2008年4月12日 (土)

『セリヌンティウスの舟』 石持浅海

セリヌンティウスの舟 (カッパノベルス) Book セリヌンティウスの舟 (カッパノベルス)

著者:石持 浅海
販売元:光文社
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ひとつの舟となり、心を通わせ合った僕たち

そんな僕たちが遭遇した巨大な嵐

それは…心通い合ったはずの友人の死

本作『セリヌンティウスの舟』を以って“プチ石持浅海祭”は終了でございます。既読未レビュー作品を読みますレビューしますという主旨の祭ですので、本作もその対象となってしまうわけで…

読む価値あるのか?って出来ですけれど(ぼそり)

本作は『扉は閉ざされたまま』の次に発表された作品で、あの衝撃と感動と興奮がまた味わえる!と喜び勇んで頁を捲った私は、大変な肩透かしをくらったものです。だって「仲間と共に友人の死の真相を解き明かす。しかもディスカッションのみで」なんて主旨の作品、『扉は閉ざされたまま』を連想するなっていうほうが無理。

まぁ、その真相が度胆抜かれるほど上等なものだっていうのなら、話は別なのですが。本作も名作に成り得る資質は充分に有ったと思っています。「自殺だと思われていた友人の死が実は他殺だったとしたら?もしも他殺なら…犯人はこのメンバの中」だなんて、素敵なシチュエーションじゃないですか。ここからおもいっきりテレビネタバレレビューにします。ネタバレせすに毒吐くなんていう芸当は私には無理でした。

もし、本作の結末が「友人の死はやっぱり他殺だった」っていうものなら、名作になったと思うんですよね。読者もそれを望んでいたと思いますし。けれど、「やっぱり自殺でした。しかも、自殺後に仲間たちが再度結束できるかどうかジャッジする判定員まで用意した上での、覚悟の自殺でした」ってなんですか?ミステリ読者って、人間が書けてなくても構わないから超弩級の物理トリックか、思わず膝を叩くような叙述トリックをかまして欲しいと思っている人たちなんですよ(超偏見ですね!!)。そんな読者に「心の通い合い」ミステリを読ませてどうするんだ?と。

しかも、そんなシチュエーションで心の繋がりが深め合えるとは思えないのですが。一度疑ってしまった相手と、その後もうまくやってゆけるものでしょうか?しかも、登場人物たちは結局議論を投げ出そうとしたわけで。投げ出して得た結末というのは、心にしこりを残すのでは無いかと?

この世に壊れないものなんて無いと思います。それが人と人の繋がりであるなら尚更。だったら、その壊れゆくものに思いを馳せれば良い。「自分は死ぬけれど、残す人たちにはずっと壊れないままいて欲しい」なんて、どれだけ自己満足?

『走れメロス』とのリンクも巧くないですしね。取って付けたような印象。個人的にあのメロス解釈が、一番不要だったと思っております。超無理矢理感満載!素材が悪くないだけに、残念な結末になってしまった一作。だから、同じ趣向の作品で名作を生み出して欲しいと個人的に期待していたりします。

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2008年4月11日 (金)

『扉は閉ざされたまま』 石持浅海

扉は閉ざされたまま (ノン・ノベル) Book 扉は閉ざされたまま (ノン・ノベル)

著者:石持 浅海
販売元:祥伝社
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閑静な住宅街、豪華なペンション、完璧な密室

何故、彼はそれほど強固に扉を閉ざさねばならなかったのか?

その秘密が明かされたとき、彼女は扉を押し開ける

カレーを作りました。指をそれはそれは見事に切りました。今も尋常ならざる量の血が流れております。「テキトーキータッチマンセー!」を信条とする私にとって、左手人差し指がお釈迦なのは辛い。それでもレビューせずにはいられない。だって、今日の作品はまたもや名作『扉は閉ざされたまま』だから。

先日W○W○Wでドラマ化もされました本作。どこかに動画が落ちてないもんかと探しておるのですが、私の拙い検索手腕では見つけられませんで。中村○介坊ちゃんの伏見は見たい。私が“プチ石持浅海祭”を始めたのも、この中村○介の伏見が見たい欲求から始まったものではないかと思料してみたり。

なんかもう、レビューの必要有るのか?ってくらいあちこちのブログで素敵レビューが書かれている本作。倒叙のスタイルを取り、“犯人VS探偵”の形式をストイックなまでに追求した作品です。正直に申し上げると、犯人の動機には「?」と思わないでもなかったり。動機なんてものは十人十色、ある人にとっては殺人を犯すに充分な理由も、ある人にとっては取るに足らない事象であったりしますから。だから、動機の面から犯人を特定するタイプのミステリは好きでは無いのですが。まぁ、それは個人的趣向。たったいま語ったテーマと同じことが云えるわけで。

まぁ、動機なんてどうでも良くなっちゃうくらい“犯人VS探偵”の頭脳戦が素晴らしいわけで。探偵役の彼女については『君の望む死に方』レビューで散々毒を吐きましたので、今回は自粛しますが、この事件をネタに強請りをかけ男を捕まえておいて(笑)もう殺人なんて見たくないとかなんとかぬかす彼女は素晴らしい人間だと思います。なんかもう、「えっ?根拠ですか?そんなものありませんよ。だって、私が間違うわけないですもの」とか云いそうだ。彼女なら。

とにかく頭脳と頭脳のぶつかり合いを愉しんでもらいたい一作。いつ扉が開くのか、いつ扉を開けるべきか、を犯人である彼といっしょに手に汗しながら読んでもらいたい一作。扉が開かれた後の描写が一切無いのも、本作を名作たらしめている所以だと思います。扉が開いたとき、それは作品が終わるときというストイックさが素敵です。

『月の扉』『扉は閉ざされたまま』という石持氏名作コンボを決められて、すっかりノックダウン気味の私。でも、次回のレビューは問題作『セリヌンティウスの舟』ですから…毒が吐けます。毒を吐きます。

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2008年4月10日 (木)

『月の扉』 石持浅海

月の扉 (光文社文庫) Book 月の扉 (光文社文庫)

著者:石持 浅海
販売元:光文社
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乳幼児を人質に取ったハイジャック犯の要求は唯ひとつ

警察署に留置されている石嶺孝志を指定した時刻までに連れて来ること

さぁ、いっしょに行こう

名作!!!!!!!!!

何度読んでも素晴らしいと感じることのできる作品。惜しまずに使います“名作”という言葉を。

本作は『心臓と左手』で再登場を果たした座間味くんが登場した記念すべき1冊。まだ独身だった座間味くんが彼女(後の嫁)と乗り込んだ飛行機で起こったハイジャック事件。彼女(後の嫁)を守ることだけを考えていたはずなのに、ハイジャック犯にあれよあれよと担ぎ出され、いつの間にか機内で起こった殺人事件の真相を究明することに。

正直に申し上げれば、ミステリとしての難易度は低いです。座間味くん、初めて扱う事件だから勝手が分からないのかな?なんて余計な心配をしちゃうくらいです。でも、本作の主題はそこではないんですよね。殺人の裏に必ず存在する“憎悪”や“悪意”という醜い感情を、正反対の“美しさ”でもって描く。文庫版帯に書かれている「かつて、こんなに美しいミステリーがあっただろうか」なんて、名紹介文だと思います。名作には名紹介文を。美しい。

しかも、殺人事件が解決された後にも怒涛の急展開が。本作が名作たる所以はここだと思っておるのですが、頁を捲る手を止めて「マジで?」って呟かずにはいられません。「えっ?えっええっ??」って云ってる間に終焉を迎えてしまうのですが、その余韻にしばらく浸れます。素晴らしい。

作品ラストの一文には、もうゾゾゾッとしますよ。座間味くんの最後の一言にちょっとだけ眼を潤ませてしまう私は、すっかり『月の扉』の世界にのめり込んでしまっていたようです。座間味くんを変えた何かが、私をも変えてしまったかのような。

石持氏お得意のクローズド・サークル。クローズド・サークルだからこそ起こりうる探偵と犯人(ハイジャック犯をも含む)の心の交流がとにかく美しい。最後のあの瞬間、座間味くんが感じたのは絶望か羨望か。

とにかく読んでもらいたい1作。惜しげもなく使います“名作”という言葉を。

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2008年4月 9日 (水)

『アイルランドの薔薇』 石持浅海

アイルランドの薔薇 (光文社文庫) Book アイルランドの薔薇 (光文社文庫)

著者:石持 浅海
販売元:光文社
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レイクサイドハウスで起こった不可解な殺人

すべてはあの日の爆破テロから

すべてはアイルランドの統一のため

唐突に“石持浅海ブーム”が私に到来しまして、既読未レビュー作品を片っ端から読み漁っております。しばらく“プチ石持浅海祭”が開催されることとなりましたので、皆様お付き合いくださると幸い。

“プチ石持浅海祭”第1作目の作品は石持氏のデビュー作でもある『アイルランドの薔薇』。歴史スキーを自称しております私ですが、そのベクトルは全面的に日本史方面に向いているため世界史には明るくありませんで。アイルランド問題についても本作で初めて知ったくらいの駄目人間です。本作はそんな駄目人間な私でも充分理解できるようアイルランド問題の歴史や背景をしっかり描写しつつ、ミステリ(しかも石持氏お得意のクローズド・サークル!)まで拵えてしまうという意欲作。

殺害されたのはアイルランド統一に尽力する武力勢力NCFの副議長(つまりお偉いさん)。犯人候補はレイクサイドハウス宿泊客8名。しかもその8名のなかには正体不明の殺し屋まで紛れ込んでいて…と、犯人当てでも愉しめる、殺し屋当てでも愉しめるという、1冊で2度美味しい作りになっております。

個人的には犯人究明の契機が動機方面からだったのが残念なのですが(って、それが本作のウリじゃないですかっ!?)物理的な理由付けもなされていた(伏線もしっかり張られていたしね)から及第点にしましょうか。本格ミステリは(西澤保彦氏が本作を「いまここに鮮やかに咲きほこる“本格”という名の美しい薔薇」と評しております)ロジックロジックロジックで詰め詰めして欲しいものですから。個人的好みですけどね。

さらに個人的好みを申し上げるならば、もう少し殺し屋のターンが多くても良かったかな、と。探偵役VS殺し屋の頭脳対決みたいな展開も読みたかったかも。まぁ、表舞台に登場してしまっては“正体不明の殺し屋”では無くなってしまうんですけれども。殺し屋という特殊過ぎる職業の方を登場させた割に…活かしきれていなかったように思います。個人的好みですけどね。

でも、やっぱり石持氏は長編の方がイイッ!と再認識。次回は超名作『月の扉』のレビューでお逢いしましょう。

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2008年4月 6日 (日)

『温かな手』 石持浅海

温かな手 Book 温かな手

著者:石持 浅海
販売元:東京創元社
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人間の生命力を糧としていきる種

パニックに陥った人間の余分なエネルギーを吸い上げて

彼らは謎を解き明かす

石持氏は本当に精力的な執筆活動をされていらっしゃるなぁ、と思います。ただ、執筆速度と傑作とが安直に結びつかないのが小説家というお仕事。はてさて、本作『温かな手』はいかがだったのでしょうか?

以前から申し上げております通り、私は石持氏の魅力は長編でこそ発揮されると思っておるのですよ。練りに練り上げられたプロット、計算され散りばめられた伏線、そういったミステリスキーをゾクゾクさせる作品が書けるミステリ作家だと。なので、短編という枚数の制約がかかったコースでは、結末へのドライビングが強引になってしまうのです。

そんなわけで、本作『温かな手』も強気なドライビング。どの作品も正しい所に落ち着くのですが、そこまでの道筋が障害物のない一本道なんですよね。次から次へと都合の良い状況や証言が飛び出してきて、「そりゃ、その結末に落ち着くだろうさ」と感じてしまう。作中の登場人物の言葉を引用するならば、

「実はわたし、あの場で謎を解こうなんて、まったく考えてなかったの」

まさにそんな感じなんですよ。この引用方法はちょっとアンフェアなんですが(前後の文章を抜いているので、探偵役がただの阿呆であるかのようだ)でも、作品が持つ全体の雰囲気を巧い具合に表現している言葉だと思います。謎を解こうだなんて思ってなかったけど、ちょっと頭を働かせたらいつの間にか解いちゃってた、みたいな。というわけで、ミステリ目線オススメ作品は特段無かったりします。

でも、ラストに収録されていた表題作「温かな手」は良かったですね。正直なところ「なんで“ギンちゃん”と“ムーちゃん”という2人の探偵役を用意する必要があるのか?」と思っていたのですが、すべてあの結末に帰着させるためだったとは。互いのパートナーに触れ「任せられる」と思ったからこそ選択されたラスト。喪失感が充分に巧く表現されていたと思います。あの作品がラストに有ったから、この作品が好きになった。そう思わせる秀作。

でも、やっぱり『君の望む死に方』には敵わないので、石持氏にはこれからも長編を書いてもらいたい、と。時間がかかっても長編を!と願って已まないのです。

あっ、探偵役が人間以外の謎の生物であることは特に気になりませんでしたのよ!

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2008年3月21日 (金)

『君の望む死に方』 石持浅海

君の望む死に方 (ノン・ノベル 845) Book 君の望む死に方 (ノン・ノベル 845)

著者:石持 浅海
販売元:祥伝社
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癌に冒された私の余命はあと6ヶ月

ただ、無為に過ごすことになろう6ヶ月

だから…私は君に殺されることにしたよ

いつもは密林のアフィリを使うのですが、なぜか表紙画像が用意されていなかったためセブンアンドワイで。密林で画像が用意されていたので差替え。どうしてそんなに表紙画像に拘るのか…もう皆様お解かりですよね?あの!あの作品の続編がついに登場です!!

続編と云っても、探偵役が同じであることを除けば別の作品。本作の趣向はちょっと変わってますよ。とてもネタバレ無しでは語れませんので…いきなりネタバレレビューの開幕でございますっ!!

本作は“自ら殺されることを望んだ被害者”と“被害者が自らの味方であることを知らない加害者”、そして“病的なまでに悪意を察知する探偵”の物語です。あれ?なんか探偵の紹介に毒が混じってますね。

とにかく趣向の凝らされた本作ですが、その最たるものは

探偵が殺人事件を未然に防いでしまう

ということでしょう。事件が起こってから登場し我が物顔で舞台を引っ掻き回すのが“探偵”ならば、事件を未然に防ぎ皆が納得する結末を用意するのが“名探偵”。では、本作の探偵役・碓氷優佳はどうでしょう?最後の「私はすべて知っていますよ」「殺人は私のいないところでやってください」という態度はどうなんでしょう?

個人的には「探偵が殺人への道をすべて塞いでしまった結果、加害者は動くことができず、加害者を夜な夜な待ち続け途方に暮れる被害者」というラストを用意して欲しかったところです。張り巡らされた悪意をすべて解き明かしておきながら、被害者の“殺されたい”意志が強いことを知り、事件の発生を容認してしまう探偵役って…必要だったわけ?

趣向自体は最高に好みなんですがね!探偵役の彼女がいけ好かないだけなんですよ!!『扉は閉ざされたまま』でも感じたことですが、彼女は妄想が過ぎる上、自分の妄想が正しいと猛進し過ぎなんですよ。物語の都合上、その妄想はすべて正しいんですけれど。

被害者と加害者が織りなす心理戦はなかなか楽しめました。同じ事象をどちらのサイドからも描くので、「もう読んだよ!」感は若干ありましたけれども。でも、<著者のことば>で石持氏が仰っている「みんなそれぞれに努力していることがよくわかりました」という作品に込められた意図は充分に伝わってまいりました。

この作品がどう評価されるのかは分かりませんが、『扉は閉ざされたまま』の続編として上梓されるに納得のクオリティでございました。面白い作品を読んだ、と言うに充分。ご馳走様でした。

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2008年1月27日 (日)

『人柱はミイラと出会う』 石持浅海

人柱はミイラと出会う Book 人柱はミイラと出会う

著者:石持 浅海
販売元:新潮社
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人柱、それは工事の完成を祈って神に捧げられる生贄

そんな「人柱職人」が存在する似非日本で巻き起こった非日常を

石持浅海が描く連作短編集

放置期間中に読了しました『人柱はミイラと出会う』が図書館で開架(予約無し)状態だったので、「こりゃ、再読&レビューにうってつけだわい」と借りてまいりました。「このミス!2008」でも21位以下にランクインしておりました本作。石持浅海氏の非日常ミステリです。

ポートランド出身の留学生・リリーが日本で出遭った不思議な風習。「人柱」「黒衣」「お歯黒」「厄年」等々、もはや現代日本には存在しない風習が色濃く残された似非日本が本作の舞台です。そして、探偵役を務めるのは「人柱職人」の東郷直海。「人柱」は工事が完成するまで(長いときは2年以上)地面深くに掘られた地下室で孤独な時を過ごす職業。その存在意義はまさしく生贄。“僕たちはちゃんとした工事をします→だから生贄を差し出します→もし土地の神様が僕たちの工事を気に入らないなら、生贄をどうとでもしちゃってください”みたいな無理な論理が罷り通る世界。無茶苦茶だ。

収録作のなかで最も好みだったのは表題作の「人柱はミイラと出会う」でしょうか。「人柱職人」がその職務を全うする地下室で発見されたミイラ死体。死体は「人柱」として地下室に籠った直海の仲間なのか?もし、仲間の「人柱」で無いのなら、彼は一体どこに消えてしまったのか?「人柱」という風習と、その舞台設定と、謎解きのキーポイントと。それらががっちりスクラムを組んだ、ロジカルな一作だったと思います。

では、他の作品は…ロジカルなんてあったもんじゃない、無理矢理そこまで飛躍させますか?的な展開が多かったように思う。最も「無いな…」と思ったのが「お歯黒は独身に似合わない」でしょうか?作中の似非日本では既婚者はお歯黒をするしきたり…では、既婚者でも無いのにお歯黒をして出掛けた彼女の目的は?という主題なのですが…それしきの条件で○○の○○まで見破らないで頂きたい。あとは「厄年は怪我に注意」もちょっとね。建物を○○させるべく、地下室に籠る厄年トリオって…風習云々でなくて、貴方たちの思考の方が非日常でございますわよ。ラスト3作はどれもこれも人情臭いし。

あとは、留学生・リリーさんと人柱・直海のロマンスは要らなかったかなぁ、と。唐突にロマンス混入されても、読者としては戸惑うだけです。まぁ、ラストのイースターの件を書きたかったのだと思いますが…ロマンスでなくても良かったのでは??

って、なんだか批判ばかりですね。でも、やっぱり「無い」と感じた作品の方が多かったもので。石持氏の作品にしては珍しく「人に“わざわざは”お勧めしない作品」かも。既に何度か申しておりますが、石持氏には是非とも長編を書いていただきたく。2008年、お待ちしておりますっ!!

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2007年12月19日 (水)

『Rのつく月には気をつけよう』 石持浅海

Rのつく月には気をつけよう Book Rのつく月には気をつけよう

著者:石持 浅海
販売元:祥伝社
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大学時代からの仲良し3人組が集まる金曜の夜。

美味しいお酒と美味しい魚と、美味しい謎がテーブルには並ぶ。

石持浅海が描く、ハートフルミステリ。

何位なのか数える気にはなりませんが、とにかく「このミス!2008」にもランクインされていた本作。個人的には18位の『心臓と左手』より好みでした。

本作は石持氏にしては珍しい“日常の謎”を主題にしたハートフルミステリ。長江・熊井・夏美の仲良し3人組が美味しいお酒と美味しい肴を囲みながら、その日誰かが招待したゲストの悩み・謎を解決する。探偵役は“悪魔的な頭脳を持った”と評されるキレ者・長江で、その長江の推理の材料をゲストから引き出すのが、“荒っぽいけれども心優しい”熊井と“一升瓶を一気できるザル”夏美。そんな3人の仲の良さに心暖まりながら、上質な謎に取り組むという趣向です。

個人的に好きだったのは表題作「Rのつく月には気をつけよう」と「悪魔のキス」かしら。表題作は“日常の謎”よりも若干ミステリ寄りかも。オチに恋愛が絡むので騙されそうになりますが、本格ミステリのトリックとして使われてもおかしくないネタではないでしょうか?「悪魔のキス」は単純にゴシップ好きの私の本性が出ただけです。でも、恋愛が絡んだ瞬間に女は神懸かり的発想を得ますので。長江でなくとも、このくらいの結論まで持ってける女性は多いのでは無いでしょうか?

さて、本作には○○トリックが仕掛けられております。このトリックについては私は冒頭から看破していたのですが(と、偉そうに言うほど難しいものではない。もしかしたらトリックに気が付かない読者も居るかもしれない。読み方次第)それに気付いていたとしてもラストの大団円には大満足。私、こういうオチに弱いのよ。恋愛を主題にした作品はあまり得意ではありませんが、このくらいスマートにやってくれるなら大歓迎です。

というわけで、今年度発表された石持氏の短編集の中では本作が最も好みに合致しておりました。装丁も素敵だったしね!

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2007年12月15日 (土)

『心臓と左手』 石持浅海

心臓と左手  座間味くんの推理 (カッパ・ノベルス) Book 心臓と左手 座間味くんの推理 (カッパ・ノベルス)

著者:石持 浅海
販売元:光文社
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あの“座間味くん”がついに帰ってきた!

美味しい料理と共に提供されるアクロバティックな推理

さぁ、美味しく召し上がれ

あの名作『月の扉』で探偵役を努めた“座間味くん”の復活、というミステリファンにとって嬉しい一作が今日のレビュー作品『心臓と左手』でございます。「このミス!2008」では堂々の18位にランクインした本作。酒の肴に既解決事件の与太話を→それを聞いた座間味くんがアクロバティックな論理を展開する、という趣向の作品ばかりが集められた短編集。

私のフェイヴァリット作品は「水際で防ぐ」でしょうか。外来種が与える生態系変化の危険性を訴える団体で起こった殺人事件。与太話を聞かせてくれるのが警視庁の凶悪犯係(で、良いのでしょうか?)の現役刑事ということもあって、収録されているすべての作品はそういった危険団体ないしは宗教団体・テロリストたちが起こした事件として語られるのですが、この「水際で防ぐ」で取り扱われている団体はいろんな意味で凄いです(笑)海外からの貨物船に向けて、拡声器でシュプレヒコールを挙げる彼等。「いやいや、そんなの無駄だから!」と思わずツッコミたくなる彼等の活動に、アクロバティックな推理のメスを入れるのが座間味くん。その切れ味は読んでのお楽しみ。ただ、作品ラストの「彼らが大切にしていたのが、動植物だったのか、それとも人間だったのか」という台詞が素晴らしくて、思わずゾクッとしてしまいました。この一言があったから「水際で防ぐ」が私のフェイヴァリットになったと言っても過言ではないです。

次点は表題作でもある「心臓と左手」か、まさに『月の扉』その後と言える「再会」か。「心臓と左手」の推理の美しさは見事です。無理や無駄のないロジックにうっとり。その反面、「沖縄心中」の推理には無理が有り過ぎると感じました。ロジックの飛躍加減から言えば収録作の中で最も羽ばたいている作品だと思うのですが、「そこまで飛ばすのはちょっと無理があるような?」と感じてしまったのが事実。皆様、いかがでしょう?

「このミス!2008」レビューでも触れたのですが、やっぱり石持氏には練りに練られた長編を書いていただきたいと思った読了後。「沖縄心中」に感じた違和感はきっと、短編という限られた枚数で披露されたがための違和感だと思うのです。石持氏はじっくりと外堀を埋めてから「これで、どうだっ!!」と言わんばかりにひっくり返してくれるタイプの、貴重なミステリ作家だと信じておりますので。

なんて偉そうなこと言っておりますが、私自身も「じっくりゆっくり推敲してからレビューしないと…」と反省しきりでございます。

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2006年9月 7日 (木)

『顔のない敵』 石持浅海

顔のない敵 Book 顔のない敵

著者:石持 浅海
販売元:光文社
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『扉は閉ざされたまま』でミステリ界を震撼させた石持浅海の最新刊は「対人地雷」をテーマにしたミステリ連作短編集。

「対人地雷」というテーマとミステリとの融合は成立するのか?

積読本消化期間中です。ようやく読めました、石持浅海の最新刊『顔のない敵』。

お恥ずかしい話、「対人地雷」について私が意識したことはこの『顔のない敵』を読むまで全くございませんでした。小渕元首相の時代に対人地雷全面禁止条約なるものに日本が調印していたことも知りませんでしたし、「対人地雷」を除去するために活動しているNPOについても認識しておりませんでした。地雷=踏めば爆発するものという知識のみ。お恥ずかしい話です。

私は完全に“戦争を知らない子どもたち”の世代ですので、戦争が残した傷跡や影響について、考えることや痛ましく思うことはあっても、なにかをしなくてはならないという積極的なアクションを行ったことはありません。完全に“対岸の火事”状態。お恥ずかしい話です。

ミステリで「対人地雷」のようなテーマを取り扱うことは非常に珍しく、本書は石持氏のねらい通り、新しい世代にその深刻さや重要性を認識させるきっかけに成りえる物だと思います。

ミステリとしてもなかなか秀逸。私は短編集最初に収録されている「地雷原突破」がこの作品集の中では一番のお気に入りですが、通常避けるべきである地雷をいかにして踏ませるか…という着眼点が素晴らしいと思います。地雷を本来の目的である凶器として使用する。殺人という行為がそもそも許されないものですが、その殺人の道具として地雷を使用することでその行為をさらに悪なるものにしている。深いです。

この短編集はあくまでも「対人地雷」をテーマにした作品ですので、地雷そのものが登場しない・使用されない作品もあります。ですが、地雷の被害が深刻であるカンボジアを舞台にした作品の方が、より深みがあって考えさせられる。ここでも“対岸の火事”状態を意識せずにはいられません。人はその状況下に置かれない限り、深く物事を思考できないものなのでしょうか。単に私の想像力不足なのかもしれませんが。

ラストに納められている石持氏の処女作も、そのトリッキーな舞台設定が良いです。なぜあの状況下で殺人を起こさなくてはならなかったのか。必然性としてはかなり薄いですが、パニックになった犯人の心境ならばもしくは…といった感じです。

石持氏はこれからがとても楽しみな作家さんのお一人です。『扉は閉ざされたまま』クラスの名作をまた期待しております。

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2006年3月30日 (木)

『水の迷宮』 石持浅海

水の迷宮 Book 水の迷宮

著者:石持 浅海
販売元:光文社
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水族館に送られてくる脅迫メール。

果たして脅迫を仕掛けているのは誰なのか?そして脅迫者の真意は?

そこから浮かび上がる過去の事件の真相とは?

水族館に行きたくなりました。

この作品は石持氏お得意の閉鎖空間で起こった事件と、そこに渦巻く人間の感情や感傷が主題として描かれています。

水族館という舞台設定を最初にこのストーリーを考えたのか、ストーリーを元に舞台を水族館に設定したのか。もし後者なら石持氏天才ですよ。水族館の描き方、魅せ方が巧い。そこで冒頭の言葉なのです。

しかし、いくつか感情的に納得の行かない部分があるのですね…(ここから激しくネタバレします。この警告文も久しぶり)

まず、ミステリにおいて犯人が捕まることなく、登場人物たちもそれを容認するという結末に喝!

犯人が特定されているのにですよ?グレーではなく、犯人自ら自白しているのにですよ?有り得ない…。いくら犯人がこれからの水族館にとって必要な人物だったとしても、その人間と以後心を交わして、心から犯人を信じて仕事をしてゆくことってできるでしょうか?少なくとも私には無理。

仮想の世界に限らず、罪を犯した人間は法によって裁かれなくてはならないと私は考えます。それは罪を犯した本人にとって一番良いことなのではないでしょうか?法に裁かれることによって、その人間はもう後ろめたい思いをしなくてよくなると私は考えます。

つまり、犯人が裁かれない=犯人はいつまでたっても許されないという方式が成り立つのですね。それって本人にとって良いことなのでしょうか?いくらその後の水族館の発展に貢献したとしても、それが罪滅ぼしになるのでしょうか?

石持氏もそのあたりのことは考慮して、あの結末になったのでしょうが、私個人的にどうも納得のゆかない箇所なのです。

あとはこれも石持氏特有の探偵の論理の飛躍。もちろん無理のない程度ではあるのですが、どうしてそれが唯一の解答となり得る?という場面で、探偵が断言してしまうのですね。その他の箇所ではことごとく可能性を潰して描いているのに。ここも非常に気になりました。

それでも読んでいて、何度か胸を熱くさせる場面に出会いました。ミステリとしては納得のゆかない部分もあるけれど、良い作品だったなぁと感じます。

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2006年3月11日 (土)

『BG、あるいは死せるカイニス』 石持浅海

BG、あるいは死せるカイニス Book BG、あるいは死せるカイニス

著者:石持 浅海
販売元:東京創元社
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男性化候補筆頭で誰からも好かれていた姉が死んだ。

特異な世界を舞台に描かれる特異なミステリ。

『扉は閉ざされたまま』で脚光を浴びた石持浅海渾身の一作。

男性化候補筆頭なんて言葉をいきなり読まされても…とお思いの貴方!わかりますよ、その気持ち。でも、この『BG、あるいは死せるカイニス』を是非お読みください。

舞台となる世界は女性しか生まれてこないパラレルな日本。この世界では優秀な女性がある時期を経て自然と性転換を男性となります。もうその設定だけで、なんじゃこりぁ。

ただ、事件の動機がまさにその世界観を根底として作られているので、否応無くその世界観にのめり込まされます(アァ、ニホンゴムズカシイネ)。好き嫌いは分かれるでしょうが、私はこういうパラレルな設定好きですね。

だって、創作の中で無ければ出会えないじゃないですか。

この設定を受け入れられるのは男性より女性が多いのではないかと考えます。男性になってみたいと思ったことのある女性って多いと思うのですよ。それに、パラレルに対する許容度って女性の方が広いでしょ?

例えば戦国時代好きって圧倒的に男性の方が多いですが、三国志好きってことになると半々くらいの確率ではないかと。三国志にまで遡ってしまうと、もうファンタジーなんですよね。現存する文献が少ないため、伝説が入り込む余地が多すぎて。そのあたりが嫌いな男性って結構多いと思うのですが。かくいう私も戦国より三国志の方が好きです。

さて、脱線した話題を元に戻しましょうか。

ミステリとしてはまぁまぁ納得のゆく出来上がりかと。ただ、論理の筋道があくまでも動機をベースにしているため、世界観に納得できない場合はミステリ自体にも納得できないでしょうね。

動機をベースにした作品というのは、その動機に納得できるか否かにすべてがかかっているため、リスクが大きいと感じます。同じく浅持氏の『扉は閉ざされたまま』だって、登場人物ふたりの理論的なやり取りには好感持てますが、動機の面では不満を感じてしまいましたもの。その立場に陥ったものでないと感じることの出来ない感情を動機と位置づけてしまうのは作品の成立にとって大きな障害。『扉は~』はもちろん上質なミステリだと思っておりますが。

浅海氏の作品は動機を主題とした作品が多いため(『月の扉』なんかもそうですかね)読む読者を選ぶかもしれませんね。『アイルランドの薔薇』はトリック重視かと思いますが、根底に流れるテーマが難しいし。

これからが楽しみな作家さんのお一人であることは変わりありませんが。

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