●海外ミステリ

2016/11/10

『樽』 F・W・クロフツ

電子書籍にて。私が読んだのは訳者が田村隆一となっていたので1962年の角川版でしょうか。

港で盗まれた樽の中から発見された女性の扼殺死体。盗んだ男が犯人かと思われたが、男は自分も騙され指示されただけだと手紙を見せる。男の言うことは本当か。なぜ死体は樽に入れられ運ばれたのか。そもそも死体の女性は誰なのか。地道な捜査により明らかになる真実と犯人の緻密な計算がラストで集約される古典ミステリの名作。

アリバイ崩しもののとして紹介されることの多い本作ですが、アリバイ崩しが始まるのは物語の2/3が過ぎてから。それまでは警察の地道な捜査がとても丁寧に描かれ、容疑者が逮捕されるわけですが…まだまだ中盤、そこから物語は大きく展開します。

(ネタバレします)個人的には犯人がなぜ賭けの話を知っていたかが鍵だと思っていたのですが、偶然にもその場所(店内)にいたというオチでした。そこだけは都合が良すぎるだろうと思いますが、その他は実によく練られており描写も細かく丁寧です。名作はいつ読んでも名作だと改めて実感する1作です。

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2016/05/18

『誰がロバート・プレンティスを殺したか』

twitterでTLに流れてきた1冊。

毒殺事件の解決を依頼する手紙から始まり、現場写真、遺留品、事件を報道する新聞などを網羅した「捜査ファイル」から事件の犯人を暴くという趣向の1冊です。出版は1983年。

推理小説では事件現場の見取り図やダイイングメッセージなどがイラスト化され挿入されていますが、本作ではその本物が添付されています。

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こんな感じ。プレミアが付いているので私は地元の図書館で借りたのですが、誰も証拠品を袋から出していないのかとても綺麗な状態でした。もちろん私も出せませんでした(笑)

事件解決の鍵となる○○も発売当初は付いていたのでしょうか。だったらブラボーですね。

ミステリとしてもおもしろかったです。○○○が犯人のパターンですが、なぜ○○○はその行動に出なくてはならなかったのか。一度無罪となって二度と裁けない存在になりたかったわけですがその理由がポイントですね。

こういう趣向の本は大好きなので現代で出して欲しいです。活躍されているミステリ作家監修だと尚嬉しい。もちろん買います。

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2016/04/03

『皇帝のかぎ煙草入れ』 ジョン・ディクスン・カー

電子書籍にて。訳者が宇野利泰なので私が読んだのは講談社文庫版でしょうか。

翻訳モノのなかでカーは断トツに読みやすいと思っております。本作も数時間で読了。もちろんおもしろいというのが一番の理由ですが。

大胆なトリックを打ち破るポイントが実にシンプルでスマートなのがいいですよね。そして(ネタバレします)それが読書前からずっと、堂々と読者の脳内に居座り続けているのがまたいい。なんと秀逸なタイトル。これがあるから、読者は鍵となる「かぎ煙草入れ」という言葉が出てきても、それを自然なこととして読み流しちゃうんですよね。素晴らしいです。

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2016/04/02

『三幕の殺人』 アガサ・クリスティ

電子書籍で読了。訳者が赤冬子となっていたので私が読んだのは角川文庫版でしょうか。

ニコチンによる3つの毒殺事件。同一犯による連続殺人であればそこには共通の(連なった)動機があるのが筋というものだが…。ポワロを震撼させた驚きの、そして身勝手な動機とは。

などとあらすじを書いてみましたが(以降すべてネタバレしてます)第一幕の「リハーサルだから誰でも良かった」というのは個人的には微妙。ただのサイコパスじゃないですか。そして、三幕の「めくらまし」もサイコパスの所業。原因たる妻を殺そうとするならまだしもね。

とりあえず、クリスティだから素人探偵3人の誰かが犯人だろ…と読者に思われちゃうのがこの作品の最大の難点かと(笑)このトリックの親戚にクリスティ名作であるアレがありますが、アレはネタバレなしに読めると一生しあわせでいられるのでタイトルは言わないようにします。とにかく、アレと比べると何段か落ちるのが残念ですよね。

あと、執事に化けていたという突っ込みポイントは…名優に敬意を表しておくべきでしょうか。

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2013/09/14

『火刑法廷』 ジョン・ディクスン・カー


『グラン・ギニョール城』
のエピローグで本作について触れられており、懐かしく再読してみた。学生の頃と今と、読了感が大きく違っていてとても驚いていたりする。

先ずお伝えしたいのが、

『火刑法廷』と題されておりながら法廷モノではないということ(笑)

絶対法廷ミステリだと思うよね。でも、大丈夫、読んで損はさせません。

不死の毒殺魔に密室、死体消失と謎を魅力的にしてくれるトッピングがたくさん。けれど、その答えの在処はとてもとてもシンプル。え?そんな簡単なことだったの?と思わず膝を叩きたくなること請け合い。そして、

エピローグでひっくり返る世界観

これがたまりません。ミステリとして充分に魅力的なのに、一瞬で、たった数ページで物語は一気にホラーに。一粒で二度おいしいとはまさにこのこと。

とりあえず、読んでいる間中、すっと背中が冷たかった。漂ってくるその雰囲気に呑まれてしまった…これが学生の頃と今と、再読して大きく違ったところかな。

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2009/04/04

『思考機械の事件簿Ⅰ』 ジャック・フットレル


2プラス2は4だよ、ハッチ君

それもときどきではなくて、

いつ、いかなるときにもだ

ときどき自分の脳内連想ゲームはどうなっているのか疑問に思うことがあって。『推理作家になりたくて 謎』に収録された泡坂妻夫氏「DL2号機事件」からの連想がフットレルの「十三号独房の問題」で。この「十三号独房の問題」、名作の呼び声高く読みたくて読みたくて仕方が無いのですが出遭いがなく。そもそも『思考機械の事件簿』自体が既に絶版、古書店で買い求めるしかなく未だ出遭えず、今日は図書館様にお世話になったのです。

というわけで、ホームズのライヴァルとの呼び声高いオーガスタス・S・F・X・ヴァン・ドゥーゼンが本シリーズの名探偵役。哲学博士、法学博士、王立学会会員、医学博士などなど多数肩書きを所有し、素人にも関わらずチェスの世界チャンピオンを15手で詰み、「思考機械」という称号(?)を得た奇人です。冒頭でホームズよろしく、後の相棒であるハッチ記者のバックボーンを当ててみせた思考機械。まぁ、この手の推理は作者の思うまま…あわあわあわシャーロキアンに襲われる。

『事件簿Ⅰ』に収録されている作品のなかでは「情報漏れ」が好きかも。密室から漏れ出た機密情報。この情報を入手できるのは本人(依頼人)とタイプライターを打つ秘書だけ。指示が遂行されるまで本人も秘書も部屋からの外出は赦されず、絶対に情報が漏れるわけがないのに。2+2=4なので(なぜ1+1=2ではないのかずっと気になっておりました)本人が情報を無意識下でも漏らしていないなら…当然秘書が怪しいわけで。では、秘書はどうやって情報を外部に伝えたのか?

思考機械の取り組む謎(解)はシンプルなものが多くって。派手な捕り物劇はなく、そこにあるのはロジックだけ。ロジック最強。最近の犯人たちは自分の力(知能)を誇示し過ぎですね、「実際に偉大な犯罪者は、絶対に発見されぬものです。なぜかというと、偉大な犯罪そのものが-つまり、彼らの犯行が-明るみに出ることがないからです」

「いま、この部屋で、あなたを殺すこともできます」
「そしてそれを知る者は一人もありません。疑われることもないのです。なぜでしょうか?ぼくはミスをおかさないからです」

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2008/12/15

『毒入りチョコレート事件』 アントニイ・バークリー

毒入りチョコレート事件 (創元推理文庫 123-1) Book 毒入りチョコレート事件 (創元推理文庫 123-1)

著者:アントニイ・バークリー
販売元:東京創元社
Amazon.co.jpで詳細を確認する

一見、単純に見える毒入りチョコレートによる殺人事件

しかし、見る眼が変われば犯人すらも変わる!?

古典、名作!

約1ヶ月の放置期間、あの毒吐きレビューがトップページを飾っていたとはっ!?

ついフォントを大きくしてしまいました。今回はPSP失踪と申し上げるのが適当でしょうか。でも、「DISSIDIA」到着してからが本当のPSP失踪になりそうだしな…って早くも次回の失踪宣言ですか!?お久しぶりですまじょ。です。

この失踪中に愛しの本多孝好氏は新刊を発表し、辻村深月嬢に至っては2冊も上梓、さらに西尾維新氏まで!と出版ラッシュだったわけですが…全部買いましたがまだ1冊も読めてません。しかも「このミス」まで出てますね。ランキングだけチラ見しましたが、まぁ読んだことある作品少なかったです。いつものことですが。

そんなわけで、失踪前に読了しておりました『毒入りチョコレート事件』が復帰レビュー作。最初に読んだのは中学生のときなので…○年ぶり。もちろん○のなかの数字は二桁です。で、やっぱり中学生のころの私はこの作品の良さが判ってなかった!なんでもっと早く再読しておかなかったんだ!もっと早くにこの作品の良さに気付いていれば「3年に1回読み返す本リスト」に入れて4回は読めたというのに!!あっ、二桁の数字がバレる。

古典中の古典、名作中の名作ですので既読の方も多かろうと思いますが、今日はあまりネタバレしない方向で。復帰レビューですしね。

『毒チョコ』のあらすじをまじょ。的に書き出すならば「6名の犯罪研究家が独自の推理法、独自のアプローチを以ってして未解決事件に挑む。ただし、結末がひとつだとは限らないぜ☆」って感じでしょうか。ミステリといえば「唯一無二の名探偵が導き出した推理こそが正解マンセーマンセー」がお約束なのですが、この『毒チョコ』はそれに正面から喧嘩を売った作品(笑)

私は断トツでブラッドレーの推理が好きですね。しかも最初の方。繰り返しますか?

最初の方。

いやぁ、ユーモア利いてる。1929年の作品にこれをやられては脱帽です。

そして、このバカミス以降じりじりと真相に近づいてゆく様が圧巻ですね。毎晩毎晩新たな発見があり、毎晩毎晩グレードアップされた推理が展開される。そして、最後には最後に相応しい結末がしっかりと用意されて。個人的にはブラッドレーの推理が大好きなので、もうそれで良いんじゃない?(笑)と思ったりもしますが。つまりは読者の数だけ真相が違うってことなんですよね。最後に結末として用意された推理が気に入らないなら、それまでに発表されたものの中からでも、自分で考えついた推理でも、どれでも好きなものを結末にすれば良い。そんな遊び心に溢れた古典の名作。

『毒チョコ』って省略形が凄く可愛くて好きです。何度でも言いたくなる口に出したくなる『毒チョコ』。

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2008/11/16

『あなたに不利な証拠として』 ローリー・リン・ドラモンド

あなたに不利な証拠として (ハヤカワ・ミステリ文庫 ト 5-1) Book あなたに不利な証拠として (ハヤカワ・ミステリ文庫 ト 5-1)

著者:ローリー・リン・ドラモンド
販売元:早川書房
Amazon.co.jpで詳細を確認する

アメリカ探偵作家クラブ最優秀短篇賞を受賞した「傷痕」をはじめとした

5人の女性警官を主人公とする10の短篇を

そこにあるのはリアル

『あなたに不利な証拠として』というタイトルが秀逸すぎて、読んでみたい読んでみたいと思いながら2年。文庫で並んでいるのを見てついつい購入ようやく読めました。

『あなたに不利な証拠として』というタイトルが秀逸すぎて、どんな内容なのかはさっぱり知らず。本作を知ったきっかけが「このミス」だったので、ミステリなんだろうなとは思っておったのですが…あれ?ミステリ?本作ってミステリ??

ミステリ小説=謎を解くという行為が描かれた小説、だと思っているので個人的には本作はミステリじゃないという判断なんですが…私のミステリ小説定義狭すぎます?アメリカ探偵作家クラブ最優秀短篇賞を受賞した「傷痕」が一番ミステリらしい作品だと思いましたが、結局どちらが真実が解らない(もちろんキャシーの中では結論は出ているのですが)ので、ミステリではないのではないか、と。でもアメリカ探偵作家クラブ最優秀短篇賞なんですよねやっぱり私の定義は狭すぎるのか。

「男らしい」「性別詐称」「生まれるとき性別間違ったでしょ」としばしば言われる私ですが、本作に登場する女性たちにはとてもとても敵いません。凄い。個人的にはキャサリンが好きです一番格好良い。でも、惚れない。何故なんだろう、彼女たちが抱えるものは重すぎるから?

池上冬樹氏の文庫版解説を読んでなるほど!と思った一節があったので引用を。

物語では、キャサリンがどのように事件と関わり、どのように射殺したかを振り返る。それだけである。十八頁、およそ三十枚の短篇なのに、まるで長編のように重く深い。

なので、読むにはとても気力が必要です。彼女たちが抱えているものと同じくらいの。

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2008/11/08

『九マイルは遠すぎる』 ハリイ・ケメルマン

九マイルは遠すぎる (ハヤカワ・ミステリ文庫 19-2) Book 九マイルは遠すぎる (ハヤカワ・ミステリ文庫 19-2)

著者:ハリイ・ケメルマン
販売元:早川書房
Amazon.co.jpで詳細を確認する

「九マイルもの道を歩くのは容易じゃない

まして雨の中となるとなおさらだ」

貴方はこの言葉からなにを推理しますか?

あまりにも有名すぎるあまりにも秀逸すぎるタイトル『九マイルは遠すぎる』。高校生の頃、本作を読んだときにはその良さがよくわからなかったのごめんなさい。屋敷が傾いてたり、屋敷が十角形だったり、30人くらい被害者が居たりする小説ばっかり読んでいた弊害?でも、いまならわかるこの良さが。

『九マイルは遠すぎる』はニッキィ(ニコラス・ウェルト教授)と郡検事の“わたし”が、ああでもないこうでもないと主に“わたし”をからかいつつ、謎を墓暴きの如く掘り出してきては解決するシリーズ短編集。

この「謎を墓暴きの如く掘り出してきては」ってのがポイント。あまりにも有名な表題作「九マイルは遠すぎる」はニッキィの

「たとえば十語ないし十二語からなる一つの文章を作ってみたまえ」
「そうしたら、きみがその文章を考えたときにはまったく思いもかけなかった一連の論理的な推論を引きだしてお目にかけよう」

という挑発(?)から、すべてが始まるという秀逸すぎる物語。“わたし”が作った十一語からなる文章が、どんな論理的な推論を生み出すのか…は読んでのお楽しみ。

そんなわけで。事件すら、謎すら発生していない無から、ニッキィと“わたし”の掛け合いによって事件が、謎が形作られる。もちろん派手さはないけれど、じわっときますこの良さは。

表題作以外なら「おしゃべり湯沸かし」が好き。隣室で鳴った湯沸かしの音から事件を捏造して(笑)解決までしちゃう。しかも、終わりのユーモアも黒い。

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2008/05/14

『ひらいたトランプ』 アガサ・クリスティ

ひらいたトランプ (ハヤカワ文庫―クリスティー文庫) Book ひらいたトランプ (ハヤカワ文庫―クリスティー文庫)

著者:アガサ クリスティー
販売元:早川書房
Amazon.co.jpで詳細を確認する

ブリッジを終えたとき、シャイタナ氏は死んでいた

パーティの参加者は全部で8名

その役割は…4名の探偵と4名の犯罪者

「洋モノが読みたい」(んまっ!)と思い立ち、既にカオスと化している本棚から最初に救出された洋モノがこの『ひらいたトランプ』でした。先日再読した篠田真由美『angels 天使たちの長い夜』でこの作品について触れていたので、これも何かの巡り合わせだろうとそのまま読書に入ったのですが…やっぱりクリスティは最高だ。

まずはクリスティから読者に対する挑戦文。

これは例のエルキュール・ポアロの自慢の手柄話である。しかし彼の親友ヘイスティングズ大尉は、ポアロから、この話を手紙で知らされ、非常に単調だと思った。
読者のみなさんは、果たしてどちらの意見に軍配をあげるであろうか。

ですよ。もちろん私は前者(ポアロ)に軍配を上げるわけですけれども。ヘイスティングズが云うように終盤までは単調な事件なんですが…単調だからってつまらないとは限らない。それは作中で取り扱われるブリッジについてもそう。私はブリッジの経験も無いしルールすら知らないけれども、知らないからと云って作品そのものを楽しめないとは限らない。うん、クリスティ(と訳者)の筆力ですね。

あっ、この挑戦文にはちょっとした叙述トリックも含まれておりますね!

そして終盤、単調から脱却した物語は二転三転。4人の容疑者のうち誰が犯人なのか、読者はわからなくなる。ポアロが執拗に迫っていた人物が犯人とは限らない。最も怪しいと思っていた人物が犯人とは限らない。もちろん最も怪しくないと思っていた人物が犯人だなんて…そんなことをクリスティがするとでも?

とにかく満足な一冊。『アクロイド殺し』がクリスティのベストだという個人的意見は変わらないけれど、『ひらいたトランプ』も大好きです。

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