な人生を送ってきております。“注意一秒、怪我一生”ではありませんが、一瞬の判断ミスがその後の人生に大きな影響を与える。これまで事件や事故に巻き込まれたことがないからといって、これからも巻き込まれないという保証はないのです。“病気になったときに健康の素晴らしさに改めて気付く”のように、事故や事件に巻き込まれたときに、平々凡々であった人生が素晴らしいものであったと気付くような、情けない人生は送りたくないと切に思いました。

今日はずいぶんと格言っぽいものを多用してのレビューと相成りましたね。

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2006/09/21

『出口のない海』 横山秀夫

出口のない海 Book 出口のない海

著者:横山 秀夫
販売元:講談社
Amazon.co.jpで詳細を確認する

“魔球”を生み出すことを熱望した青年が、乗り込んだ「回天」。

それは脱出装置無しの海の特攻兵器、人間魚雷であった。

彼はなぜ「回天」の乗り込むことを志願したのか。

『クライマーズ・ハイ』を読んで惚れ込んでしまった横山秀夫氏。またしてもやられました!

この『出口のない海』は第二次世界大戦下の日本で、海軍の最終兵器であった人間魚雷「回天」に乗り込んだ、青年の姿が描かれております。甲子園で優勝投手をつとめ、“鶴の舞”とまで評された美しい投球フォームを持った青年。そんな彼が野球という道を諦め、愛する人たちのために選んだ新たな道が人間魚雷。

切な過ぎます。

でもね、読了後なぜか清々しい気持ちになりました。戦争を主題として扱う作品は、その素材のデリケートさ故に目を逸らしがちだったのですが、こんな作品に出逢えるならば、ミステリという戒めを解いても良いかな、とさえ思います。

横山氏はこの『出口のない海』を執筆するにあたり、どれだけ多くの取材をされたのでしょうか。戦争経験の無い私でも、あの時代の異常さがリアルに感じられました。そして、そんな状況下に置かれた青年たちの苦しみも。学校で教える、教科書に書かれている歴史なんて、本当に薄っぺらなものだと実感します。社会科の授業で、皆にこの作品を読ませてあげたい。真珠湾攻撃は何年に起きたか…そんな暗記だけを繰り返してなんになると云うのか。もっと、私たちは考えなくてはならないのだなぁ、と思います。

“魔球”を生み出すことを熱望した青年が、“魔球”をその手から放ることはできたのか。青年はどんな想いで人間魚雷に乗り込んだのか。青年を送り出した仲間はその背中にそんな言葉を無言で送ったのか。とにかく読んで欲しい。横山秀夫にハズレなしとは良く云ったものです。

『出口のない海』このタイトルは本当に秀逸だと思います。

| | コメント (0) | トラックバック (0)

より以前の記事一覧