2008年5月24日 (土)

『あいにくの雨で』 麻耶雄嵩

塔へと続く一筋の足跡

裏切り者へと続く仕組まれた道筋

「俺たち親友だろ」

久しぶりに読んだ本格ミステリ。やっぱり私はミステリ畑で育った人間だと実感。ミステリ小説は人間が書けてない?上等です。でも、本作は

殺人事件よりもクリークの活動に興味を覚えてしまった

なんて本末転倒な心意気。いやぁ、私もクリークの一員になりたいです。クリークとは(高校)生徒会運営をスムースに執り行うべく設置された調査機関(スパイ)の名称なんですが…

そんな発展した生徒会が有ってたまるものか

少なくとも我が母校には無かったはず…無かったよね?会長?(私信)都会の高校ならいざ知らず、ど田舎の高校で謀略戦を繰り返してどうする。井の中の蛙状態に陥ること必至。まぁ、ミステリ小説は人間が書けてなくてなんぼですから。

というわけで、本作『あいにくの雨で』は高校生が主人公(探偵)。高校生が殺人事件に首を突っ込む契機と云えば、もちろん“友情”しかないわけで。本作の主題は“友情”と“裏切り”、そして“孤独”かと。

親友の周りで次々と起こる殺人事件。悩み苦しみ痩せ衰える親友を救うべく、立ち上がる主人公。けれど、主人公の前には問題が山積みで。そして、死体も山積みで。真相に近づく度に増えてゆく死体。高校生たる主人公の生活に、土足で踏み込んで来る侵入者=裏切り者。

麻耶作品らしい舞台の切り替えにあたふたしていると、ラストの急展開っぷりに付いてゆけなくなる。本作は冒頭で(メインの)密室トリックが明かされるという斬新な手法を取っているので、トリックに頭を悩ませる必要は無いのですけれども。あまりにも死体の数が多過ぎて、あまりにも人の死があっさりし過ぎていて、あまりにも登場人物全員が救われなくて。あまりにも麻耶作品。

犯人は誰か…なんてあまりにも些事。むしろ「こいつが犯人じゃなかったらビビる」的展開。けれど、ミステリを読んだという実感を十二分に得ることのできた良書。麻耶祭が始まりそうな予感。

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2006年7月22日 (土)

『あなたが名探偵』

あなたが名探偵 Book あなたが名探偵

著者:泡坂 妻夫,西澤 保彦,小林 泰三,麻耶 雄嵩,法月 綸太郎,芦辺 拓,霞 流一
販売元:東京創元社
Amazon.co.jpで詳細を確認する

「ミステリーズ!」で連載されていた犯人当てミステリが一冊に。

あなたは見事に犯人を当てることができるのか?

先日レビュー致しました『気分は名探偵』と趣を同じくする本書。発表媒体が違う(新聞とミステリ専門誌)だけで、こんなに印象が異なりますか…。『気分は名探偵』は一般紙での掲載ということでオープンな印象を与えるのに対し、『あなたが名探偵』についてはコアなミステリファンしかこの小説は読んでいないだろうという前提があっての、クローズな印象。どちらにも寄稿されている麻耶氏、法月氏の作品を読むとその相違は顕著ですよね。正解率なんぞを掲載することによって、素人探偵を煽って「考えてやろうじゃないか!」という気持ちにさせてくれました。出版物としてのイメージは『気分は名探偵』の方が上かな。

さて、肝心の内容判定ですが、トリックに捻りの効いたものが多いのが『あなたが名探偵』の特徴。「ミステリーズ!」で発表するということは、もうコアなミステリファンに読まれることが前提となっているため、生半可なものは出せませんというイメージ。ある意味体育会系。

一番好みだったのは法月氏の「ゼウスの息子たち」かしら。ノックスの“十戎”に真正面から喧嘩を売った形の一作(笑)十戎なんて守ってたら新しいミステリは書けないと断言できるとは云え、どうしても十戎破りの作品に出逢うと“にやり”としてしまいます(←嫌な奴だな)

逆に麻耶氏は『気分は名探偵』の方が好きだったかも。あちらはロジックで複雑化しているだけで問題は単純であったのに対し、『あなたが名探偵』に掲載された本作は問題自体が複雑になっていたため、読了後「もう良いって…」と思ってしまった。問題はスマートであればあるだけ好みです。

せっかくの犯人当て小説感が薄かったのが本当に残念。問題編と解答編が完全に分かれてしまっているのも、やっぱり読み難い。そうすることで、読者に考える時間をという意図は充分に伝わってくるのですが。私自身が「当ててやるぜ!」という精神状態で無かったいうのが、一番の敗因なのですが…申し訳。

| | コメント (2) | トラックバック (0)

2006年6月25日 (日)

『気分は名探偵 犯人当てアンソロジー』

気分は名探偵―犯人当てアンソロジー Book 気分は名探偵―犯人当てアンソロジー

著者:我孫子 武丸,霧舎 巧,貫井 徳郎,法月 綸太郎,有栖川 有栖
販売元:徳間書店
Amazon.co.jpで詳細を確認する

「夕刊フジ」に掲載された、ミステリ作家6人による犯人当てアンソロジー。

果たして君は作者が散りばめたヒントをもとに、犯人を指摘することができるか!?

真夜中は別の顔、まじょ。です☆

普通に眠たいです。でも、謎に背を向けることができないのは名探偵たる証!と夜な夜な読み進めました。解答編に突入する前に、せっせと読み返すものだから、読了するのにいつもの倍の時間がかかってしまいましたね。

さて、ここからは楽しいネタバレの時間です。作品ひとつひとつのレビューと、私の推理がどんなお粗末なものだったかを書き記してゆこうと思います。味読の方はくれぐれもスクロールさせませんように。

「ガラスの檻の殺人」 有栖川有栖
アンソロジー最初の作品。私の推理は犯人はストーカー被害を訴えている学生時代の友人だ!というもの。その根拠は時計。被害者にぶん殴られた探偵ですが、どうして自分が気絶していた時間が2分やそこらだと判る?というところから推理を進めました。だって、殴られる直前までの時間経過はさっぱり描かれていなかったので、そこに10分くらいの空白の時間があってもおかしくない!と思ったものですから。さては時計をいじったな?という推理です。まぁ、違ったわけですが。本当の結末である○○○については、気になる記述だなぁとは思ったのですが、じゃあ本来そこにあった○○○はどこに行ったの?と思います。凶器が落ちててもおかしいけれど、大量の○○○が落ちてたっておかしいでしょうよ!それだけがたまたま売り切れていたなんて、そんな偶然許しませんよ。だって、もっと売れてる○○○なんて、いっぱいありますからね!絶対抜いたはずなんですよ、と憤ってみる。

「蝶番の問題」 貫井徳郎
これは結構容易にわかりました。最初のヒントが出てきた時点で「あぁ、この人は○○○○○なんだな」と。唯一読み返さずに解答できた作品が貫井氏の一作。叙述トリックものは数こなしてますからね。ピンときちゃいました。一番正解率が低かったのが貫井氏の作品だったようですが、発表の場が「夕刊フジ」という大衆紙だったからでしょう。これがミステリ雑誌かなにかだったら、もっと正解率が高かったはず。ミステリマニアはまず叙述トリックを疑いますからね。叙述トリックさえ解ければ、犯人特定まではあっという間です。だって、二択ですもの。でも、このアンソロジーの中で一番好みの作品がこの貫井氏の「蝶番の問題」ですね。

「二つの凶器」 麻耶雄嵩
これも○○の矛盾点に気付いてから、犯人特定までは容易でした。というわけで正解。ミステリでありがちな犯人の利き○の問題をちょっと捻った形ですね。掲載作の中で、最もロジックを駆使した本格ものの作品だったと思います。これも好き。今回は実朝が木更津をリードしてゆく形ではなく、あくまでも純粋な木更津探偵ものでしたね。この程度の事件に実朝が出てゆく必要は無いってやつですか?それとも、実朝はそこまで直子先輩は苦手ですか(笑)探偵が妙に気にしている箇所をじっくりと読めば、自ずと正解は開けてくると思います。本格ミステリ初心者にぜひ挑戦してもらいたい一作。

「十五分間の出来事」 霧舎巧
霧舎氏のお顔を雑談会のお写真で初めて拝見いたしました。ちょっとイメージと違ったな…。お元気そうでなにより。早く「あかずの扉シリーズ」の新刊をお願いしますよ。さて、肝心の推理ですが、これはパーサーの彼女が犯人かと思いました。彼女は心臓が強そうですので、商品のビールで頭を殴って、それをあろうことか探偵役を務めた大神に売りつけたのだと推理しました。いや、大神が買ってすぐにビールを開けたときに泡もなにも吹き出さなかったので、違うなこれ…と思いながら解答編を読んだら、やっぱり違ってたというオチなのですが。霧舎氏らしい、なにが描きたいのかよくわからないドタバタミステリだったと思います。(←褒めてない褒めてない)

「漂流者」 我孫子武丸
唯一、当ブロ愚にカテゴリが存在しないのが我孫子氏。いや、我孫子氏の作品は最近読んでいないというだけで、『0の殺人』も『8の殺人』もマリオくんシリーズもしっかり読んではいるのですが…。この「漂流者」の人物当ては解答編で登場したヒントからきちんと当てさせていただきました。男三人で飲んだ○○○って件ね。そこから、人物の入れ替わりを組み立てるのに、ちょっと時間を費やしましたが。入れ替わりを示唆する○○○○○○○も、現物を直に見ることができたら、もっと違和感を感じれただろうに。

「ヒュドラ第十の首」 法月綸太郎
これも好きです。でも、眠くてもう推理どころじゃなかったよ。三択の犯人当てかと思いきや、とんでもないところから真犯人を持ってくるという、ミステリ好きにはたまらない結末でしたね。ミステリをあんまり読まない人にはアンフェアに見えるかも。でも、正解率は一番高いので、じっくり読めばわかる仕組みになっているのでしょう。如何せん、眠くて。法月氏、すみません!全く推理ぜすに解答編を読み進めてしまいました!『生首』以来、綸太郎の活躍を拝見しておりませんが、彼にも好い加減嫁を見つけてやってください…(とお茶を濁して逃げる)

以上、全作品のレビューでした。眠いを連呼しつつもこのレビューを書いてる私はまだまだ逝けるのかもしれません。さっきからカラスが五月蝿い。アンソロジーとしてこのレベルの作品が集まっているのは非常に珍しいことですので、是非ミステリ好きの方にも、そうでない方にも挑戦していただきたい一作です。寝て起きたら、皆様の正解率なんかをググってみよう。そうしよう。

おやすみなさい。

| | コメント (4) | トラックバック (0)

2006年5月21日 (日)

『翼ある闇』 麻耶雄嵩

翼ある闇―メルカトル鮎最後の事件 Book 翼ある闇―メルカトル鮎最後の事件

著者:麻耶 雄嵩
販売元:講談社
Amazon.co.jpで詳細を確認する

今鏡一族が住む蒼鴉城で巻き起こる連続殺人事件。

ふたりの名探偵がこの謎に挑む。

麻耶雄嵩、衝撃のデビュー作。

『翼ある闇』は何度読んでも良いですね。かなりの厚さがありますが、読み易い文章と読者を引き摺り込む内容のおかげで、厚さを全く感じさせません。ただ、ミステリ入門書としてはオススメできませんが…。エラリー・クイーンあたりをちょっと齧りました!くらいのミステリファンにオススメ。

さて、早速ですがここからネタバレします。かなり濃いネタバレになりますので、麻耶雄嵩氏の他の作品をこれから読もうと思っている方も注意が必要です。

この『翼ある闇』の何が最も衝撃だったのか…。トリックや見立て、ミッシング・リンクはもちろんですが、なによりもヘイスティングスが名探偵だった!というところに、この作品の凄さがあります。

『翼ある闇』は麻耶氏のデビュー作ですので、ヘイスティングス=実朝が今鏡家の内実に詳しかったから謎が解けたのか、真の名探偵だったからなのかは読み解くことができません。私がこの『翼ある闇』を読んだのは高校生の時でしたが、そのときもミステリマニアの友人と議論を交わしたものです。しかし、この謎は同じく麻耶氏の『名探偵 木更津悠也』で氷解する仕組みとなっております。未読の方は早急にお読みくださいませ。

さらに、この『翼ある闇』には副題がございまして、そのタイトルはずばり『メルカトル鮎最後の事件』とあるのです。デビュー作にして名探偵を殺してしまいますか!という驚き。このメルカトル鮎はシルクハットを被った奇人変人ナルシストさんなのですが(申し訳ない。個人的にメルカトルは苦手です)、メルカトルがいなくてはこの『翼ある闇』の見立てが成立しないとはいえ、最後の事件と副題といて銘打ってしまうところが凄い。

あとは見立てですね。エラリー・クイーンの国名シリーズ通りに殺人を犯してゆくなんて、なんとナンセンス!エラリーを読んだことの無い人にとっては?だし、読んだことのある人にとってはある意味バカミスに成り下がってしまうという、二重の危険性を孕んでおります。だからこそ実朝の謎解きが映えるわけですが…。

というわけで、かなりの問題作である『翼ある闇』。ミステリに対して許容範囲の広い方は是非お読みくださいませ。

| | コメント (0) | トラックバック (1)

2006年4月29日 (土)

『蛍』 麻耶雄嵩

螢 Book

著者:麻耶 雄嵩
販売元:幻冬舎
Amazon.co.jpで詳細を確認する

オカルトスポット探索をメインに活動しているアキリーズ・クラブ。

クラブの夏合宿がかつて殺戮の場となったファイアフライ館で行われることになった。

ファイアフライ館で再び起こる殺戮に隠された大トリックとは?

ぐいぐい引き込まれるストーリー展開が良いです。ただ、麻耶氏の狙った大トリックの伏線のせいで、読みにくさが出てしまったのも事実。気が付く人はあれ?あれれ?と違和感を感じながらラストまで読むことになると思います。

ちょっと犯罪のスケールが大きすぎるかなぁと感じたのも事実。だからこそのハードカバー出版だったのかもしれませんが。ノベルスのスケールではないですよね。最近は出版形態をこんな風に分類するようになってきました。個人的にはノベルス程度のスケールが一番しっくりきます。

とにかく、ミステリとしてのいろいろな要素を詰め込もうとしすぎた、飽満感は否めません。普通ならそのネタだけでミステリ一冊書けるよ!というネタがふたつもみっつも出てまいります。それを「得した!」と感じるか、お腹一杯感を感じるかは読者次第。個人的な意見としては、ネタがぶつかり合って料理自体をぶち壊している感じ。世界三大珍味を使って料理を作ったら、どれもこれもが主張し合って、えもいわれぬ料理になってしまったぜ…みたいな。

エピローグもすごかったし。たった頁1枚で世界を終結させてしまいます。

でも、それをやるからこそ麻耶氏なのかな、とも。『翼ある闇』を読んだときの衝撃ったら無かったですしね。久しぶりに『翼ある闇』読みたくなってきたなぁ。

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2006年2月26日 (日)

『神様ゲーム』 麻耶雄嵩

神様ゲーム Book 神様ゲーム

著者:麻耶 雄嵩
販売元:講談社
Amazon.co.jpで詳細を確認する

猫殺しの犯人究明へと乗り出す探偵団。

そして彼らに突きつけられる友の死。

これは神様が仕組んだゲームなのか。

「このミス2006」第五位にランクインした「かつて子どもだったあなたと少年少女のための」ミステリーランド第七回配本です。

なんだか夢見が悪くなりそうな。

少年少女よ、これはフィクションですからね。

麻耶雄嵩氏の作品だけあって、トリックは申し分ございません。納得。

ただし、そこに描かれる人間関係が泥臭いですね。(ここからネタバレします。危険です。私はこの本のネタバレ被害にあってからこの本を読みました。いちおうフセ字ですが、警告!)

まずもぉ、お○さん!小学生相手にエッチなことしちゃダメですよ!いや、神様が天誅下したのはお○さんだから…嗚呼、夢見が悪い。

この作品の問題点は全知全能の神様が登場して、親友殺しの犯人と共犯者に天誅をくだしますが、その神様の描き方が巧い。ラストまで彼が神様であることを疑わせません。

ただ、親友殺しのトリックを信じるならラストのオチで彼は神様ではないし、彼を神様だと信じたいのなら自分で親友殺しのトリックを再構築させるしかない。

仕掛けてくれますね、麻耶氏。

ただ、もうひとつの解釈は神様も間違えることがあるということ。作中で神様自信が「間違えることなどない」と断言しておりますが、はてさて。そこにあるのは本当に真実なのかな?

ミステリーランドでここまで考えさせてくれるとは。

因みにミステリーランドの他のオススメは『探偵伯爵と僕』と『虹果て村の秘密』です。来月には綾辻行人氏の『びっくり館の殺人』(なんと、正式な「館シリーズ」)が配本予定ですし、なかなか侮れませんな。

少年少女よ、あくまでもフィクションですからね…。

| | コメント (2) | トラックバック (1)