2008年5月 8日 (木)

小説新潮別冊『Story Seller』

Story Seller (ストーリーセラー) 2008年 05月号 [雑誌] Book Story Seller (ストーリーセラー) 2008年 05月号 [雑誌]

販売元:新潮社
Amazon.co.jpで詳細を確認する

この雑誌を編集した方とお友達になれると思ふ

凄い豪華な執筆陣。夢の共演といっても過言ではない。そんな素敵な一冊を紹すべく、今日は一作ずつレビューを。

「首折り男の周辺」 伊坂幸太郎
本屋大賞受賞第一作は“首折り殺人請負人の周辺で生きる人々”を描いた作品。伊坂的“改心の物語”でございます。本屋大賞を受賞したって直木賞を受賞できなくたって、伊坂節は決してブレることはないのですが…どこか物足りない。その理由を探ってみて、伊坂短編は連作で読みたいのだと気付く。伊坂短編集に収録されている短編たちは、ひとつひとつが完成されていながらも、通して読むことで新たな意味や印象が浮かび上がってきますよね。そんな“新しさ”や“改まり”を欲しているのだと。だって、長編や連作でもいけそうなんですもの、この作品。風合としては『ラッシュ・ライフ』に近い感じで出来上がるのではないかと。でも、伊坂らしい“改心の物語”にやっぱり快心の笑みを浮かべてしまうのです。

「プロトンの中の孤独」 近藤史恵
思わぬところで『サクリファイス』の番外編に出逢えました。この『Story Seller』を注文した時点ではまだ『サクリファイス』未読であったため、全くノーマークだった近藤氏。嬉しい誤算。本作はエースになるべく産まれてきた男・石尾と、石尾の名アシスト名女房であった赤城の若かりし頃を描いた一作。あの石尾にこんな頃があっただなんて、ちょっと意外。石尾の想いの深さ大きさに感動させられた後だけに。そして、この少ない枚数でロードレースの駆け引き清々しさ泥臭さを伝える近藤氏の筆力はさすが。『サクリファイス』の後編がいまから愉しみです。

「ストーリー・セラー」 有川浩
有川氏が恋愛エッセンスをふりかけに重い主題で真っ向勝負を挑んだのが本作「ストーリー・セラー」です。最初は有川氏らしい甘い恋愛小説かと思ったんですが…ラストまで読んで少しだけ鬱状態になりました。ので、卑怯にもその辺りには一切触れずにレビューを。本作の個人的お気に入り台詞は「心の中、レイプされてるって言ったら分かってもらえるかなぁ」なんですが…なんて生々しい台詞がお気に入りなんだ。でも、あの状況下で出てくるこの台詞はもの凄く秀逸です。こういう言葉選びが出来る有川氏が好き。そして、激怒するおっさんの霊が光臨した作中の彼女も。私は「最初っから私は何にも持ってないんだ!」なんて啖呵は切れないから。

「玉野五十鈴の誉れ」 米澤穂信
実は初めましての“バベルの会シリーズ”。下地が無いので(バベルの会がどんな如何わしい会か解らないので)米澤氏が作品に潜ませているだろう主題や狙いを察することが出来ず残念。テイストとしては…ホラーですよね?妄信や妄信にえも云われぬ恐怖を感じてしまう私。五十鈴のあの行動がタイトルにある「誉れ」であるならば、あの行動を「誉れ」として取れる人間は、もはや人間では無いのでは無いかと。感情を殺して“無”になったら、もうその時点で人は人で無くなり、唯の物質ですよね。物質に為ってまで守りたい「誉れ」を持たない私には、その感情はまさしくホラーです。

「333のテッペン」 佐藤友哉
佐藤氏の名前を見かけるたびに「あの絶筆宣言は何だったのだ?」とか思ってしまう私は腹の黒い仔です。でも、本作は収録作の中で唯一ミステリですよね。タイトルの「333」とは333mの高さを誇る東京タワーのこと。東京タワーのテッペンに突如現れた他殺死体の謎…うわぁ、美味しい垂涎設定。本作に登場した探偵は佐藤氏の既出キャラクタなのでしょうか?主人公の土江田の過去も、なかなか気になります。アナタハイッタイナニヲシデカシタンダ?でも、個人的に一番愉しめた(感動した)のは、あとがき(?)の筆者コメントだったりする罠。

「光の箱」 道尾秀介
私はこの作品に“ミステリを装った恋愛小説である”という判定を下したのですが、皆様はいかがでしょうか?心の開き方を知らない少年と少女の恋愛小説。サンタクロースが届ける「光の箱」に収められたクリスマスの奇跡を添えて。箱と聞くと“パンドラの箱”を思い浮かべずにはいられないワンパターン思考を持つ私ですが、最後に残された希望を失わなかったからこそ人間は生きてこれたというあの逸話が、この作品には存外ぴったりくると思います。

「ここじゃない場所」 本多孝好
一番愉しみにしていた本多氏の作品…なんですが、作風変わりましたね。本多氏の魅力は言葉選びと行間にあると信じて止まない私ですが、行間を読ませることもなく書き込まれている感情感情感情。そんなに丁寧に感情を解説してくれなくとも良いですから!って正直思っちゃいました。もっと流れるような美しさが本多氏の作品には有ったように記憶しているのですが。この作品に登場した“四人組とアゲハの物語”を現在進行形で執筆中だったからでしょうか?ほら、アウトプットしているうちに浮かんでくる設定をいつの間にか書き込んでいたことによって情報過多になった、とかいうオチで。四人組の能力に現実的な解釈が為されているのも残念に思いました。多少の無理が生じたとしても、不思議を不思議のまま処理して欲しかった。本多氏の初期作品にはそういった不思議能力を持った人間が多く登場してましたよね。でも、こんな風に酷評していても、やっぱり本多氏の作品が大好きです。新作を読めただけで幸せな気持ちになれるって嬉しい。私にとって本多氏はそういう作家です。

うわぁ、冗長なレビューに自分でもうんざり。でも、本当に「よくこれだけのメンバを集めることが出来ましたね!お疲れ様です!!」と伝えたくなるような一冊。第二弾の刊行も愉しみにしております。

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2008年3月15日 (土)

『重力ピエロ』 伊坂幸太郎

重力ピエロ Book 重力ピエロ

著者:伊坂 幸太郎
販売元:新潮社
Amazon.co.jpで詳細を確認する

「そんな子供も犬に食わせてしまえ」

「兄貴、むちゃくちゃだよ」

「そうだ、このむちゃくちゃがおまえの兄なんだ」

文庫化した『死神の精度』を再読したら、どうしてもスプリング兄弟に逢いたくなって再読してしまった『重力ピエロ』。読了まで、多少時間がかかってしまったのはご愛嬌ということで。

本作は遺伝子に縛られた兄弟と遺伝子によって生を断たれようとしている父、そして遺伝子を遺すことに躍起になっている男の物語。それはそれは悲愴で重苦しい過去を、ゆるやかに、時には楽天的に描く「本当に深刻なことは、陽気に伝えるべき」物語。

他の伊坂作品と比べても“山場”や“見せ場”の少ない本作。もちろん伊坂作品特有の“伏線地獄”は健在ではありますが、その方向性は読者を驚かせることでなく、文学的な方向に働いていると感じます。「春が二階から落ちてきた」とかね。仙台市で起こる連続放火事件がミステリ的エッセンスとして使用されておりますが、その犯人は明らかであり、もし放火魔が彼でなかったとしたら仰け反るほどの“どんでん返し”でしたけれども…まぁ、物語が成立しないやね。

個人的にレビュー冒頭の作品紹介(□で囲まれている部分)でも使用した兄弟の会話が大好きなんです。あとは癌に侵された父の

「おまえは俺に似て、嘘が下手だ」

なんて、たった一文なのに、うっすら眼に涙が溜まります。ペットショップから病室、そして自首(笑)までを描いたラストシーンは名台詞が多くて困る。これが書きたくて、それまでの物語があったに違いないと思わせる素敵シーンばかり。

以前、石持浅海氏の『水の迷宮』というミステリ作品のレビューで「ミステリにおいて犯人が捕まることなく、登場人物たちもそれを容認するという結末に喝!」と書いたことがあるのですが(あれ?うっかり『水の迷宮』のネタを割っている気がするな…まぁいっか)本作に於いてはこれに該当しないと個人的に思います。だって、家族なら…赦せるでしょう?家族なら、赦すでしょう?その赦しを以って、犯人がどう行動するかは別問題として。その意味でも『重力ピエロ』は深いなぁと改めて感じます。

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2007年5月21日 (月)

『フィッシュストーリー』 伊坂幸太郎

フィッシュストーリー Book フィッシュストーリー

著者:伊坂 幸太郎
販売元:新潮社
Amazon.co.jpで詳細を確認する

「私は正義の味方になりたかったんですよ」

売れないロックバンドのラストアルバムが起こした奇跡の表題作。

そんなささやかな奇跡を集めた伊坂幸太郎短編集。

漸く読了できました伊坂氏最新作。デビュー間もない2001年の作品から、書き下ろしまで4編を収録。私が最もグッときたのは、「やっぱりか…」と思われたって良い、表題作の「フィッシュストーリー」。

いきなりネタバレしますが(伊坂作品はネタバレしてようがしていまいが、その良さに変わりは無いと個人的に思っている)ラストの「お礼は、その人のお父さんに」が良いですよねぇ。ハイジャック犯に立ち向かう息子(瀬川さん)が云う、「礼なら、父に」も最高。そのお父さんですが、冒頭のうだつの上がらないお父さんを読む限り、息子を正義の味方にしようとは思えないのですが…まぁ、気にしない気にしない。お母さんとの出逢いをきっかけになにかのスイッチが入っちゃったのでしょう。

「フィッシュストーリー」読書中の私の妄想だと、麻美(ハイジャック飛行機に乗り合わせた女性)は結婚直前になって瀬川さんと出逢い、破局→瀬川さんとビビビ婚をやらかすかと思ったのですが、さすがに飛躍のし過ぎだったようです。ついでに、あのハイジャック犯たちは売れないロックバンドのメンバたちでは?という妄想もしてみたのですが、さすがにさすがに跳躍のし過ぎだった模様。まぁ、私の妄想なんてそんなもんさ。

そんなお気に入りの「フィッシュストーリー」ではありますが、肝心の売れないロックバンドたちの件は「いらねぇなぁ…」とか思っちゃった悪い私。あの場面では切なくなれなかった悪い女。伊坂氏、ごめんなさい。

そうそう、「動物園のエンジン」も好きですね。河原崎のキャラがまさに伊坂節。「ポテチ」の今村もそうなんですが、どうしてあんな破天荒なキャラ造詣が可能なのか、本当に不思議。絶対に考えられませんが、間違って私が創作作品を生み出すことになったとしても、あんなキャラクタを創り出すことは絶対に不可能。まぁ、実際自分の周りにこんな人たち居たら、うっとうしくて嫌になるんだと思いますが。類は友を呼ぶ。超現実主義(趣味が妄想なだけ)の私の周りに、そういうキャラを持った人が居ないだけなのだと思います。

あぁ、肝心の作品内容について全然書いていないから驚き。「サクリファイス」なんてミステリ的なのに、まったく印象に残っていない罠。でも、やっぱり素敵な伊坂作品たち。こっ人的な伊坂ベストに変動はございませんでしたが、本作も愉しい時間をくれました。

| | コメント (4) | トラックバック (0)

2007年1月26日 (金)

『終末のフール』 伊坂幸太郎

終末のフール Book 終末のフール

著者:伊坂 幸太郎
販売元:集英社
Amazon.co.jpで詳細を確認する

8年後、小惑星が地球に衝突し、人類は滅亡する。

そんなタイムリミットを宣言されたとき、貴方はどうする?

最期のとき、貴方の隣に居るのは誰ですか?

いまさら?とまではいかないまでも、入手までに予想以上の時間を費やした『終末のフール』。単に図書館予約を忘れていた(というか、予約したと思い込んでいた)だけなんですけれども。

さてさて、ようやく伊坂氏の出版ペースに追いつくことができました。伊坂作品(現在のところ)コンプです(でも、ブロ愚開始前に読了した作品もあるので、レビューはコンプできてないです)。既に直木賞常連の伊坂氏。第ニの東野圭吾化しておりますが、次の次くらいには受賞できるのではないでしょうか?文芸春秋から出版すれば良いのに…。

って、上記は伊坂氏のレビューを書く際の枕詞だと思っていただければ幸いです。肝心の内容はここから。

本作は小惑星が地球に衝突することが発表され、破綻してしまった社会が描かれております。タイムリミットまでの時間を思い思いに過ごす人たちのお話。伊坂氏特有のあっさり感と虚無感が存分に味わえます。

8つの“終末の過ごし方”が描かれておりますが、一番グッときたのは「太陽のシール」。えっ?意外性の欠片も無いって?そうさっ!私はこのベタベタな展開が大好きなんだよ!!歩く優柔不断の富士夫君が為した一世一代の決断。自分ならどうするか…なんて、考えるのは不可能です。だって、想像力には限界がある。どうしてもどうしても楽観視してしまう自分が居る。落ちるわけが無いと思っている自分が居る。だから、そんな想像に価値は無い。でも、富士夫君のように勇気ある決断ができる人間であれば良いなと思った一作。

同じくベタベタな展開で私を喜ばせてくれたのが「演劇のオール」。似非家族が寄り合って、真の家族が出来上がれば素敵。終末だからって、失うものばかりではない。得るものもきっとある。ただ、得るために普段より多くのエネルギーが必要なだけで。倫理子のエネルギーが結びつけた、その結びつきを終末まで育んで欲しいと切に思った一作でした。

ただ、印象に残ったのはこの2作(「深海のポール」で描かれていたお父さんにも泣けたけれども)だけで、あとはパンチが弱かったかも。やっぱり底抜けに明るくて救えない作品を伊坂氏には期待。

終末までに伊坂氏が直木賞を受賞できますように。

| | コメント (0) | トラックバック (2)

2006年9月10日 (日)

『I LOVE YOU』

I love you Book I love you

著者:伊坂 幸太郎,石田 衣良,市川 拓司,中田 永一,中村 航,本多 孝好
販売元:祥伝社
Amazon.co.jpで詳細を確認する

さまざまな断片から生まれるストーリーを、

現在もっとも注目を集める男性作家たちが紡ぐ、至高の恋愛アンソロジー

(帯より)

やっぱり伊坂幸太郎は巧いですね。

伊坂幸太郎と本多孝好目当てでこの『I LOVE YOU』を手に取りました。やっぱり最初と最後を飾ったこの二人の作品が良かった。もちろん波長もあるのだと思いますが、小説として最も完成されていたであろう石田衣良の作品よりも、この二人の作品にぞくっときました。

私は基本的に恋愛小説って読まないのですが(山田詠美のみ例外)、嫌いではないのです。ただ、恋愛こそ全て!と云わんばかりの小説が苦手で。恋愛って確かに大切なものだけれど、恋愛と同等、もしくはそれ以上に大切なものがあると思うのです。「恋愛!恋愛!」と声を大にして訴えている作品は、人生のごくごく一瞬を捉えているのみで、どうしても深みに欠けるような気がして。その意味でも『I LOVE YOU』は「これ恋愛小説?」とつい聞き返したくなる強者揃いで、安心して読めました。恋愛小説らしかったのって、石田衣良と本多孝好くらいでしたね。

伊坂作品はいつもの伊坂節が炸裂です。恋愛小説のはずなのに、テーマはシロクマです。伊坂作品お馴染みのちょっと冷めた主人公が奇天烈な姉を思い出すお話。物語の半ばで登場した伏線がラストで綺麗に回収されるという、短編でも力抜きませんなぁ、な一作。

そして、本多作品。本多孝好の恋愛小説は『真夜中の五分前』で既に経験済なのですが、やはり本多孝好は短編でこそ力を発揮する作家だと、改めて確信しました。最後の「ごめんなさいごめんなさい」が胸にぐっと突き刺さる。あのラストが無ければ、大人のキレイゴトに見えてしまう雰囲気が、キュッと引き締まった感じ。やっぱり本多孝好は良いなぁ。好きだなぁ。

そうそう、中村航氏の作品を読んでいて、伊坂幸太郎の『砂漠』に登場した“平和(ピンフ)を作り続ける彼”を思い出しました。全然関係ないけれど。

| | コメント (2) | トラックバック (1)

2006年7月26日 (水)

『魔王』 伊坂幸太郎

魔王 Book 魔王

著者:伊坂 幸太郎
販売元:講談社
Amazon.co.jpで詳細を確認する

思考する兄と、選択し続ける弟。

世界を変える力を望む兄弟と、ひとりの政治家によって変わりゆく日本。

さぁ、消灯ですよ。

この作品は伊坂幸太郎のベストかもしれない。

はい、『死神の精度』のときにもこの言葉を発しましたね。先日読んだ『砂漠』も良かったけれど、『魔王』はその数段良かった。『死神の精度』と『砂漠』と『魔王』では良さのベクトルが違うけれども、その方向性に一番惹かれたのが『魔王』。

伊坂氏の作品は「なにが良かったの?」と自問してもいつも答えることができません。『魔王』にだって、どう惹かれてしまったのか自分では把握しきれていないし、言葉にすることは絶望的。でも読了後、確かに私の中の何かが変わりました。言葉にすることはできないけれど、その存在を確かに感じることができる。きっと言葉にする必要なんてないからこそ、言葉にできないのですね。

世界の変革というテーマに、政治をぶつけてきたことは非常に巧いと思いました。若者が政治に興味を持つことがカッコ悪いかのような風潮って、いつから生まれてしまったのでしょうか。うーむ、なにか違うな。政治に興味を持たないことがカッコ良いかのような風潮って、いつから生まれてしまったのでしょうか、が正解だな。私は選挙に行くことがすごく好きです。選挙が好きというのもどうかと思いますが、とにかく政治に参加していると自覚できることがすごく嬉しい。“死に票”なんて言葉がありますが、投票されて死んでしまった票なんて無いと私は思います。本当に死んでいる票は、投票されることの無かった若者の一票。そして、死んでいるのは若者の心。

いつから若者の心は荒んで、死んでしまったのでしょうか。昔は選ばれた人間しか選挙に参加することができなかったのに、普通選挙権という言葉が生まれ、成人した人間ならば誰でも選挙に参加することができるようになった。社会科で「選挙権の歴史」を学べば、自分がいかに恵まれた時代に生まれたか、容易に知ることができるというのに。どうして、その幸福を享受しようとしないのか。私には全く理解できません。

ここで、理解できないと突き放してしまっては『魔王』を読んだ価値がないというものです。理解できないのであれば、理解できるように世界を変革すれば良い。世界とは地球のことだけでなく、内なる世界のこと。自分の世界すらも変えられないならば、さらに広い世界へは飛び立つことなどできませんよね。というわけで、私にできることからなにか始めようというわけです。

って、随分ファジィなことばかりつらつらと書き殴っておりますが、こういった文章は推敲せずに残しておいたほうが、後の自分のためになるのだと思って、敢えてそのままにすることに致します。このレビューは自分のためだけの備忘録。変革してゆく気持ちを忘れるかもしれない自分のために仕掛けるタイムカプセルです。

とにかく、『魔王』は良かった。年に一度、必ず再読するリストに一冊追加。未読の方は、是非お手にとってみてください。

ちなみに、私が国民投票に参加するならば、投票用紙に記される記号は×です。私はあの思想が素敵な未来を描く第一歩だと未だに信じております。

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2006年7月17日 (月)

『砂漠』 伊坂幸太郎

砂漠 Book 砂漠

著者:伊坂 幸太郎
販売元:実業之日本社
Amazon.co.jpで詳細を確認する

入学、新しい出会い、新しい友人、超能力、合コン、麻雀、大統領。

これが5人の日常。

さぁ、砂漠に雪を降らせてみせよう!

第135回直木賞候補に選出された本作。惜しくも受賞は逃しましたが、歴代の伊坂・直木賞・候補作品(『重力ピエロ』『チルドレン』『グラスホッパー』『死神の精度』そして『砂漠』)の中で、この『砂漠』が一番直木賞らしい作品だと思いました。好みの問題で云えば『死神の精度』なのですが、こう、胸躍らせるような作品という意味では、歴代の伊坂作品の中でもこの『砂漠』に軍配が上がります。伊坂節炸裂です。

まず、帯の「大学の一年間なんてあっという間だ」にやられましたねぇ。いや、夏の時点でおかしいとは思ったのですが、「童貞だと思っていた北村も実は手慣れているんだなぁ」という御下劣な勘違いでとうとう冬まで気付かずに行ってしまいました。くそぅ、嵌められたぜ。

あとはもう登場する5人の仲間たちがとにかく愛されるべきキャラクタばかりで。西嶋は『チルドレン』でいうところのシ陣内の役回りですよね。ある意味、陣内に矯正してもらったようなものだし。「我慢しろ、今、ぼくらのほうから駆けつけてやるから!」まさにこの通りの人物だと思います。あとは、伊坂氏の伏線回収能力の恰好の的となった南ちゃん。ワールドカップとともにやってくるある能力を十二分に活かしてくれました。「いつからか、欲しいな、と思う牌が来るようになって、牌を捨てる時も、相手に当たらなくなったの」そんな貴方の力が欲しい…。東堂親子も好きよ。愛想の無い娘も、愛想良すぎる母も。

私としては、この『砂漠』で伊坂氏が直木賞を受賞しても良かったと思うのですが、やっぱり直木賞の選考委員は…。次こそ直木賞とってくださいね、伊坂氏!!

| | コメント (0) | トラックバック (3)

2006年5月20日 (土)

映画「陽気なギャングが地球を回す」

観て参りました「陽気なギャングが地球を回す」。

折りしも本日は「ダ・ヴィンチ・コード」の世界同時公開日。チケットカウンターには長蛇の列。「ダ・ヴィンチ・コード」専用のブースを作ればいいのに…と愚痴りながら、横入りしようとする高校球児(フェアプレーの精神はどこにいった?)を睨みつけ、待つこと30分。ようやくチケットを手に入れて席に着きました。

見事にポップ&クラシックな映画でございました。

キャストの皆さんが身につける衣装が80年代でとにかくポップ。あんなデーハーなシャツを見事に着こなす大沢たかお氏に、これが淘汰されたボディコンね!をこれまた見事に着こなす鈴木京香さん。ポップだ。金髪の佐藤浩市氏もキャスケット姿がかわゆい松田翔太くんも良い。キャスティングはとにかく◎の本作。袖カバー公務員姿の大沢たかお氏もまた良くって。

クラシックが表すのは車。私の好きなクラシックカーが満載。ポップなギャングにクラシックカーだなんて、なんて豪華な映画なのでしょうか。車といえば、CGをふんだんに使ったカーアクションはどうかと思いましたが…。

さて、肝心のストーリーですが…これだけは×印を付けずにはいられません。

なぜ原作通りにやらなかったのか?

という憤り。いや、オリジナルでも見事に成立していれば良いのですよ。でもね、最後にどうしてああなったのか、ぼんやりとではなくて論理的に説明していただきたい!あぁ、○○がうまいことやったんだろうなぁ…では満足できないのですよ!ぷんぷん。そのあたりがしっかり描かれていれば×とまではゆかなっただろうに。あとは成瀬と雪子の恋愛模様がね。たとえ互いに恋愛感情を持っていたとしても、前面に押し出さずに奥ゆかしく大人らしくやってくだされば。仲間の中に恋愛感情は不要だと思っている私。恋愛が入った途端に輪が崩れちゃったりするんだもの。公私を分ける…といえば判りやすいかしら。原作との変更点に粗が目立ったような気がします。やっぱり原作の方が上か…と思ってしまった悲しい瞬間。

ただ、映像とひねりの利いたジョークには満点をあげたい。象とキリンと冷蔵庫なんて、まさに最後まで楽しませてくれたではないですか。響さんのエンドロール演説も良かった。聞き入ってしまったもの。響さん=佐藤浩市氏には鑑賞前ちょっと違和感を感じていたのですが、あれだけの説得力のある演説をさせるには並大抵の役者じゃ駄目だ!と、佐藤浩市氏クラスの役者じゃなきゃ駄目だ!と実感しました。大沢たかお氏と佐藤浩市氏のビリヤードの場面なんて、かっこいい男ふたりに身悶えします。って、映像とジョークの話をしていたはずなのに、いつの間にか佐藤浩市氏の話に・・・。

とにかくポップ&クラシック&スマート(おぉ、いつの間にか増えてる…)な映画で、また観ても良いなと思わせる一作でございました。

原作のレビューはこちら

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2006年5月17日 (水)

『陽気なギャングの日常と襲撃』 伊坂幸太郎

陽気なギャングの日常と襲撃―長編サスペンス Book 陽気なギャングの日常と襲撃―長編サスペンス

著者:伊坂 幸太郎
販売元:祥伝社
Amazon.co.jpで詳細を確認する

人間嘘発見器、演説の達人、体内時計、スリの天才。

4人の陽気なギャングが再集結。

『陽気なギャングが地球を回す』待望の続編。

蛇足という言葉を皆様ご存知でしょうか?

蛇に余計な足を描いたために嘘がばれてしまうという中国の故事。中学校の教科書にも記載されている有名な逸話です。私が『陽気なギャングの日常と襲撃』読了後、真っ先に思いついたのがこの故事。続編、必要だったのかな?

5月13日に『陽気なギャングが地球を回す』が全国公開され、好評を博している模様ですが、映画化に乗っかったマルチ商法を見せられた気が致します。って、すっかり乗っかって購入しちゃってる哀れな自分がここにいるのですが…。

本作はギャングの本業である銀行強盗がメインではなく、前作のように止むに止まれぬ事情があって巻き込まれたわけでもなく、自分たちからトラブルに飛び込んでゆくギャング。この自発的な行動が私の描いていたギャング像と隔たりがあるのですね。「対岸の火事」という言葉がありますが、ギャングたちにはこの「対岸の火事」を地でいって欲しかった。

テンポも前作と比べると控えめで、スピード感が無い気がします。失速?4人の巧妙な駆け合いが見られないのが非常に残念。

もちろん伊坂氏お得意の伏線張りまくり状態には圧巻でございますが、想定の範囲内なのですよ。最後に「おおっと!そう来たか!!」という感嘆符が出てこない。これまた残念。

きっと続編に対する期待が知らず知らずのうちに高まり過ぎていて、辛めの読書となったことが一番の原因だと考えます。前評判とか直前に読んだ作品(『死神の精度』)があまりにも自分好みだったからなのでしょう。どんな作家であってもクリティカルな作品を量産できるわけないので、伊坂氏の次回作に期待。きっとこの4人のギャングにまた出逢う機会もあることでしょう。

映画も早いうちに観に行かないと。

| | コメント (0) | トラックバック (3)

2006年5月14日 (日)

『死神の精度』 伊坂幸太郎

死神の精度 Book 死神の精度

著者:伊坂 幸太郎
販売元:文藝春秋
Amazon.co.jpで詳細を確認する

名前は千葉。職業は死神。

ミュージックを偏愛する死神は今日も死にGOサインを出す。

死神の6つの仕事。

この作品は伊坂幸太郎のベストかもしれない。

伊坂氏の作品は『砂漠』と『魔王』を除けばすべて読んでいるのですが、この『死神の精度』が私の中のベストです。

いつものように「なにがどう良かった?」と聞かれると「えっと…」と断言できない一作なのですが、作品全体を流れる精度が良かった。死神の千葉の存在も、千葉によって死が約束された人間たちも。

お気に入りの一作は「恋愛で死神」。萩原の語る恋愛観と、人間の本質が良かった。まぁ、店長の語る「外見も本質」発言も正しいと思うのですが。見目麗しい人間には、麗しいなりの苦労なぞがあるのでしょう。全く想像できませんし、一生感じることもないと思いますが、そういう悩みがあることを記憶の奥底に沈めておきます。何かの機会に浮上してくるかもしれません。

千葉の物言いで非常に気に入ったのがレトリックの問題。「藤田さんは一味違うんだよ」の発言に「おまえは藤田を食ったことがあるのか」と心の中で返す死神に感服。普段「一味違う」なんて修辞句を使い慣れている人間にとっては、こんな発言想像できない。恐ろしや千葉。そして伊坂幸太郎。

とにかく、私にとってこの『死神の精度』は伊坂作品のベスト。また死神の仕事を拝見する機会に巡り会いたいものです。それが自分の身だったとしても。

| | コメント (2) | トラックバック (1)

2006年3月 8日 (水)

『アヒルと鴨のコインロッカー』 伊坂幸太郎

アヒルと鴨のコインロッカー Book アヒルと鴨のコインロッカー

著者:伊坂 幸太郎
販売元:東京創元社
Amazon.co.jpで詳細を確認する

「一緒に本屋を襲わないか」

隣に住む謎の男・河崎からこう誘われたのは、新しい街に引越してきたその日のことだった。

そして、椎名は3人の物語に途中参加することとなる。

うーむ、これはあんまり。

この作品はどちらかというと『オーデュボンの祈り』や『グラスホッパー』系でしょうか。私の好みの系統ではなかったか。タイトルから言って『陽気なギャングが~』系だと思っていたんだけれどなぁ。残念。

過去と現在の二つの物語がラストでひとつになるのですが、そこまでの物語が苦痛。

悪くはないけれど、登場人物が皆後向きなので、読んでいて頁が進まないのですね。一人でも痛快な人物がいれば…椎名の独白は比較的爽快ではありましたが。

ただ、椎名も時の流れに身をまかせ系だからなぁ。

ただ、「僕たちは神様を閉じ込めてみたんだ」この台詞はすごく好きです。この一言にあらゆる切なさがつまってますね。

『ラッシュライフ』のように練りに練りこまれた作品とも言えず、『チルドレン』のようにキャラクタがぶっ飛んでいるわけでもない。

人気作家は期待が大きいだけに、その反動として評価が厳しくなってしまいますね。

伊坂氏の作品で未読は『死神の精度』『魔王』『砂漠』の3作ですか。次は私好みの痛快な語り口の作品に出逢えますように。

| | コメント (0) | トラックバック (1)

2006年3月 5日 (日)

『チルドレン』 伊坂幸太郎

チルドレン Book チルドレン

著者:伊坂 幸太郎
販売元:講談社
Amazon.co.jpで詳細を確認する

ばかばかしくて恰好よい、ファニーな「五つの奇跡」の物語。(帯より)

第131回直木賞候補作。

いつもは帯や作品紹介文を読んで内容紹介は自作するのですが、今回はちょっと困ってしまいました。「短編集のふりをした長編小説」というのは伊坂氏御本人談なのですが、どうも良い内容紹介が思い浮かばない。五つの短編により構成されているのですが、視点の変更はあるものの、どの作品にもとある人物が登場し、ちょっとしたキーパーソンとなってきます。

そのキーパーソンが破天荒・陣内。

まずちょっと尋常ではない思考力の持ち主。それが意図的であるのか無意図なのかは別として。その陣内の巻き起こす騒動が主軸かと思いきや、ちょっとしたミステリテイストに落ち着く、それが本作です。

語彙が私に不足しているのも原因ですが、本作は紹介できるような主題となる内容が無いのですよ。どれもちょっとした奇跡(?)について描かれていて、読んでいてちょっと爽快になる。この“ちょっと”というのが肝心。

伊坂氏の作品はどっしりとした不思議な主題が用意されているか(『オーデュボンの祈り』『ラッシュライフ』など)、本作のようにさらりとやってのけるかのどちらかですね。個人的には後者の方が好みです。よって『チルドレン』はなかなかの好印象。

でも、印象に残りづらいのが難点。3年後にこの作品についてどれだけ思いだせるか…自信ありません。

描かれてる短編のひとつ「バンク」は『陽気なギャングが地球を回す』を容易に想像できてしまうのが(この短編が元ネタかもしれませんが)ちょっと残念。『陽気な~』を最近読んだばかりなのが原因かもしれませんが、同じ作家にこれをやられてしまうともう消化不良です。

ただ、永瀬の見えないからこそ見えるもの、感じるものから推理を組み立てる手法というのは感心。

ミステリテイストといってもどれもちょっとしたものなのですが、そのポイントの押さえ方はさすが直木賞候補作といった感じでしょうか。飛躍の仕方も想定の範囲内。無難です。

ちょっとした時にちょっと読んでみたいちょっとした一作でした。

| | コメント (0) | トラックバック (3)

2006年2月11日 (土)

『陽気なギャングが地球を回す』 伊坂幸太郎

陽気なギャングが地球を回す Book 陽気なギャングが地球を回す

著者:伊坂 幸太郎
販売元:祥伝社
Amazon.co.jpで詳細を確認する

陽気な銀行強盗4人組が銀行からの逃走中に「売上」を盗まれた!

それをきっかけに彼らが巻き込まれる(飛び込む?)事件とは?

映画化もされる伊坂ワールド3作目!

面白かった!非常に映画向けですね。テンポがすごく良くて。伊坂氏もあとがきで述べているように、1時間半の映画を観せられた感じ。実際に読むのは1時間半以上かかったけれど。

4人のキャラクタがまた良いんですよ。その4人を取り巻く家族も。1人ろくでもない親がいるけど。

映画のキャスティングもまた良くて、是非鑑賞したい一作です。

伊坂氏の作品を読むのはは『オーデュボンの祈り』『ラッシュライフ』『重力ピエロ』『グラスホッパー』に続く5作目。この中ではこの作品が一番好きかも。次点は『重力ピエロ』。

軽い語り口と気の利いたジョークが光る作品が好きです。逆に『グラスホッパー』のような作品はちょっと苦手かも。

しかし、あの若さで直木賞常連ですからね。今回の直木賞は東野圭吾氏に花を持たせましたが、次の直木賞ノミネートで受賞しなければ東野圭吾氏に続く「直木賞はなにをしているんだ」クレームが沸き起こるのは必死。ってもう起きてますか。

今回2作受賞でも良かったのではないでしょうかね。

陽気な4人組が地球を回す作品をまだまだ読んでみたいけれど、こういった作品は続きが発表されないほうが良いのでしょうね。読者が各々彼らの活躍を胸に描いているでしょうから。 続編が発表されるそうですね。いや、楽しみなんですが…。

とにかく5月にロードショーされる映画を観て、生の彼らを楽しみたいと思います。

そうそう、やはり伊坂氏は伏線の張り方がうまいなぁと感じました。すべて回収されてましたね。

| | コメント (0) | トラックバック (3)