■浦賀和宏

2010/05/08

『時の鳥籠』 浦賀和宏


「この子は自殺した」「お前がこの子を、救うんだ」

ねぇ、お父さん。いつになったらその言葉の意味が分かる日が来るの?

ねぇ、お父さん。いつになったら私は元の世界に戻れる日が来るの?

読む読む詐欺を繰り返してきた『時の鳥籠』をようやく読むことができました。『記憶の果て』の裏を為す物語。正直、読書という行為が久しぶりだったので500頁超の作品を読めるか不安だったのですが…良い物語ってのはブランクなんて関係なしに読めちゃうもんですね。
そして、良い物語はいつまで経っても色褪せない。『記憶の果て』を再読したのは1年半も前の話でしたが、どんな物語だったのか直ぐに取り戻すことができた。うん、やっぱり初期の浦賀は好きだ。

『記憶の果て』で回収されなかったいくつかの伏線が、この『時の鳥籠』では回収されております。回収…というか、『時の鳥籠』までを含めてひとつの物語。いや、まだまだ未回収の伏線が両手で足りないくらいあるので、安藤直樹シリーズ全てがひとつの物語…って、終わる日来るの!?
というわけで、ググってみたところ…『透明人間』のあとにシーズン2ってのが始まってるんですね!知らなかったよ!!『萩原重化学工業連続殺人事件』と『女王暗殺』…読書から遠ざかってた間も講談社ノベルスのメルマガだけは欠かさず読んでおりましたが、あらすじ読んだだけじゃ安藤直樹シリーズの続編だとは思えないよ!っていうか、本当に続編?

って、今日は『時の鳥籠』のレビューです。正直、この作品だけを読んでも楽しくもなんともないと思われ。この作品の醍醐味は「安藤直樹の出生の秘密」を浅倉目線で知ることなので…って、さらっとネタバレしましたが大丈夫でしょうか?

『記憶の果て』のラストで思わせぶりに登場し、「何故なら、それは彼女の物語だからだ」と読者をずっこけさせた浅倉。その「彼女の物語」は実に壮絶。端的に表現するならSF。えーっと、

タイムトラベルされましたね?

もうこの時点で合わない人は合わないと思います。いや、タイムトラベルものにも良作は多い!でも、「誰が」「どうやって」浅倉をタイムトラベルさせたかは一切明かされません。明かされているのは「なぜ」だけ。その「なぜ」だって曖昧…救うってなに?彼女の自殺を止めることが=救うこと?でも、彼女は自らの意思で以て死を選んだんだよね?そして、過去を変えることは未来を変えることになるのでは??

結局、過去は変えられないし、未来も変わらない。人は生まれたときから神様が用意した路の上を歩くことしかできず…自分で選んだと信じた路も、脳がそう信じさせているだけ。はい、出ました。安藤直樹シリーズのお約束、「脳」のお話。ちなみに安藤直樹シリーズにはもうひとつお約束があって、それは「音楽(っていうかYMO)」。ときどき挿入される音楽の薀蓄こそ、浦賀が一番楽しく書いているシーンだと信じてます。

ちなみに、講談社ノベルス(というか、メフィスト賞出身作家)ですので、ミステリもあります。一応。トリックのジャンルを明かしてしまうと=謎そのものを明かしたのと同義なので(って、書いてる時点で明かしてるのと同義)詳しくは書きませんが、今回もやっぱりミステリではないと思ってお読みになられた方が安全かつ適切かと。そして、気分が爽なときに読むのが宜しいかと思います。

って、全然褒めてませんが、私はこの作品が大好きなんですよ。これは本当。
浅倉の成長…というか、浅倉父の云う「きっと分かってくれる」日が来るまでの物語。この流れは本当に怖い。人の順応ってのは本当に怖い。分かってはいけないことを分かってしまうのは本当に怖い。でも、それが神様の用意した物語なら…脳はそのように働き掛けるのでしょう。

さぁ、残りの伏線を回収するために。安藤直樹シリーズの再読に勤しむことにしましょう。それがきっと脳から与えられた指令なのだと思います。

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2009/02/01

『彼女は存在しない』 浦賀和宏

彼女は存在しない (幻冬舎文庫) Book 彼女は存在しない (幻冬舎文庫)

著者:浦賀 和宏
販売元:幻冬舎
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私が彼女と向き合うたびに思い出すものは、

夕方の横浜駅と、オービタルの『ハルシオン』と、

貴治が演じたバズ・ライトイヤーだった。

私のオールタイムベスト10

にグイッと喰い込んでくる浦賀和宏『彼女は存在しない』が本日のメニューです。『時の鳥籠』と迷ったのですが、あの厚さのノベルス本を通勤のお供に据えるのはどうかと…でも『天帝のはしたなき果実』をノーカバーでお供に据えている男性と車輌を同じくしたことがあるな。あの男性の読書癖を聞いてみたい。

というわけで、奇才・浦賀和宏の本領発揮。安藤直樹シリーズは積極的にはお薦めしないけれど、この『彼女は存在しない』はもう積極的にお薦めしちゃう。

読め!読むべきだ!!

って、命令になってるからすみません。でも、そのくらいお薦めです。騙されたと思って騙されながら読んでください。作中のエログロは浦賀作品には必須なので、そこだけ眼を瞑ってくださると嬉しい。

ふたりの人物の視点を交互に切り替えて進む物語。いま5行くらいあらすじを書いたのですが、うっかりネタを割りそうになりました。ネタを割らずにレビューを書こうレビューを書こうとすればするほど、ネタを割っている罠。本作には『こわれもの』指定が必須です。とりあえず文庫版裏のあらすじを丸写ししよう。こんなこと、このブロ愚始まって以来だわ。

平凡だが幸せな生活を謳歌していた香奈子の日常は、恋人・貴治がある日突然、何者かに殺されたのを契機に狂い始める……。同じ頃、妹の度重なる異常行動を目撃し、多重人格の疑いを強めていた根本。次々と発生する凄惨な事件が香奈子と根本を結びつけていく。その出会いが意味したものはー。

バズ・ライトイヤーが物語の良いところでモノローグ的に登場するのが最高なんですよね。バズなのに綺麗。もの凄く綺麗。綺麗といえば表紙も。「なぜこんな陰湿な作品に、こんな爽やかな表紙を?」と最初は思っていて欲しい。最後まで読めばこの表紙の良さがわかるはず。

私はこの作品をミステリとは捉えていない節があって。いや、もうどこをどう切り取ってもミステリでしかないのだけれど…でも、私はいつも本作を恋愛小説だと思って読んでいる。既読の方からは「頭、大丈夫ですか~?」って聞かれてしまいそうだけれど(苦笑)主題は重いし、グロいし、救えないけれど、最後と表紙のあの爽やかさは異常だと思うんだ。

できれば、あまり頭を使わずに、流れに文章にまかせるままに読んでもらいたい作品。あと、登場する浦田先生は浦賀ではないと思って読んでもらいたい(笑)浦田先生、あの作品で新人賞って凄いね斬新だわ…

って、また知らないうちにネタ割ってる!?

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2008/12/16

『記憶の果て』 浦賀和宏

 

親父が死んだ

親父の書斎で俺は裕子に逢った

俺は…なぜ生まれてきてしまったんだ?

消化すべく再読してみました浦賀和宏…

やっぱ最高だ。

松浦純菜シリーズ」は全然良さがわからず、浦賀を読むことはもう無いかもなんて思っていたんだけれど。でもやっぱり好きだ浦賀。そういえば『彼女は存在しない』も大好きなんだった、ごめん浦賀好きだ。告白してみた。

というわけで、第5回メフィスト賞受賞作です。こんなに面白いのに不思議なことに本作『記憶の果て』しか文庫化しておらず、そしてその文庫も絶版ですか?(アフィリが表示されないので。というか、報酬なんていらないから表紙飾らしてくれ)非常に残念だ。

実際のところ、本作『記憶の果て』を読んだだけではなにも解決しないんですが(「何故なら、それは彼女の物語だからだ」を読んだときには卒倒しそうになった)、シリーズ第2作『時の鳥籠』を読むとまぁ、思い出しただけで身震いする。とりあえず読んでもらいたい作品、読んでもらいたいシリーズ、大好き。

そんな大好き作品なので、BGMにはしっかりとサティの「ジムノペティ」を。

って、『記憶の果て』について何にも書いておりませんが。うーん、『記憶の果て』だけ読んでもなぁ、『時の鳥籠』と併せて読んでなんぼの世界だからなぁ。まさに世界が。なので、『記憶の果て』を読んで「別におもしろくもなんともないわっ!」と思った方は、どうかお願いですので『時の鳥籠』まで読んでください。それでもおもしろくなかったら…浦賀が合わないんだと思います(なんという無責任そしてその可能性の方が高い)。

とか書きつつ、まだ『時の鳥籠』は再読しておりません(おいっ)。『時の鳥籠』は単品で頼んでもなかなか美味しくいただけるので、年イチで再読リストに入っておりまして結構読んでいるんだなこれが。でも、いまの積読本が解消されたら(きっと年明けだ)読みますよ。安藤直樹シリーズ再読強化週間でもやりましょうか。最後の『透明人間』が曲者なんですけどね殺人級厚さ。

あっ、最後の最後で申し訳ないのですが、

ミステリではないと思ってお読みになられた方が安全かつ適切かと。

あと、鬱々としているときには読まないほうが良いです。

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2006/09/06

『上手なミステリの書き方教えます』 浦賀和宏

上手なミステリの書き方教えます Book 上手なミステリの書き方教えます

著者:浦賀 和宏
販売元:講談社
Amazon.co.jpで詳細を確認する

八木剛士シリーズ(?)第三弾。

浦賀和宏、衝撃の問題作。

内容紹介にこれだけ書くのが精一杯でした…。

問題作中の問題作ですよ。

chapterの扉に書かれたミステリのお約束が一番面白かった…。

まず、『上手なミステリの書き方教えます』のタイトルにやられました。絶対真っ当なミステリがくるものだと思っていたら…

いじめとエロと萌えとオタクの話しか出てこなかった…。

ミステリはどこに?確かにひとっつ、ミステリっぽい部分も有ったような、無かったような…。パーセンテージで云えば、1%くらいはミステリだったかもしれません。でも残りの99%がいじめとエロと萌えとオタクの話です。浦賀和宏…一体貴方になにが起こったのでしょうか?

『浦賀和宏殺人事件』を読まされたときの呆然。これが今の気持ちに一番近いですね。

確かに『上手な~』のラストは良かったです。背表紙あらずじに書かれた「結末圧倒的感動必読!!」は云い過ぎとしても、八木メェメェの青春への序章としてなかなか好感の持てる素敵なラストでした。

でもねぇ、そこに至るまでのいじめとエロと萌えとオタクの話がねぇ。講談社ノベルスは比較的なんでもあり…とは云いつつも、なぜこの作品が出版されるに至ったのかが謎。誰か止める人間は居なかったのかい!

浦賀作品には『時の鳥籠』や『彼女は存在しない』のような名作がいくつもありますので、この『上手な~』だけで浦賀和宏に見切りをつけてしまうことはできないのですが、八木剛士シリーズ最新刊『八木剛士 史上最大の事件』を手に取るかどうかは全くの未定です。きっと自分からアクションを起こすことは無いのだろうなぁ。

そうそう、ノベルス折り返しの浦賀和宏<主な著作リスト>に安藤直樹シリーズの初期作品がごっそり抜けているのが気になりました。絶対、初期作品の方が<主な著作>だと思うのですが…。

今日のレビューは唖然とした気持ちが“…”の多さによく現れておりますね…。

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2006/07/23

『火事と密室と、雨男のものがたり』 浦賀和宏

火事と密室と、雨男のものがたり Book 火事と密室と、雨男のものがたり

著者:浦賀 和宏
販売元:講談社
Amazon.co.jpで詳細を確認する

拳銃で撃たれても死なない男・八木剛士の周囲で、再び巻き起こる女子高生の死と放火事件。

松浦純菜とともに、再び八木は事件解決に赴く。

『松浦純菜の静かな世界』に続く、シリーズ2作目。前作に比べるとミステリとしても、いじめ青春小説としても微妙。

半分くらい読み進めるまで「タイトルに密室って書いてあるけど、そんなもの登場しないじゃん!」と思っていたのですが、女子高生の死がそれに相当するのですね。女子高生の死なんて、ほとんど忘却の彼方でしたよ。このシリーズは忘れていた伏線や事件が、ぽっこりと浮かび上がってきて、「おぉ、そうだったね」と思わせてくれるのが特徴。だからって、上記の私の症状は酷すぎるわね…。

ここからは作品のネタに触れます。いや、タイトルからしてネタバレなんですが。

そもそも、本作に登場する“雨男”くんですが、外出するたびに雨が降ってしまう力なんて存在したら、世界揺るがしますよね。NA○Aかどっかに、ソッコーで連れてゆかれます。砂漠に雪を降らせることも可能かもしれない(by伊坂幸太郎『砂漠』)でも、普通のミステリだと思って読んでる作品に、突然ファンタジーが混入してきては、読者が戸惑ってしまいます。

ミステリは現実世界のルールに則って描かれていないと。しかも、今回“雨男”の存在が密室トリックに絡んできているではないですか。そんな脆弱なトリック、私は見たくなくてよ!未知なる生物や、解明されていない毒物はミステリに登場させてはならんよ、うんうん。

八木メェメェの復讐とか、パンツ欲しい八木とか、ついつい笑っちゃうポイントは浦賀氏らしいですよね。浦賀氏といえば、『浦賀和宏殺人事件』に代表されるバイオレンス・エロでございますから。

先月発売された『上手なミステリの書き方教えます』もこの松浦純菜シリーズのようですが、どうやら問題作であるようですね。どんな風に問題作なのか、非常に興味がございます。憤り系かしら?呆然系かしら?楽しみですわ。

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2006/07/22

『松浦純菜の静かな世界』 浦賀和宏

松浦純菜の静かな世界 Book 松浦純菜の静かな世界

著者:浦賀 和宏
販売元:講談社
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暴漢に襲われ療養生活を送っていた松浦純菜。

拳銃で撃たれながらも奇跡的に無傷だった八木剛士。

二人が出逢い、そして事件は終結する。

ブロ愚開始から約半年、未だ浦賀和宏氏のカテゴリが出来ていなかったとは…。うっかりしておりました、浦賀氏。浦賀和宏氏は云わずと知れたメフィスト賞出身でございます。メフィスト賞出身の作家さんは私のスタンダードになる確率がかなり高いのですが、浦賀氏もそのおひとり。

『時の鳥籠』を読んだときの衝撃ったらなかったですね。

『時の鳥籠』っていうところがミソです。最初に『記憶の果て』を読んだときは専門的解説が多くって疲れる作品だな…という感想が第一だったのですが、『時の鳥籠』で『記憶の果て』の?な部分が解決してからは「すんげぇ」の一言です。もし未読の方がいらっしゃいましたら、是非ご賞味ください。オススメです。その後も安藤直樹シリーズではとにかく度胆を抜かれ続け、『透明人間』でついにやっちゃったよ!と云う感じ。

浦賀氏の作品で個人的にNO.1だと思うのは『彼女は存在しない』なのですが、浦賀氏の作品は基本的にハズレがなくて(『地球平面委員会』なんて作品もあったけど…)安心して読めます。ただし、最後まで読めばの話です。序盤から中盤にかけて、浦賀氏の作品はいつも読むのが辛くなる。ラストまで読めば、いつもそこに衝撃が待ち受けているのですが、そこまでモチベーションを保ち続けるのが辛い。この度の『松浦純菜の静かな世界』も同様でございました。

時系列が意図的に入れ替えられていて、話が前後する。本当に関係あるのか?と思わせる伏線の挿入。登場人物の突然すぎる登場。『透明人間』を読んでから2年以上の月日が経過しているので、久しぶりの浦賀節についてゆけなくなる場面が多々ありました。もっと文章力があったと思っていたのですが…。

でも、最後まで読めば浦賀作品らしい衝撃のラストが待ち構えていて、これぞ浦賀氏!という感じ。ミステリとしての伏線も充分に回収かつ活かされていて、このシリーズ良いかもしれない。いや、安藤直樹には負けるけれども…。

やっぱり良いな、浦賀氏。この調子で次回は『火事と密室と、雨男のものがたり』を読むことに致します。

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