2008年5月 8日 (木)

小説新潮別冊『Story Seller』

Story Seller (ストーリーセラー) 2008年 05月号 [雑誌] Book Story Seller (ストーリーセラー) 2008年 05月号 [雑誌]

販売元:新潮社
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この雑誌を編集した方とお友達になれると思ふ

凄い豪華な執筆陣。夢の共演といっても過言ではない。そんな素敵な一冊を紹すべく、今日は一作ずつレビューを。

「首折り男の周辺」 伊坂幸太郎
本屋大賞受賞第一作は“首折り殺人請負人の周辺で生きる人々”を描いた作品。伊坂的“改心の物語”でございます。本屋大賞を受賞したって直木賞を受賞できなくたって、伊坂節は決してブレることはないのですが…どこか物足りない。その理由を探ってみて、伊坂短編は連作で読みたいのだと気付く。伊坂短編集に収録されている短編たちは、ひとつひとつが完成されていながらも、通して読むことで新たな意味や印象が浮かび上がってきますよね。そんな“新しさ”や“改まり”を欲しているのだと。だって、長編や連作でもいけそうなんですもの、この作品。風合としては『ラッシュ・ライフ』に近い感じで出来上がるのではないかと。でも、伊坂らしい“改心の物語”にやっぱり快心の笑みを浮かべてしまうのです。

「プロトンの中の孤独」 近藤史恵
思わぬところで『サクリファイス』の番外編に出逢えました。この『Story Seller』を注文した時点ではまだ『サクリファイス』未読であったため、全くノーマークだった近藤氏。嬉しい誤算。本作はエースになるべく産まれてきた男・石尾と、石尾の名アシスト名女房であった赤城の若かりし頃を描いた一作。あの石尾にこんな頃があっただなんて、ちょっと意外。石尾の想いの深さ大きさに感動させられた後だけに。そして、この少ない枚数でロードレースの駆け引き清々しさ泥臭さを伝える近藤氏の筆力はさすが。『サクリファイス』の後編がいまから愉しみです。

「ストーリー・セラー」 有川浩
有川氏が恋愛エッセンスをふりかけに重い主題で真っ向勝負を挑んだのが本作「ストーリー・セラー」です。最初は有川氏らしい甘い恋愛小説かと思ったんですが…ラストまで読んで少しだけ鬱状態になりました。ので、卑怯にもその辺りには一切触れずにレビューを。本作の個人的お気に入り台詞は「心の中、レイプされてるって言ったら分かってもらえるかなぁ」なんですが…なんて生々しい台詞がお気に入りなんだ。でも、あの状況下で出てくるこの台詞はもの凄く秀逸です。こういう言葉選びが出来る有川氏が好き。そして、激怒するおっさんの霊が光臨した作中の彼女も。私は「最初っから私は何にも持ってないんだ!」なんて啖呵は切れないから。

「玉野五十鈴の誉れ」 米澤穂信
実は初めましての“バベルの会シリーズ”。下地が無いので(バベルの会がどんな如何わしい会か解らないので)米澤氏が作品に潜ませているだろう主題や狙いを察することが出来ず残念。テイストとしては…ホラーですよね?妄信や妄信にえも云われぬ恐怖を感じてしまう私。五十鈴のあの行動がタイトルにある「誉れ」であるならば、あの行動を「誉れ」として取れる人間は、もはや人間では無いのでは無いかと。感情を殺して“無”になったら、もうその時点で人は人で無くなり、唯の物質ですよね。物質に為ってまで守りたい「誉れ」を持たない私には、その感情はまさしくホラーです。

「333のテッペン」 佐藤友哉
佐藤氏の名前を見かけるたびに「あの絶筆宣言は何だったのだ?」とか思ってしまう私は腹の黒い仔です。でも、本作は収録作の中で唯一ミステリですよね。タイトルの「333」とは333mの高さを誇る東京タワーのこと。東京タワーのテッペンに突如現れた他殺死体の謎…うわぁ、美味しい垂涎設定。本作に登場した探偵は佐藤氏の既出キャラクタなのでしょうか?主人公の土江田の過去も、なかなか気になります。アナタハイッタイナニヲシデカシタンダ?でも、個人的に一番愉しめた(感動した)のは、あとがき(?)の筆者コメントだったりする罠。

「光の箱」 道尾秀介
私はこの作品に“ミステリを装った恋愛小説である”という判定を下したのですが、皆様はいかがでしょうか?心の開き方を知らない少年と少女の恋愛小説。サンタクロースが届ける「光の箱」に収められたクリスマスの奇跡を添えて。箱と聞くと“パンドラの箱”を思い浮かべずにはいられないワンパターン思考を持つ私ですが、最後に残された希望を失わなかったからこそ人間は生きてこれたというあの逸話が、この作品には存外ぴったりくると思います。

「ここじゃない場所」 本多孝好
一番愉しみにしていた本多氏の作品…なんですが、作風変わりましたね。本多氏の魅力は言葉選びと行間にあると信じて止まない私ですが、行間を読ませることもなく書き込まれている感情感情感情。そんなに丁寧に感情を解説してくれなくとも良いですから!って正直思っちゃいました。もっと流れるような美しさが本多氏の作品には有ったように記憶しているのですが。この作品に登場した“四人組とアゲハの物語”を現在進行形で執筆中だったからでしょうか?ほら、アウトプットしているうちに浮かんでくる設定をいつの間にか書き込んでいたことによって情報過多になった、とかいうオチで。四人組の能力に現実的な解釈が為されているのも残念に思いました。多少の無理が生じたとしても、不思議を不思議のまま処理して欲しかった。本多氏の初期作品にはそういった不思議能力を持った人間が多く登場してましたよね。でも、こんな風に酷評していても、やっぱり本多氏の作品が大好きです。新作を読めただけで幸せな気持ちになれるって嬉しい。私にとって本多氏はそういう作家です。

うわぁ、冗長なレビューに自分でもうんざり。でも、本当に「よくこれだけのメンバを集めることが出来ましたね!お疲れ様です!!」と伝えたくなるような一冊。第二弾の刊行も愉しみにしております。

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2008年5月 3日 (土)

『インシテミル』 米澤穂信

インシテミル Book インシテミル

著者:米澤 穂信
販売元:文藝春秋
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時給1120百円のアルバイト

ただの誤植?もしかしてドッキリ?

もし本当なら…どんな危険なアルバイト?

矢野龍王『極限推理コロシアム』を思い出さずにはおれなかった本作。男女数人を監禁し、施設内で殺人ゲームを行わせるという趣向でございます。いつ自分が被害者になるかわからない、この瞬間にも誰かが殺されているかもしれない、生きて帰りたいのなら犯人を指摘しなくてはならない。そんな極限状態に追い込まれた人間心理と、クローズド・サークル内で起こる事件の面白さを愉しむのが相応しい読み方かと。

そんなわけで冒頭から登場する“12体のインディアン人形”“十戒”“名作ミステリへのオマージュを込めた武器”…垂涎モノですねっ!個人的に各人が受け取ったメモランダムの内容がおかしいので(『まだらの紐』を象徴する武器は火かき棒じゃない)そこになんらかのトリックが含まれていると推察したのですが、単なるネタバレ配慮だったという罠。

2日目にルール説明がなされた後、大迫&箱島コンビが「黙っていれば1800萬手に入るのに、殺人を犯そうとする阿呆は居ないよね?」と確認した(同意を取った)際に、全員の武器をばらして攫えて金庫室にぶち込まなかったのかが、一番気になったのですが。自分がこの場に居たら提案するだろうなぁ、と。これを拒否する=殺人を起こす気満々ってところだと思うのですが。まぁ、武器詐称した人間も居たので結局は通用しない手だったのですが。

暢気なにーちゃんだと思っていた主人公が名探偵に豹変してみたり、名探偵候補だった安東が3の倍数で阿呆になってみたりと(違っ!)、キャラクタが変化する趣向も愉しめました。どいつもこいつも一筋縄ではゆかない=誰でも犯人足りえるということ。最後の方は、もう誰が犯人だろうがどうでも良くて(えっ?)主催者にどうやって一泡噴かすかに興味は移ってしまったのですが。

しかし、「空気の読めないミステリ読み」って言葉は良いですね。まだ何も起こっていないのに状況証拠だけでビビリまくる奴に、ミステリ読みであるが故に武器捏造して目的を達しようとする奴、そして参加者に「この殺人ゲーム、面白いでしょう?」と趣向を押し付ける主催者。もし私がこの場に居たら、まさしく「空気の読めないミステリ読み」だったでしょうし。ミステリ読みは自分の知識をひけらかすのが好きですし(私、筆頭)。

そうそう、この『インシテミル』の英語副題は『THE INCITE MILL』になるようですが、INCITE=刺激する、MILL=珈琲豆をひくミル、であるならば個人的意訳は“引っかきまわす”ですね。まさにミステリは読めても場の空気が読めない奴等が引っかきまわしたが為に起こった悲劇。タイトルまでもが深いです。イン○ルの某キャッチコピーとか思い出してる場合じゃないです。でも、あのコピーは歴史に残る名コピーだと思いませんか?

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2008年4月 8日 (火)

『遠まわりする雛』 米澤穂信

遠まわりする雛 Book 遠まわりする雛

著者:米澤 穂信
販売元:角川書店
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省エネ主義・折木奉太郎が省エネを放棄し、謎解きに挑む

それもこれも千反田えるのあの一言のせいなのだ

「わたし、気になります」

久しぶりの古典部シリーズ。もちろん「あれ?古典部シリーズって省エネだっけ?小市民だっけ?」という事前準備が必要です。痴呆症気味のこの脳が恨めしい!

というわけで、省エネだった本作『遠まわりする雛』。古典部メンバの1年間が7編の短編で描かれております。若干、「あれ?古典部のメンバってこんな射に構えた奴等ばっかりだった?」という戸惑いはありましたが、すべて鳥頭の所為にしました。きっと既出作品も捻くれ&こしゃまっくれた物言いであーでもないこーでもないやってたんだと思います。覚えてないだけで。

さて、収録作のうちもっとも好みだったのは「心あたりのある者は」でしょうか。自分とは全く関係無い事象について、想像だけであれやこれやと議論する…そのシチュエーションが超愉しいですよね。私もよくやります。どっちかっていうと想像というより妄想ですが。この「心あたりのある者は」は最終的にホータローの想像が正しいことが証明されるのですが、正しさの証明に何頁も費やす自慰小説が多いなか、数行でそれを示してくれた本作には好感を覚えます。

あとは「あきましておめでとう」のラストの台詞。「やあ。あけましておめでとう」「よお。あきましておめでとう」には思わず「巧い!」と膝を叩きました。こういうジョーク大好き。こういう言葉を返せるような素晴らしい脳が欲しいものです。でも、作品の主題である閉鎖空間からの脱出については、堂々と声を上げれば良かったのだと思います。まわりくど過ぎる。

本作は古典部1年間を描くという主題の他に、もうひとつ主題がありましたね。それは恋。いやぁ、高校生らしい主題で恨めしい…もとい羨ましいです。作品タイトルの『遠まわりする雛』がホータローの遠まわり具合と絶妙にマッチしていて良い。次からの古典部シリーズには恋愛要素がさらっと挿入されるのでしょうか。恨めしい清々しいですね。ホータローが如何にして省エネを脱却するのか…これからのシリーズに期待。

って、これからの古典部シリーズの予定が米澤氏の公式HPに記載されてないじゃない!?

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2006年11月 8日 (水)

『ボトルネック』 米澤穂信

ボトルネック Book ボトルネック

著者:米澤 穂信
販売元:新潮社
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分身とも云うべき友を弔うためにやってきた東尋坊。

東尋坊の崖下へ投げ出された僕が辿り着いたのは…僕の生まれなかった世界。

そこで知ってしまった現実とは?

読了したのはもう2週間も前ですので、ちゃんとしたレビューが書けるかどうか不安です。しかも、そんな本がごろごろ残ってます。怖ひですね!!

さて、米澤穂信氏新刊はノンシリーズものの『ボトルネック』、ミステリではないですね。“これからは通常営業。ミステリブロ愚復活です。”とか上の方で云っちゃってますが、これからレビューを書かねばならない本もほとんどミステリじゃないじゃない。しかも、一ヶ月近くまともにミステリ読んでないじゃない。ぎゃぼ。

というわけで、米澤氏お得意の青春ものです。既刊の米澤作品において、その90%くらいは無気力無関心無感動を装った高校生の男の子が主人公なのですが、本作『ボトルネック』もその例に漏れません。ある意味安心、ある意味マンネリです。『犬はどこだ』はその点でやっぱり新鮮だったなぁ。紺屋S&Rシリーズ新刊、早く読みたい。

って、『ボトルネック』の話をしなきゃ!

いきなり良し悪しの話をするならば、『ボトルネック』は“良し”でしたね。あのラストが良かった。お読みでない方はさっぱりだと思いますが、僕はラストのメールを読んでどちらに進んだのか。前に足を踏み出したのか、回れ右をしたのか。私としては回れ右(家に帰った)だと思うのですが、結末が完全に読者に委ねられてますよね。こういう手法が嫌いな方も多いと思いますが(本当は私もそうです)この部分は読者がこれまでの物語をどう受け取ったかによるもので、どちらの結末を読者が選んでも物語の中身に影響を与えないので、ある意味“正しいラスト”だったと思います。どちらに進んだとしても物語として充分に成立するという部分が、単純に素晴らしいと思う。

そして“自分の生まれなかった世界”を旅するという設定。自分の代わりにそこに存在するのは、母親の胎内で亡くなり生まれなかった姉。姉の干渉によって、自分が居た世界よりも良い方向に進んでいる世界を見せられて、僕は当惑する。僕は生まれてきた意味があったのだろうか、と。自分は「不幸だ、不幸だ」と思って生きてきたが、それは自分が何もしなかったから、不幸を抜け出す努力をしなかったから。姉が放つ光にかき消されてしまいそうになる僕。光があるからこそ影が存在する。でも、強すぎる光ならば…?うん、これだけでもう青春です。

あとは、僕の分身たる彼女の存在ですね。あのときあの場所をたまたま通りかかり、声をかけたのがたまたま僕だったから…。確かにきっかけはそうだったのかもしれない。でも、きっかけを本物に変えたのは、彼女の意思があったからだと私は思います。だから君も捨てたモンじゃない。だからこそ、あのラストで回れ右をして、戻ってきて欲しい。

最後に浮かべた笑み。それはどちらの道を選択した笑みですか?

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2006年4月21日 (金)

『夏期限定トロピカルパフェ事件』 米澤穂信

夏期限定トロピカルパフェ事件 Book 夏期限定トロピカルパフェ事件

著者:米澤 穂信
販売元:東京創元社
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今日も小市民たれを合言葉に日々を平穏に暮らすことを願う「狐」と「狼」。

そんな二人が夏休みに遭遇した謎と事件とは?

米澤穂信の「小市民シリーズ」第二弾。

今回の装丁も可愛らしくて良いですね(おいおい、まずそこかよ)。私が『春期限定~』を本屋さんで手に取ったきっかけがこの装丁だったものですから、印象深いものがあります。

さて、肝心の内容ですが、今回の「狼」は前作にも増してハードです。まず、小佐内スイーツセレクション・夏と題された夏休みスイーツ巡りでございますが、小佐内さん是非ご一緒させてください!ってなもんです。

米澤氏のスイーツの表現方法は巧みですね。食べたくなってしまうもの。シャルロットを是非。実在のメニューなのでしょうか?たとえ実在していても、地方都市に住む人間としては一生食べることはできないのですが…ケーキはさすがにクールであっても送ってもらうわけにいかないし。残念。

そんな美味美味スイーツに囲まれても「狐」と「狼」は知恵比べをしてしまうし、ちょっとした大事件(どっちなんだ~い?)に巻き込まれて(?)しまうわけです。

今回は短編の体をした長編小説なのですが、うち2編は既に『ミステリーズ』上にて発表されております。もし長編のプラン無しにあの短編を書いたのならすごいね。(間違いなくそんなことはないであろうが。もしそうなら、文庫化にあたり加筆されていることでしょう)

『春期限定~』よりも題材はミステリミステリしておりますが、解決方法はやや難易度低めで作成されているところがミソ。まぁ、そこからラストの大オチにぐぐぐっともってゆくところが米澤氏です。ちょっと『犬はどこだ』を思い出しましたよ。

そして、本作を読むことによって「狐と狼の中学時代」よりも気になることが出来てしまいましたよ。それは「狐と狼の今後」。これだけではネタバレにはなっていないと思うのですが、もしこのレビューを『夏季限定~』よりも先に読むことになった方は、『夏期限定~』の序章一発目の文章にびっくりしてくださいね。

次作の『秋期限定』はどんなスイーツになるのかしら?マロンあたりと推測しているのですが…。オフィシャルでタイトル発表されておりましたね。『秋期限定モンブラン事件』の模様。いまから楽しみです☆

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2006年3月12日 (日)

『さよなら妖精』 米澤穂信

さよなら妖精 Book さよなら妖精

著者:米澤 穂信
販売元:東京創元社
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ユーゴスラヴィアからやってきた少女・マーヤ。

マーヤと過ごした時間が思い出深ければ深いほど、ある想いが彼らに襲い掛かる。

マーヤ、君はいまどこにいるのか?

米澤氏の作品で出版されているものはこの作品ですべて読んだことになりますが、この『さよなら妖精』が一番苦手です。初めて×をつけなくてはならないかも。

まず、この作品をミステリであるという認識で読み始めたのが失敗。確かにミステリ的要素も兼ね揃えているのだけれど、米澤氏が読ませたかったのはきっとそこではないのだろうな、と。

そうなると、文学的な方向からのレビューをしなくてなはらないんだけれど…苦手なんです文学が。

難しい主題を扱っているわりに、さらっと読ませるあたりがさずが米澤氏!といった感じですが、さらっと描き過ぎてテーマの重さが分散してしまった感じ。マーヤとの心の触れ合いを通して異文化コミュニケーションや、若者の心の葛藤を描きたかったのだと推測しますが、それだと肝心なところでミステリ要素が邪魔を入れている感じ。

うまく表現できないのですが、私の好みにはちょっと合わなかったです。残念。

ただ、当時のユーゴのことに興味を覚えたことは確かです。基本的に私は作中の文原の考え方に近いのですが。「自分の手の届く範囲の外に関わるのは嘘だと思っているんだ」というコレです。嘘だと思っていても、知りたいという欲求。これは安全な場所でぬくぬくと過ごしている人間のエゴでしかないのですが。

そう判っていても、欲求を抑えられないのが人間。駄目な人間ですね、全く。

☆追記☆本日、旧ユーゴ・ミロシェビッチ元大統領死去のニュースが。なんてタイムリーなニュースなのでしょうか。

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2006年3月 5日 (日)

『犬はどこだ』 米澤穂信

犬はどこだ Book 犬はどこだ

著者:米澤 穂信
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犬探し専門(希望)の調査事務所に舞い込んできた最初の仕事は失踪人捜しと古文書の解読。

しかし、この二つの依頼は調査の途中で奇妙にリンクする!

紺屋S&Rシリーズ第一弾。

「このミス2006」で見事8位にランクインした本作。

ライトノベルで活躍していた米澤氏がいよいよ本格的にミステリ界に殴りこみです。

このブロ愚で米澤氏の作品をレビューするのは3作目です。私的な運営規定において、同作家の作品を3作レビューしたら作家カテゴリを新設すると決められているため、初のカテゴリ製作作家となりました。

おめでとうございます♪

さて、肝心のレビューでございますが、これまで読んだ米澤氏の作品(レビュー済の3作品+『氷菓』『春季限定いちごタルト事件』)の中で個人的に一番好きです。ライトノベルで取り扱っていた内容よりも、本格的にミステリミステリしている作品だからでしょうか。

あのラストの後味の悪さが最高!

ちなみに紺野さんのあの営業ボイス変貌ぶりに萌え☆

米澤氏の主人公は概ね、小市民省エネひきこもりといったネガティブ傾向が強く、社会性には乏しいと読者に思わせるように描かれております。実際には彼らには彼らにしかわからない理論や理屈で行動しているわけですが、今回の紺野さんもその例を踏襲。

ただ、これまでの主人公層(=高校生)から社会人ドロップアウトへと大人への階段をひとつ登った紺野さんの登場は、ほぼ同年代の私に非常になじみ深い主人公となりました。思考がトレースし易いと言いますか。

やはり高校生主人公だと、今日びの高校生ってこんなことまで考えるのか?と若干のとっつき難さを感じてしまっていたのですね。

肝心要のミステリ部分も、二つの依頼が読者の前にはこんなにも明らかに提示されているのに、登場人物がそのリンクに全く気付かない(おい!ハンペー、君だよ)という神の視点からのジレンマがありましたが、そのジレンマが解消されてからの紺野さんの推理の飛躍には目を見張るものがあったと思います。

多少ご都合主義的な展開(友人の登場やチャットの部分)があったかなぁと思いますが、それは許容範囲内ということで。

この紺野S&Rシリーズの次回作予定も既に発表になっており、ますます読書の楽しみが増えました。米澤氏の作品で未読なものは『さよなら妖精』のみとなりましたが、これは面白い作品が読みたくなった時のストックとして大切にとっておきましょうかね。

次回のレビューは『さよなら妖精』あるいは『夏季限定~』でお会いしましょう!

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2006年2月26日 (日)

『クドリャフカの順番 「十文字」事件』 米澤穂信

クドリャフカの順番―「十文字」事件 Book クドリャフカの順番―「十文字」事件

著者:米澤 穂信
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ついに文化祭を向かえた古典部の4人。

しかし、文集の「氷菓」を予定の7倍も刷ってしまった!

果たして「氷菓」を完売させることはできるのか。

『氷菓』『愚者のエンドロール』に続く古典部シリーズの第三弾です。『氷菓』の短編集の趣と「氷菓」に込められた謎を解くという趣向、『愚者~』の名作ミステリをオマージュしたエンターテイメント性から比べると劣るかな、と。

古典部4人のキャラクタを前面に押し出すことで、キャラ小説になってしまったことが残念。怪盗「十文字」が残した暗号だって、ちょっと苦しい。ただ、ホータローひとりではあの暗号を解くことができなかった=古典部4人の協力が必要だった=それが「氷菓」完売に繋がったという、当たり前ではあるが美しい図式が描かれていたことが共感できますでしょうか。

あとは、これまでの作品は主にホータローの一人称だっため見えてこなかった、古典部他メンバーの心情がうまく描かれていて新鮮でした。ちゃんと摩耶花に気があるんじゃん、データベースくん。

もうひとつ注目すべき点はホータローの姉貴がついに登場といったところですね。この古典部シリーズの神でもある姉貴がついに日本に帰ってきましたか。

米澤穂信氏のHP(汎夢殿)によると、古典部の新作が今年中にも発売されるようなので、次回作での古典部の活躍と神の暗躍にも期待です。

ただ、その前に『犬はどこだ』。次のレビューは『犬』でお逢いしましょう。

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2006年1月29日 (日)

『愚者のエンドロール』 米澤穂信

愚者のエンドロール Book 愚者のエンドロール

著者:米澤 穂信
販売元:角川書店
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“省エネ”をモットーとする高校生・折木奉太郎が活躍する古典部シリーズの第2弾。

文化祭に出展するために撮影された自主製作映画の結末を見つけ出すため、古典部メンバーにジャッジ役が依頼された。

果たして奉太郎は正しい結末に辿り着くことができるのか!?

『このミス2006』に見事ランクインし、掲載されたインタビューを読んで興味を持って読んでみました、米澤穂信氏。

この『愚者のエンドロール』は『氷菓』に続く古典部シリーズの第2弾です。

両作品読みましたが、『愚者~』の方がミステリ的要素が満載という理由で、こちらのレビューを。

さて、ここからが感想です。(たっぷり核心に触れます。ミステリ好きなら結末が読めてしまいますのでご注意ください)

まず、米澤氏はあとがきで何も書かれていませんが、これは綾辻行人氏へのオマージュですか?ってくらいに綾辻要素がたっぷりです。

まず、奉太郎が導き出す結末が綾辻氏が考え出した、あの有名な結末と同じ。この結末で書かれたミステリミニドラマを、本家のものを含めて私は2回見ました。

私はこの結末、すごく好きですね。

読者であり、試聴者がミステリの場に引っ張り出される快感と恐怖感。

そして、事件の舞台である劇場の設計者が、かの有名な「中村青○」。○の部分は文字がかすれてしまって見えないけれど、これだけで充分あの御方を示唆しております。

まさか本家のように隠し部屋とか隠し通路が出てくるのか!と思いきや、今回の事件にはそのようなものは出てまいりません。もし、この現場に私がいて、映画の結末を予想してくれ!と言われたら、この隠し○○を使った結末に飛びつくでしょう。

『○○館の殺人』を片手に熱弁をふるう私。容易に想像が出来るわ。

さて、肝心の感想ですが、最近はこの手の「人が死なない日常ミステリ」が好まれているのでしょうか?

ばったばった人が殺される連続殺人ものも、トリック重視の本格ものも、ほんわか日常ミステリものも、私はどれも好きなので楽しく読めるのですが、一般の方は「朝から電車の中で、血なまぐさい人殺しの話なんて読みたくねーよ!」とお思いになるのでしょう。

それに、この作品はいわゆるライトノベルものに分類されるようなので、青少年に血みどろどろどろの作品は…という配慮なのでしょうか。

まぁ、私のように「ミステリに登場するならどんな役が良いですか?」という質問に、「探偵!」と即答する人間は少ないでしょうから、「もしかしたら私たちに周りにも、こんなミステリが散りばめられているかもしれない」とさらっと考えさせる作品の方が、人に与える影響力は大きいのかもしれませんね。

それこそが、エンターテイメントなのでしょう。

米澤氏の最新作である『犬はどこだ』は、米澤氏がこのテイストから抜け出した作品ということですので、大いに楽しみな一作です。

最後に、米澤氏もあとがきで触れていらっしゃいますが、この『愚者~』と同テーマの作品には我孫子武丸氏の『探偵映画』という一作があります。

『愚者~』を気に入った方は是非読んでみてください。私も『探偵映画』大好きです。

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