■米澤穂信

2015/09/29

『満願』 米澤穂信

2014年、年末のミステリ関係の各賞を総なめにした米澤穂信の暗黒系短編集。この完成度の作品を推薦から外したら嘘になるもの、そりゃ受賞するわと納得の1作。

どれも良かったのだけれど、個人的には「万灯」と「関守」を特に推す。どの作品も「なぜこうなってしまったのか」を問う作品なのだけれど、why?の出処が人間の心の中なのか行動なのかで好みに差が出たかしら。「万灯」「関守」あとは「夜警」あたりは誰のどんな行動が元でこんな悲劇が起こってしまったのか、そこを解くミステリっぽさがまだあるかと。

「柘榴」「死人宿」は反対に人間の後ろ暗さがよく描かれていて、作品としてよくまとまっていておもしろくもあるのだけれど、3作品に比べると苦手か。なんだろう、理解ができないからだろうか。表題作の「満願」も理解が出来ないという点ではこちらに分類されるかな。

『儚い羊たちの祝宴』から続く暗黒系米澤穂信。おもしろいのだけれど、やっぱりミステリが読みたい!未読なのは『王とサーカス』だけになってしまったので、twitterを追いつつ新刊を切に願います。

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2015/09/21

『儚い羊たちの祝宴』 米澤穂信

3年ほど積読していた本作。『満願』の前に読んでおこうと本棚から引っ張り出してきました。

バベルの会という読書サークルの名が作中のどこかで出てくるという僅かな繋がりの連作短編集。ジャンルはミステリ、ホラー、ブラックユーモアの融合体。死人が出た場合、誰が殺人を犯したのかは解かれるけれど重要なのはそこではない。ミステリ的に言うならwhy?の動機が肝なのだけれど、理解できるかどうかは別。理解できる人はバベルの会に入れます、入りましょう。

個人的には「身内に不幸がありまして」のラストが一番綺麗で見事だと思いました。

「山荘秘聞」は煉瓦のような塊と表現するくらいなんだから日銀大結束くらいの厚みがあるのだろうけれど、彼女はどうやってそれを手に入れたのかばかりが気になって。山に籠っていたから給金が貯まったってだけなのだろうか。

「玉野五十鈴の誉れ」は『Story Seller』で既に読んでおりましたが、五十鈴の誉れが主の命に従うことならば、既に主ではない純香の言葉に従ったのなら誉れではない。反対に五十鈴の誉れが主の命に背き、友のために赤子を見殺しにしたことなら…それを誉れと思ってしまう精神こそバベルの会なのでしょうね。

『満願』も楽しみ。でも、『犬はどこだ』の続編『流されないで(仮)』も待っています。

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2014/03/19

『Mystery Seller』


とっておきの謎、売ります。
がコンセプトのALL書き下ろしアンソロジー。

個人的には有栖川の「四分間では短すぎる」がベスト。某古典名作の本歌取り、もう単純に「うまいなあ、さすが有栖川だなあ」という感嘆ですよ。そして、作家アリスと火村がやっても成立しそうなお話だけれど、学生アリスたちが年代ものの下宿で膝を突き合わせてやるからこその味がある作品だなとも思ったり。

米澤穂信の「柘榴」も好き好き。ただ、ミステリでは無いような気がするのだけれど…このアンソロ、他にもミステリ?と首を傾げたくなる作品があるのだけれど(島田荘司とか島田荘司とか)ミステリをどう定義しているのだろうか。どこかに提示してくれればより親切なのに。

麻耶の「無くした御守」は素なのか素じゃないのかとても気になりますが、そこを投げっぱなしにしてこその麻耶だなあ、と。

そして何より、作家ごとの著作リストがもう親切でたまらない。このリストだけでも価値のある、そんな一冊かと。

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2013/12/22

『リカーシブル』 米澤穂信

タイトルから想像していた中身と全然違った…どうしてカタカナなの。っていうか、本当に米澤穂信?三津田信三じゃなくて?と言いたくなる、陰鬱で閉塞的な民俗学ミステリ。

訳あって継母の故郷に“逃げて”来た中学1年生のハルカ。初めて来たはずの土地なのに、そこで起こった過去の事件を言い当ててみせる弟のサトルは、この街に根付くタマナヒメ伝承と関係が…タマナヒメの生まれ変わりなのか。高速道路の誘致問題でギスギスするこの街とサトルに隠された秘密とは?みたいなお話。

語り部は中学生ですが、途中からその設定はどこかに消えたかのように理解力が格段と上昇するハルカ()中学1年生の冒険にしてはちょっとレベル高すぎるだろう。謎の解明、ロジックについては伏線もしっかり張られていて明快。ちょっと分かり易すぎるのは登場人物が少ないからか。マルさんというミスリード要因も居たような気がするんだけれどフェードアウトしましたね。

ホラーのテイストにも溢れた本作だけれど、何より怖いのはやっぱり人間だなと改めて。とりあえず、ママが怖すぎだろう。ハルカにわかるよね?と迫ったときのママはもうなんて言うか、ね。しかも、結局のところ他人だから仕方ない、と分からないなりに分かってみせたこちらの気持ちも無碍にしてみせるという。おそろしや。

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2013/01/28

『折れた竜骨』 米澤穂信

『折れた竜骨』、ようやく読むことが出来ました。このミス2012で第二位だったという前情報しかなかったため、登場人物表のカタカナ名前を見て吃驚。カタカナ名前を覚えるのが本当に苦手な私は、物語終盤まで誰が誰だかさっぱり状態。この点だけは個人的にマイナスかなあ。

けれど、本作は登場人物がカタカナ名前であること(西洋であること)に意味があるんですよね。なんてったって剣と魔法(魔術)のファンタジーミステリなのですから!ヨーロッパに位置するソロン諸島、その領主を襲った暗殺騎士の走狗(ミニオン)とは一体誰なのか?が本作の主題ですが、これの舞台を日本にすることは…出来なくはないけどかなりイメージ違ってきますよね。

というか、本作を読む為に必要なのはその世界観を受け止めること(ファンタジーをファンタジーとして楽しむこと)なんですよね。ラスト、領主殺しの犯人を消去法で告発するわけですが、このときに「これまで説明(描写)されてきた世界観」ってのが超重要になってくる上に、その描写の仕方が巧い。物語の中盤、ソロン諸島は呪われたデーン人に襲撃され戦闘行為が始まるのですが、キャラクタたちの活躍とともに重要なキィが明かされていくという憎い演出です。

そしてラスト、探偵役が犯人を告発する演出も憎い。堪りません。

このミス2位が納得の1冊でした。個人的にはひとつわからない点があって、エピローグで主人公が皆とお別れをするシーン、あるキャラクタが「そうでしょう、アミーナ・ローレントの娘?」と言うのですが、
言われた主人公=アミーナ・ローレントなので、そのまた「娘」ってのがピンと来ないのです。「お嬢さん」って意味かしら?それとも「・(中黒)」じゃなくて「、」が正しくて「そうでしょうアミーナ、ローレントの娘?」と読むのが正しいのかしら。この点だけは解決せず、すっきりしない幕引きだったかな。

東京創元社の『折れた竜骨』特設ページはこちら

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2012/03/14

『追想五断章』 米澤穂信

五つのリドルストーリーに隠された「アントワープの銃声」の真実を探るお話…と書くとなんだかとても厨二ですが、とても愉しく読みました。リドルストーリーとは敢えて結末を描かないことで読者にその物語の行く先を委ねるという代物。けれど、この五つのリドルストーリーには実はきちんと結末が用意されていて、それを辿ることでアントワープに鳴り響いた銃声、妻殺しの容疑を掛けられた男が死ぬまで口を噤んでいた真実がわかるというお話です。

個人的には、この『追想五断章』もリドルストーリーとして終われば良かったのではないかと思っています。最後に明かされた真実が本当に真実なのか…それを疑問に思わせるような終わり、そんな一文を最後に読みたかったです。

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2009/03/22

『秋期限定栗きんとん事件』 米澤穂信

秋期限定栗きんとん事件〈上〉 (創元推理文庫) Book 秋期限定栗きんとん事件〈上〉 (創元推理文庫)

著者:米澤 穂信
販売元:東京創元社
Amazon.co.jpで詳細を確認する

小市民を貫くべく選択した別れ

小市民を貫くべく選択した彼女

小市民を貫くべく選択した…告発

ようやく上下巻出揃いましたので、意気揚々と読書。上下分冊での出版には大人の事情が透けて見える厚さですが…内容は栗きんとんの如くどっしり。高校2年の秋から高校3年の夏に亘り、連続放火魔を追いかけた物語。

当初『秋期限定モンブラン事件』だったはずが、いつの間にやら『秋期限定マロングラッセ事件』となり、結局は『秋期限定栗きんとん事件』に落ち着いた本作。もちろんマロングラッセと栗きんとんの違いはわかりません。でも、相変わらず小山内のチョイスするスイーツは美味しそうだ。

今回『上巻』は小鳩くんの新しい彼女をメインに据えて。「あたたかな冬」で演じた座席争奪戦については…私もよくやります地下鉄での座席奪い合いあぁ小市民たる証。あの局面を「こうした思考の過程を、仲丸さんはわかってくれるだろうか」「あ、ラッキー」と描く米澤氏は巧いと思いました。決定的な相違。

そして、その相違がさらに顕著な「とまどう春」。仲丸さんの兄貴宅に押し入った泥棒。この一件の顛末…素敵です。不動産屋から帰った兄貴を迎えたのが「泥棒」であった、という結末を言い当てることは小市民でも充分可能だと思うのですが(物語には山が必要ですからね)、泥棒が室内に侵入した理由を言い当てるのは…仲丸さんがひいてしまうようなことなのでしょうか?私だったら興奮してしまうだろうに。小市民代表ならここはひくべき?うーん、難しいな小市民。

そして『下巻』。一連の連続放火魔事件は「情報操作で片がつく」と云い切った小鳩くん。どんな柴崎麻子っぷりを披露してくれるのかと思いきや…地味!地味!!いや、もとより情報操作とは地味なもので、派手な情報操作は情報操作ではなく公開捜査なわけですが。大変だったろうに、五日市くん。

でも、そんな五日市くんが最後に寄せたコラムは印象的でした。「友達が大騒ぎするのが面白かった」というコメントは辛辣ですね悪意の塊だ寒気がします。小山内さんにもこてんぱんにやられたのに…不憫。しかし米澤氏巧いな、と思ったのは、「籠絡とか懐柔とかはぼくの専門じゃない。そういうのは…」と小鳩くんに言わせておいて、実際に小山内さんのその手際の良さを後に披露してくれること。瓜野くんクラスの小市民なら罠にかかるわ、そりゃ。

というわけで、なかなか愉しませていただきました『秋期限定栗きんとん事件』。やっぱり小山内さんは黒い。「恋とはどんなものかしら」なんてフィガロってる場合じゃないです、「他愛ない」なんて発する機会私には一度も巡ってこないだろうな…ははは。小鳩くんと小山内さんの関係がどう終幕するのか『冬期限定』が愉しみ。ところで冬のスイーツってなんでしょうね?炬燵でみかんでしょうか?

秋期限定栗きんとん事件 下 (創元推理文庫 M よ 1-6) Book 秋期限定栗きんとん事件 下 (創元推理文庫 M よ 1-6)

著者:米澤 穂信
販売元:東京創元社
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2008/09/07

『氷菓』 米澤穂信

氷菓 (角川スニーカー文庫) Book 氷菓 (角川スニーカー文庫)

著者:米澤 穂信
販売元:角川書店
Amazon.co.jpで詳細を確認する

やらなくてもいいことなら、やらない

やらなければいけないことなら手短に

米澤穂信が描く、省エネ青春小説

通勤本としてチョイスした本が面白くって、以下略。篠田真由美女史の御本は本日も読了できず合掌。

もちろん今回も「あれ?古典部って省エネだっけ?小市民だっけ?」というお約束からスタート。どうやら省エネだった模様。高校生活といえば薔薇色、けれど主人公たるホータローのは灰色。そんな記述を読んで自分の高校生活は何色だったのかと振り返ってみる…鈍色?ってそれ限りなく灰色!!

本作『氷菓』は短編としての体裁も整えつつ、主軸に千反田えるの想い出と古典部文集「氷菓」の謎を据えて。「氷菓」の謎については、個人的には「スケールちっちゃ!?」と思ったり思わなかったり。だって、あれだけ材料揃えば想像できるでしょ。それよりも、あれだけの材料を彼らが集めてきたことが凄い。その執念が凄い。

その点、「愛なき愛読書」の謎は良し。推理の材料と、導き出された着地地点が離れれば離れるほどグッとくる。っていうか、もっと他に描くものなかったんかい。

そうそう、里志の立て板に水話法は好きです。「桁上がり四名家」なんて相当洒落てる。でも、こんな高校生居ないですよね居るんですか?このあたりに違和感を感じるあたり自分が歳をとった証拠だと思ってます。この作品を中学生くらいの歳に読んだなら、きっと自分も高校生になればこのくらいの言い回しができるようになるんだと勘違いしたんだと思います。若いって良いねやっぱり私の学生時代は鈍色…。

古典部の次の新刊はいつかな~?と米澤氏のHPを確認したのですが…予定情報が更新されている気配がない。ちなみに最も熱望しておりますのはS&Rの新しい事件なんですけれども。

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2008/05/08

小説新潮別冊『Story Seller』

Story Seller (ストーリーセラー) 2008年 05月号 [雑誌] Book Story Seller (ストーリーセラー) 2008年 05月号 [雑誌]

販売元:新潮社
Amazon.co.jpで詳細を確認する

この雑誌を編集した方とお友達になれると思ふ

凄い豪華な執筆陣。夢の共演といっても過言ではない。そんな素敵な一冊を紹すべく、今日は一作ずつレビューを。

「首折り男の周辺」 伊坂幸太郎
本屋大賞受賞第一作は“首折り殺人請負人の周辺で生きる人々”を描いた作品。伊坂的“改心の物語”でございます。本屋大賞を受賞したって直木賞を受賞できなくたって、伊坂節は決してブレることはないのですが…どこか物足りない。その理由を探ってみて、伊坂短編は連作で読みたいのだと気付く。伊坂短編集に収録されている短編たちは、ひとつひとつが完成されていながらも、通して読むことで新たな意味や印象が浮かび上がってきますよね。そんな“新しさ”や“改まり”を欲しているのだと。だって、長編や連作でもいけそうなんですもの、この作品。風合としては『ラッシュ・ライフ』に近い感じで出来上がるのではないかと。でも、伊坂らしい“改心の物語”にやっぱり快心の笑みを浮かべてしまうのです。

「プロトンの中の孤独」 近藤史恵
思わぬところで『サクリファイス』の番外編に出逢えました。この『Story Seller』を注文した時点ではまだ『サクリファイス』未読であったため、全くノーマークだった近藤氏。嬉しい誤算。本作はエースになるべく産まれてきた男・石尾と、石尾の名アシスト名女房であった赤城の若かりし頃を描いた一作。あの石尾にこんな頃があっただなんて、ちょっと意外。石尾の想いの深さ大きさに感動させられた後だけに。そして、この少ない枚数でロードレースの駆け引き清々しさ泥臭さを伝える近藤氏の筆力はさすが。『サクリファイス』の後編がいまから愉しみです。

「ストーリー・セラー」 有川浩
有川氏が恋愛エッセンスをふりかけに重い主題で真っ向勝負を挑んだのが本作「ストーリー・セラー」です。最初は有川氏らしい甘い恋愛小説かと思ったんですが…ラストまで読んで少しだけ鬱状態になりました。ので、卑怯にもその辺りには一切触れずにレビューを。本作の個人的お気に入り台詞は「心の中、レイプされてるって言ったら分かってもらえるかなぁ」なんですが…なんて生々しい台詞がお気に入りなんだ。でも、あの状況下で出てくるこの台詞はもの凄く秀逸です。こういう言葉選びが出来る有川氏が好き。そして、激怒するおっさんの霊が光臨した作中の彼女も。私は「最初っから私は何にも持ってないんだ!」なんて啖呵は切れないから。

「玉野五十鈴の誉れ」 米澤穂信
実は初めましての“バベルの会シリーズ”。下地が無いので(バベルの会がどんな如何わしい会か解らないので)米澤氏が作品に潜ませているだろう主題や狙いを察することが出来ず残念。テイストとしては…ホラーですよね?妄信や妄信にえも云われぬ恐怖を感じてしまう私。五十鈴のあの行動がタイトルにある「誉れ」であるならば、あの行動を「誉れ」として取れる人間は、もはや人間では無いのでは無いかと。感情を殺して“無”になったら、もうその時点で人は人で無くなり、唯の物質ですよね。物質に為ってまで守りたい「誉れ」を持たない私には、その感情はまさしくホラーです。

「333のテッペン」 佐藤友哉
佐藤氏の名前を見かけるたびに「あの絶筆宣言は何だったのだ?」とか思ってしまう私は腹の黒い仔です。でも、本作は収録作の中で唯一ミステリですよね。タイトルの「333」とは333mの高さを誇る東京タワーのこと。東京タワーのテッペンに突如現れた他殺死体の謎…うわぁ、美味しい垂涎設定。本作に登場した探偵は佐藤氏の既出キャラクタなのでしょうか?主人公の土江田の過去も、なかなか気になります。アナタハイッタイナニヲシデカシタンダ?でも、個人的に一番愉しめた(感動した)のは、あとがき(?)の筆者コメントだったりする罠。

「光の箱」 道尾秀介
私はこの作品に“ミステリを装った恋愛小説である”という判定を下したのですが、皆様はいかがでしょうか?心の開き方を知らない少年と少女の恋愛小説。サンタクロースが届ける「光の箱」に収められたクリスマスの奇跡を添えて。箱と聞くと“パンドラの箱”を思い浮かべずにはいられないワンパターン思考を持つ私ですが、最後に残された希望を失わなかったからこそ人間は生きてこれたというあの逸話が、この作品には存外ぴったりくると思います。

「ここじゃない場所」 本多孝好
一番愉しみにしていた本多氏の作品…なんですが、作風変わりましたね。本多氏の魅力は言葉選びと行間にあると信じて止まない私ですが、行間を読ませることもなく書き込まれている感情感情感情。そんなに丁寧に感情を解説してくれなくとも良いですから!って正直思っちゃいました。もっと流れるような美しさが本多氏の作品には有ったように記憶しているのですが。この作品に登場した“四人組とアゲハの物語”を現在進行形で執筆中だったからでしょうか?ほら、アウトプットしているうちに浮かんでくる設定をいつの間にか書き込んでいたことによって情報過多になった、とかいうオチで。四人組の能力に現実的な解釈が為されているのも残念に思いました。多少の無理が生じたとしても、不思議を不思議のまま処理して欲しかった。本多氏の初期作品にはそういった不思議能力を持った人間が多く登場してましたよね。でも、こんな風に酷評していても、やっぱり本多氏の作品が大好きです。新作を読めただけで幸せな気持ちになれるって嬉しい。私にとって本多氏はそういう作家です。

うわぁ、冗長なレビューに自分でもうんざり。でも、本当に「よくこれだけのメンバを集めることが出来ましたね!お疲れ様です!!」と伝えたくなるような一冊。第二弾の刊行も愉しみにしております。

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2008/05/03

『インシテミル』 米澤穂信

インシテミル Book インシテミル

著者:米澤 穂信
販売元:文藝春秋
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時給1120百円のアルバイト

ただの誤植?もしかしてドッキリ?

もし本当なら…どんな危険なアルバイト?

矢野龍王『極限推理コロシアム』を思い出さずにはおれなかった本作。男女数人を監禁し、施設内で殺人ゲームを行わせるという趣向でございます。いつ自分が被害者になるかわからない、この瞬間にも誰かが殺されているかもしれない、生きて帰りたいのなら犯人を指摘しなくてはならない。そんな極限状態に追い込まれた人間心理と、クローズド・サークル内で起こる事件の面白さを愉しむのが相応しい読み方かと。

そんなわけで冒頭から登場する“12体のインディアン人形”“十戒”“名作ミステリへのオマージュを込めた武器”…垂涎モノですねっ!個人的に各人が受け取ったメモランダムの内容がおかしいので(『まだらの紐』を象徴する武器は火かき棒じゃない)そこになんらかのトリックが含まれていると推察したのですが、単なるネタバレ配慮だったという罠。

2日目にルール説明がなされた後、大迫&箱島コンビが「黙っていれば1800萬手に入るのに、殺人を犯そうとする阿呆は居ないよね?」と確認した(同意を取った)際に、全員の武器をばらして攫えて金庫室にぶち込まなかったのかが、一番気になったのですが。自分がこの場に居たら提案するだろうなぁ、と。これを拒否する=殺人を起こす気満々ってところだと思うのですが。まぁ、武器詐称した人間も居たので結局は通用しない手だったのですが。

暢気なにーちゃんだと思っていた主人公が名探偵に豹変してみたり、名探偵候補だった安東が3の倍数で阿呆になってみたりと(違っ!)、キャラクタが変化する趣向も愉しめました。どいつもこいつも一筋縄ではゆかない=誰でも犯人足りえるということ。最後の方は、もう誰が犯人だろうがどうでも良くて(えっ?)主催者にどうやって一泡噴かすかに興味は移ってしまったのですが。

しかし、「空気の読めないミステリ読み」って言葉は良いですね。まだ何も起こっていないのに状況証拠だけでビビリまくる奴に、ミステリ読みであるが故に武器捏造して目的を達しようとする奴、そして参加者に「この殺人ゲーム、面白いでしょう?」と趣向を押し付ける主催者。もし私がこの場に居たら、まさしく「空気の読めないミステリ読み」だったでしょうし。ミステリ読みは自分の知識をひけらかすのが好きですし(私、筆頭)。

そうそう、この『インシテミル』の英語副題は『THE INCITE MILL』になるようですが、INCITE=刺激する、MILL=珈琲豆をひくミル、であるならば個人的意訳は“引っかきまわす”ですね。まさにミステリは読めても場の空気が読めない奴等が引っかきまわしたが為に起こった悲劇。タイトルまでもが深いです。イン○ルの某キャッチコピーとか思い出してる場合じゃないです。でも、あのコピーは歴史に残る名コピーだと思いませんか?

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