■本多孝好

2013/01/21

『at Home』 本多孝好

愛して止まない本多孝好氏の「家族」をテーマにした作品集です。

描かれている家族の形は4つ。もちろんどの家族も「絵に描いたようなしあわせな家族」であるわけがなく、むしろそんな家族は世界のどこにもないのだと思いますし、そんな家族があったならそれはそれで異常なことだと思うのですが、とにもかくにも「普通とは違う」「歪さ」を自覚しながらも家族として生きている「家族」の物語なのです。

個人的なベスト、ラストのシーンで嗚咽が止まらなくなったのが表題作の「at Home」。どんな家族なのか…を詳らかにしてしまうとネタバレ以外の何物でもなくなってしまうので避けますが、ラスト、お父さんが土下座するシーン、その言葉にぶわっと涙が溢れました。家族の繋がりとは血の繋がりなのか、絆の繋がりなのか、記憶(想い出)の繋がりなのか…人によって解釈は様々だし、正解なんてないのだけれど、敢えて言いたい。あの5人は家族だ、と。そして、そんなことお前に言われなくてもわかってるよ、と返ってきそうな「at Home」がたまらなく好きです。

ところで。私が持っているハードカバーの装丁は黄色ベースのものなのですが、現在は違うタイプ(↑)に代わってしまったのですね。本多孝好と書かれた見慣れないものはなんでも買ってしまいそうになるので、この装丁チェンジは私にとってトラップ以外の何物でもありません()

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2009/02/08

『MOMENT』 本多孝好

MOMENT (集英社文庫) Book MOMENT (集英社文庫)

著者:本多 孝好
販売元:集英社
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死ぬ前にひとつ願いが叶うとしたら

貴方はなにを願いますか?

死の瞬間、その刹那、なにが見えますか?

『MOMENT』はハードカバ2冊(サイン本と読書本)と文庫(通勤本)を所有しているというなんとも勿体無いお金の使い方。本多氏の懐が少しでも暖かくなってくれれば本望、そして新しい物語がひとつでも多く生まれてくれたら感激、それくらい愛して止まない本多孝好氏の作品『MOMENT』が本日のメニューです。

いまでも本多氏のベストは『MISSING』の「瑠璃」だと疑わない私ですが、『MOMENT』も好き。キャラクタという意味では『MOMENT』の僕は『真夜中の五分前 side‐B』の捻くれた彼と同じくらい好きです。そういえば、本多氏の作品で主人公の名前を思い出せるものって無いかも(『MOMENT』の僕が神田だってことも、いま確認するまで思い出せなかった…トリアタマ)。

本作は病院の清掃夫に身を窶した僕が、貰いすぎた報酬を返済すべく働く4つの物語。死ぬ前にひとつだけ僕の出来る範囲で貴方の願いを叶えましょう…その中でその刹那、浮き彫りにされゆく生と死の肖像。個人的には復讐とか脅しとか、そんなものとは無縁の、ただただ意味のないただただスマートな会話がその場を支配する「FIREFLY」が好みでしょうか。

価値のない人間なんていなくって、価値のない人生なんてなくって。最終的にそれを判断するのは自分だから…そんなわけないじゃない。表題作「MOMENT」の言葉が印象的。

自分の勝手な事情で、自分で勝手に死にたいのなら、自分が関わったすべての人の同意を取り付けるべきです

なにも考えていないように見えて、常に冷静であるように見せて、いつくもの死を見送っておきながら、むしろいくつもの死を見送ってきたからこそ、生まれることのできた言葉…そんな印象を持った印象的な言葉に同意したい。

『MOMENT』にはもうひとつ物語があって、それは読書が大好きな私たちみたいな人種には死と同義かもしれない物語で。必殺仕事人は登場しないけれど、本作よりも少し未来が見える物語も是非とも堪能ください。

もうひとつの『MOMENT』はこちら

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2008/09/19

『FINE DAYS』 本多孝好

FINE DAYS (祥伝社文庫) Book FINE DAYS (祥伝社文庫)

著者:本多 孝好
販売元:祥伝社
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恋に切なさが付き物ならば

その切なさに種類があるのはご存知?

本多孝好が織りなす4つの恋愛小説

本多孝好スキーを公言している割に『FINE DAYS』はそんなに好みじゃなくって2回くらいしか読んだことなかった私。でも「イエスタデイズ」映画化で意識してしまったが最後。短編集は通勤時に読むという独自ルールを守るために、文庫本をわざわざ購入してまで読ませていただきました。この印税が少しでも本多氏の懐に入ってくだされば本望。

さて、『FINE DAYS』には4つの恋愛小説が収録されているのですが…

「イエスタデイズ」が一番人気って本当ですか?

個人的には一番不人気なのが「イエスタデイズ」なんですが。やっぱり私の感覚ってズレているんだろうか。私は「眠りのための暖かな場所」を映画化して欲しかった…その理由は主人公が好みってだけなんですが。本多作品で女性が主人公って珍しいですよね。初めてじゃないかってくらい。でも、読んでいて『MISSING』を思い出した…彼女は本多初期作品の主人公たちに近いのでしょう。好きです。

「シェード」も良い。昔話と今とが交差する感覚が自然で好きです。でも、ベッタベタ。

表題作の「FINE DAYS」も好きです。主人公に関わる人間が誰も幸せになれないところが、ダックスフントを挟んで寝るところが、「お前は天才だ」と肩を叩かれて微笑む神部が、好きです。

4つ全ての作品に共通して云えるのが、不思議を不思議のまま受け入れながら(受け入れると云うよりは受け流すが正しいかもしれませんが)どこかで折り合いをつけながら、人間は生き続けるということを描いている点。恋愛に挫けて、人生に挫けても、生き続ける限り人間は寝て、食べて、排泄をする。そんな“生”を4つの作品から感じました。

なにはともあれ、これで映画「イエスタデイズ」の特典小説が読める。今晩寝る前にさくっと読んじゃうつもりです。あの薄さなら5分くらいで読めるでしょう。感想レビューは…ネタバレどころの話じゃないので書くかどうかは微妙です。すんごい良かったら(あるいは良くなかったら)書くかもしれないです。

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2008/09/13

祝・映画化

私の愛して已まない本多作品、
初の映画化!!

『FINE DAYS』収録の「イエスタデイス」映画化情報をキャッチしたのが一昨日。そして勝手にNO残業デーを敢行し、特典付き前売り鑑賞券を入手したのが昨日。最初の感想?

特典の書き下ろしブック、薄っ!?

もしかしたら仕事忙しくて観に行けないかもしれないけど。けど、後でこの特典のことを知って激しく後悔するくらいなら1300円惜しくない。でも、「特典ってまだ残ってますか?残ってるなら前売りください(ハァハァ)」なんて、映画館窓口のお嬢さんに迫っちゃったのはやり過ぎだったかしら?

というわけで、『FINE DAYS』は2回くらいしか読んだこと無いので(えっ?)「イエスタデイズ」がどんな作品だったのか全然覚えてないんですけれど(あらすじ読んだって思い出せなかった)とりあえず本多作品が映画化ってだけでめでたい。

えっと、公開はいつですか?とりあえずカウントダウンブログパーツを貼ってみる。ハードカバで持ってるんだけど、文庫版も買おうかしら通勤用に。でも、朝から地下鉄で目頭を潤ませる女って変態だよね(どうせ欠伸を噛み殺したものと判断されるだろうが)

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2008/09/06

『ALONE TOGETHER』 本多孝好

Alone together Alone together

販売元:楽天ブックス
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呪い

そんなものが本当に存在するのなら

僕は存在すべきではない

何度読んだって好きだ

通勤本としてチョイスした本が(再再再再再読にも関わらず)面白くって、家本そっちのけで読みきっちゃうことってありますよね!?今日のメニューはまじょ。が愛して止まない本多孝好氏の『ALONE TOGETHER』です。そして、今日も読了できないであろう家本は篠田真由美女史の御本です(笑)

初読のときに、そんなに面白いと感じなかった『ALONE TOGETHER』。そのときは『MISSING』に出逢った衝撃が大きすぎて、しばらくどんな本を読んでも面白いと思えない時期だったわけですが。とにかく(『MISSING』と比較して)そんなに思い入れがあるわけではなかった本作。それでも、

相当面白いんだからまいった

私の大好きな本多節炸裂。言葉選びがとにかく秀逸。言葉を代え、見方を代えて書かれる繰り返しの手法が素晴らしい。美しい、という言葉は本多作品を形容するために生まれたんじゃないかと個人的に思う。超個人的に。

そのくらい入れ込んでいる本多作品ですが、ラストが微妙なんですよね。というか、前半と後半にギャップを感じるというか。とりあえず、前半はミステリを書くつもりだったんじゃないかと思うんですよね。なぜ聖職者が殺人を犯したのか…もちろんこの主題は最後まで残っているのですが、それを全面に押し出した作品にするおつもりだったのではないかと。とりあえず、フリージャーナリストは最初は人間だったんだと思います。

それが、途中で主題のすり替えが起こる。後半の主題は…なんなんだろう?“呪い”はこの作品のキーワードですが、便宜上“呪い”という言葉を使っているのであって、主題の座を見事勝ち取った“あれら”は“呪い”ではないと…思うんですけれど、どうでしょう?

個人的希望を申し上げるならば、主人公は救われないで欲しかった。いや、あのラストだって充分救われてないのだけれど。とりあえず、熊谷と巧いことやりまくるのだけは(笑)止して欲しい。主人公に似合うのは熊谷じゃない。漸くとはいえ、弱みを見せた途端に戻ってくる女ってどうよ?完全に好き嫌いの問題ですけれどね。

とりあえず、教会の住職(笑)あたりから読むのがしんどくなるのだけが難点かと。それまでの美しさと痛さったらないです最高です。

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2008/05/15

『本からはじまる物語』

本からはじまる物語 Book 本からはじまる物語

著者:恩田 陸
販売元:メディア・パル
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私たちの大好きな「本」或いは「本屋」を主題に

18つの物語が集い、羽ばたく

大好きな本多孝好氏が寄稿しているというので手に取ってみた一冊。直木賞やら芥川賞受賞した大御所も軒並み参加しておりまして、かなり豪華なラインナップ。ただ主題を「本」或いは「本屋」に限定してしまうと…似たような作品が顔を合わせて「あちゃ~」となっちゃうこともあるわけで。

個人的ベストだったのは贔屓目を抜きにして(声を大にして)本多孝好氏の「十一月の約束」でした。先日レビューした『Story Seller』「作風変わりましたね」なんて申し上げたのが嘘のような本多節炸裂、素敵な物語でございました。『Story Seller』で熱望した「不思議を不思議のまま」、むしろ不思議なことなどなくそれが自然で自明なことであったかのように閉じられた物語に「そう、これが読みたかったのよ」と嬉しさが。主人公の少年も良い具合に捻くれていて、本多作品らしさに溢れておりました。

二階堂黎人氏の「白ヒゲの紳士」にはシリーズキャラクタの水乃サトルが登場しましたね。このトリック(?)を使った作品は他にもありましたので、目新しさはありませんでしたが(しかも、もう一方は家族愛を主題にしたハートフルな作品)サトルはやっぱり奇人変人として本屋でも認定されているのだと納得。あと、サトルが叫んだ「ユーレカ!」ってなんですか?宇宙人との交信?

有栖川有栖氏の「迷宮書房」は某古典へのオマージュを込めて。有栖川氏のショートショートが大好きな私。収録作の中で最もユーモアに溢れていたと思います。そして、私がこの「迷宮書房」に迷い込んだらと妄想してみる。私ならどんなオーダーをするのか…きっと「これまで出逢ったことのないような驚きとトリックに溢れたミステリ」とかうっかりオーダーしちゃうんだろうな。そしてえらい目に遭うんだ。

そうそう、私は純文学畑の人間でないので、本が飛んだり、本屋での些細な一コマ系の作品の良さがさぱーり解りませんでした。すみません。想像力に乏しくて。特に些細な一コマ系は「なにが哀しくて他人の(どうでも良い)頭の中を覗かねばならんのか」とか思っちゃいました。自分でも駄目な仔だと思います、本当に。

あっ、石田衣良氏の「23時のブックストア」は結構好きかも。好きな作家を10人挙げて、そのうちの7人が重なるような方とお近づきになってみたいという欲求は良く良く理解できるので!

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2008/05/08

小説新潮別冊『Story Seller』

Story Seller (ストーリーセラー) 2008年 05月号 [雑誌] Book Story Seller (ストーリーセラー) 2008年 05月号 [雑誌]

販売元:新潮社
Amazon.co.jpで詳細を確認する

この雑誌を編集した方とお友達になれると思ふ

凄い豪華な執筆陣。夢の共演といっても過言ではない。そんな素敵な一冊を紹すべく、今日は一作ずつレビューを。

「首折り男の周辺」 伊坂幸太郎
本屋大賞受賞第一作は“首折り殺人請負人の周辺で生きる人々”を描いた作品。伊坂的“改心の物語”でございます。本屋大賞を受賞したって直木賞を受賞できなくたって、伊坂節は決してブレることはないのですが…どこか物足りない。その理由を探ってみて、伊坂短編は連作で読みたいのだと気付く。伊坂短編集に収録されている短編たちは、ひとつひとつが完成されていながらも、通して読むことで新たな意味や印象が浮かび上がってきますよね。そんな“新しさ”や“改まり”を欲しているのだと。だって、長編や連作でもいけそうなんですもの、この作品。風合としては『ラッシュ・ライフ』に近い感じで出来上がるのではないかと。でも、伊坂らしい“改心の物語”にやっぱり快心の笑みを浮かべてしまうのです。

「プロトンの中の孤独」 近藤史恵
思わぬところで『サクリファイス』の番外編に出逢えました。この『Story Seller』を注文した時点ではまだ『サクリファイス』未読であったため、全くノーマークだった近藤氏。嬉しい誤算。本作はエースになるべく産まれてきた男・石尾と、石尾の名アシスト名女房であった赤城の若かりし頃を描いた一作。あの石尾にこんな頃があっただなんて、ちょっと意外。石尾の想いの深さ大きさに感動させられた後だけに。そして、この少ない枚数でロードレースの駆け引き清々しさ泥臭さを伝える近藤氏の筆力はさすが。『サクリファイス』の後編がいまから愉しみです。

「ストーリー・セラー」 有川浩
有川氏が恋愛エッセンスをふりかけに重い主題で真っ向勝負を挑んだのが本作「ストーリー・セラー」です。最初は有川氏らしい甘い恋愛小説かと思ったんですが…ラストまで読んで少しだけ鬱状態になりました。ので、卑怯にもその辺りには一切触れずにレビューを。本作の個人的お気に入り台詞は「心の中、レイプされてるって言ったら分かってもらえるかなぁ」なんですが…なんて生々しい台詞がお気に入りなんだ。でも、あの状況下で出てくるこの台詞はもの凄く秀逸です。こういう言葉選びが出来る有川氏が好き。そして、激怒するおっさんの霊が光臨した作中の彼女も。私は「最初っから私は何にも持ってないんだ!」なんて啖呵は切れないから。

「玉野五十鈴の誉れ」 米澤穂信
実は初めましての“バベルの会シリーズ”。下地が無いので(バベルの会がどんな如何わしい会か解らないので)米澤氏が作品に潜ませているだろう主題や狙いを察することが出来ず残念。テイストとしては…ホラーですよね?妄信や妄信にえも云われぬ恐怖を感じてしまう私。五十鈴のあの行動がタイトルにある「誉れ」であるならば、あの行動を「誉れ」として取れる人間は、もはや人間では無いのでは無いかと。感情を殺して“無”になったら、もうその時点で人は人で無くなり、唯の物質ですよね。物質に為ってまで守りたい「誉れ」を持たない私には、その感情はまさしくホラーです。

「333のテッペン」 佐藤友哉
佐藤氏の名前を見かけるたびに「あの絶筆宣言は何だったのだ?」とか思ってしまう私は腹の黒い仔です。でも、本作は収録作の中で唯一ミステリですよね。タイトルの「333」とは333mの高さを誇る東京タワーのこと。東京タワーのテッペンに突如現れた他殺死体の謎…うわぁ、美味しい垂涎設定。本作に登場した探偵は佐藤氏の既出キャラクタなのでしょうか?主人公の土江田の過去も、なかなか気になります。アナタハイッタイナニヲシデカシタンダ?でも、個人的に一番愉しめた(感動した)のは、あとがき(?)の筆者コメントだったりする罠。

「光の箱」 道尾秀介
私はこの作品に“ミステリを装った恋愛小説である”という判定を下したのですが、皆様はいかがでしょうか?心の開き方を知らない少年と少女の恋愛小説。サンタクロースが届ける「光の箱」に収められたクリスマスの奇跡を添えて。箱と聞くと“パンドラの箱”を思い浮かべずにはいられないワンパターン思考を持つ私ですが、最後に残された希望を失わなかったからこそ人間は生きてこれたというあの逸話が、この作品には存外ぴったりくると思います。

「ここじゃない場所」 本多孝好
一番愉しみにしていた本多氏の作品…なんですが、作風変わりましたね。本多氏の魅力は言葉選びと行間にあると信じて止まない私ですが、行間を読ませることもなく書き込まれている感情感情感情。そんなに丁寧に感情を解説してくれなくとも良いですから!って正直思っちゃいました。もっと流れるような美しさが本多氏の作品には有ったように記憶しているのですが。この作品に登場した“四人組とアゲハの物語”を現在進行形で執筆中だったからでしょうか?ほら、アウトプットしているうちに浮かんでくる設定をいつの間にか書き込んでいたことによって情報過多になった、とかいうオチで。四人組の能力に現実的な解釈が為されているのも残念に思いました。多少の無理が生じたとしても、不思議を不思議のまま処理して欲しかった。本多氏の初期作品にはそういった不思議能力を持った人間が多く登場してましたよね。でも、こんな風に酷評していても、やっぱり本多氏の作品が大好きです。新作を読めただけで幸せな気持ちになれるって嬉しい。私にとって本多氏はそういう作家です。

うわぁ、冗長なレビューに自分でもうんざり。でも、本当に「よくこれだけのメンバを集めることが出来ましたね!お疲れ様です!!」と伝えたくなるような一冊。第二弾の刊行も愉しみにしております。

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2007/05/29

『正義のミカタ ~I'm a loser~』 本多孝好

正義のミカタ―I’m a loser Book 正義のミカタ―I’m a loser

著者:本多 孝好
販売元:双葉社
Amazon.co.jpで詳細を確認する

変わろう。

このままでは独り寂しく、次の人生に夢を見ながら死んでゆく姿が容易に想像できてしまう。

僕は変わるんだ。

2年半ぶりの本多孝好氏新作、まさに至福。この至福モードのまま冷静なレビューは書けない…と一晩寝かせてみましたが、やっぱり冷静なレビューは書けそうにありません。そのくらい本多孝好氏が好きです。

ミステリから恋愛小説へとその幅を広げてゆく本多氏ですが、新作は「このミス 2007」でも予告されていた青春小説でした。前半は、本多氏と同窓である金城一紀氏のゾンビーズシリーズ(このシリーズも大好き)を彷彿とさせる爽快感と疾走感。でも、本多氏特有の、私の大好きな流れるような優しい綺麗な文章は…奥に潜める。

主人公にとって高校生活とはいじめられること同義。そんな生活からさよならするため、新しい自分と出逢うため、クラスメイトの誰ともいっしょにならないように大学を選んだ…はずだったのに、出逢ってしまった最悪の人間。今日も図書館裏に連れ込まれ、殴る蹴るの暴行。大学なんて辞めよう、帰り道には就職情報誌を買おうと決めた主人公の前に現れた、

正義のミカタ。

正義のミカタに連れてゆかれたサークル会館で出逢ったのも、正義のミカタ。正義とはなんなのかを探求する・正義の味方研究部で交わした聖杯は、主人公の人生を変える第一歩。

本多作品主人公の特徴と云えば、思考・思想・視線の捻くれ具合なのですが、本作主人公は負の方向にとにかく捻くれております。でも、どことなくおもしろい。ラストで真正のいじめられっ子と遭遇する主人公ですが、隠された彼の姿が一般的なら主人公のそれはいじめられていたことが偽りであったかのような思考。でも、いつもの本多文章の美しさは成りを潜める。

研究部のメンバも個性的。初めての親友・トモイチはどことなくゾンビーズシリーズ(by金城一紀氏)のスンシンとだぶるが…気にしない気にしない。各々の方向から“正義とはなにか?”を追いかける彼等。でも、でも、それって本当の正義かな?

その答えのひとつを本多氏は最後に提示してくれます。その答えまでの過程に、ひとつ大きな事件が起こるのですが、その事件が提示するテーマは重くって、まさに青春小説なのですが、爽快感や疾走感に溢れた前半とのギャップは隠せません。本多氏の作品にしては珍しく、ちょっとバランス感の悪さを感じてしまいました。

主人公が研究部のメンバを裏切るのか信じぬくのか。どちらを選んだのかはっきり(明記)せぬまま。これまでは主人公の内面を追っていたはずなのに、唐突に外からの目線に切り替わったのも原因かもしれませんが。朝4時のふにゃけた頭ではすぐには判別できませんでした。

うーん、前半のスピードのまま最後まで突っ走ってくれてれば…という思いは一晩経っても拭い去れず、強くなるばかり。でも、心に残る一言はしっかり後半部分のそれだったり。そして、主人公は変われたのか、変わることで広がった世界はどんなものだったのか、きっちりと読者に提示してくれたのは評価。

本多氏の素敵思考を活かせる題材では無かったのかもしれない、青春小説という舞台。でも、頁を捲る手が止まることはありませんでした。本多ファンとしては物足りなさも感じますが、作品としては上質だったと思います。それをどう評価するべきか、いまでも悩む。

これは再読が必要でしょうか。そのとき私は、どんな正義に出逢うのでしょうか。

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2007/01/18

『LOVE or LIKE』

LOVE or LIKE Book LOVE or LIKE

著者:石田 衣良,中村 航,本多 孝好,真伏 修三,中田 永一,山本 幸久
販売元:祥伝社
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6人の男性作家が男女の間に生まれる微妙かつ複雑な感情を描く。

アイシテル それとも スキ なだけ?

『I LOVE YOU』に続く恋愛アンソロジー。もちろん本多孝好氏が目当てです。本多氏、昨年はこの『LOVE or LIKE』に短編を寄せたのみ…本多氏にゆっくり書いてよいと許可を出した編集者、出て来い。

そんな冗談はさておいて。しょっぱなの石田衣良氏の作品が、いきなり際どいシーンから始まりまして、これはこういう作品集なのかと疑いましたが、そういうカラーの作品が多かったのも事実。本多氏の作品でも、そういう描写があったのですが、氏の作品ではいつもその辺りがぼやかしてあるので、新鮮と云うか戸惑いというか。

本多作品をレビューするならば、初恋の君が登場して…なんていうお安い展開にならなかったのは評価。でも、このお題で長編が読みたいかもしれない。彼女にどんな紆余曲折があって、どんな想いを持って、どんな環境で“今”を生きているのか。その中であの夏の想い出にどんな意味があるのか。彼らほど大切に想ってはいないかもしれないけれど、そんな想い出は捨て去ってしまったかもしれないけれど、彼女の“今”が知りたい。本多氏、よろしく。

一番好みだったのは、中村航氏の「ハミングライフ」でしょうか。逢いたい or 逢いたくないという気持ちの揺れの中で行われるハミング。こんなピュアな恋愛、してみたいようなしてみたくないような。もどかしさが、この作品のすべてであり、味です。

一番読ませたのは中田栄一氏の「なみうちぎわ」かしら。自分の所為で、時を失った彼女に自分がしてやれることはあるのか。そんな罪悪感からくる愛もまた、良い。

やっぱり恋愛小説は読み慣れてないため、レビューものりませんね。本多氏の作品もいまひとつでしたし。本多氏の最新作が今年こそ読めることを祈って。

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2006/09/10

『I LOVE YOU』

I love you Book I love you

著者:伊坂 幸太郎,石田 衣良,市川 拓司,中田 永一,中村 航,本多 孝好
販売元:祥伝社
Amazon.co.jpで詳細を確認する

さまざまな断片から生まれるストーリーを、

現在もっとも注目を集める男性作家たちが紡ぐ、至高の恋愛アンソロジー

(帯より)

やっぱり伊坂幸太郎は巧いですね。

伊坂幸太郎と本多孝好目当てでこの『I LOVE YOU』を手に取りました。やっぱり最初と最後を飾ったこの二人の作品が良かった。もちろん波長もあるのだと思いますが、小説として最も完成されていたであろう石田衣良の作品よりも、この二人の作品にぞくっときました。

私は基本的に恋愛小説って読まないのですが(山田詠美のみ例外)、嫌いではないのです。ただ、恋愛こそ全て!と云わんばかりの小説が苦手で。恋愛って確かに大切なものだけれど、恋愛と同等、もしくはそれ以上に大切なものがあると思うのです。「恋愛!恋愛!」と声を大にして訴えている作品は、人生のごくごく一瞬を捉えているのみで、どうしても深みに欠けるような気がして。その意味でも『I LOVE YOU』は「これ恋愛小説?」とつい聞き返したくなる強者揃いで、安心して読めました。恋愛小説らしかったのって、石田衣良と本多孝好くらいでしたね。

伊坂作品はいつもの伊坂節が炸裂です。恋愛小説のはずなのに、テーマはシロクマです。伊坂作品お馴染みのちょっと冷めた主人公が奇天烈な姉を思い出すお話。物語の半ばで登場した伏線がラストで綺麗に回収されるという、短編でも力抜きませんなぁ、な一作。

そして、本多作品。本多孝好の恋愛小説は『真夜中の五分前』で既に経験済なのですが、やはり本多孝好は短編でこそ力を発揮する作家だと、改めて確信しました。最後の「ごめんなさいごめんなさい」が胸にぐっと突き刺さる。あのラストが無ければ、大人のキレイゴトに見えてしまう雰囲気が、キュッと引き締まった感じ。やっぱり本多孝好は良いなぁ。好きだなぁ。

そうそう、中村航氏の作品を読んでいて、伊坂幸太郎の『砂漠』に登場した“平和(ピンフ)を作り続ける彼”を思い出しました。全然関係ないけれど。

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