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2016/10/27

『さよならの手口』 若竹七海

このミス2016第4位、ハードボイルドな女探偵・葉村晶シリーズの長編です。

とてもおもしろかった。メインとなる失踪事件だけでも読み応え十分なのに、脇を飾る事件の質の高いこと高いこと。冒頭の白骨事件、あの真相のエキセントリックさと言ったら。あれでこの女探偵はできる!と警察と読者の信用を鷲掴みです。

個人的には姿を消した前任探偵の件も良かった。(ここからネタバレします)胸糞悪いし、よく真相を20年も隠し通せたと思いますがね。心の問題。親を殺して住んだマンションで彼は眠れたのでしょうか。

眠れないと言えばとても腹立たしい気持ちにしてくれた倉嶋舞美さんですが、彼女が失踪した娘だと疑ったのは私だけではないはず。警察がマークしている以上、身分を偽っているはずがなく冷静に考えなくても違うんですけど、もし彼女が娘だったらド級のどんでん返しだなあと思ってしまうミステリ読みの性。彼女の正体、その伏線回収も見事でした。

400ページ強、着々と真相に近づいていく感覚をテンポ良く楽しめるのですらすら読めます。とてもおもしろかった。本屋の二階で探偵業を営む(?)葉村の次の事件が楽しみです。

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2016/10/22

『探偵・日暮旅人の失くし物』 山口幸三郎

日暮旅人シリーズ第2弾。前作『探偵・日暮旅人の探し物』のラストで垣間見えた旅人の黒い部分がむくむくと膨れ上がってきました。個人的には日常の謎モノより何倍も好きです。何より気になる。

そうは言っても日常の謎モノ『母の顔』はテイちゃんの意外な…というか当たり前な一面が見れて良かったです。テイちゃんの母親の件は旅人の過去とどう繋がっているのでしょうか。(ネタバレします)テイちゃんのことを大切に思っているのは間違いないだろうけれど、テイちゃんも復讐を遂げるためのピースのひとつだと考えていそうな旅人ですけどね。

誘拐された“たあ君”がどんな拷問を受けて視覚以外の感覚を失ったか(眠らせたか)が判明した本作。そして、ドラッグの香りを嗅いだことで一時的に復活した嗅覚。これまで一度も忘れることのなかった男の顔。違和感のある表彰。両親の交通事故。考えるピースは増えているのに謎は深まるばかり。

こんなに続きが気になるシリーズを読むのは久しぶりです。とても嬉しい。日常の謎モノもありつつ、旅人の過去に迫っていく収録具合もさすがでした。

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2016/10/16

『どこかでベートーヴェン』 中山七里

大好き岬洋介シリーズ第4弾。ラストがちょっとやり過ぎな『いつまでもショパン』から時は遡り、まさかの高校生・岬洋介。エピソード0とも言える本作の読みどころは思春期の醜い嫉妬です。

ミステリ要素もあります。岬洋介が死体の発見者であり第一容疑者であり探偵です。ただ難易度は低いので、ミステリを読み慣れた人なら事件発生前のある記述で犯人に到達できるはず。

でも、本作の読みどころはそこじゃないんです。いやあ、胸糞悪い。岬洋介という才能(と努力)の塊が現れて、その存在が才能もなければ努力もできない自分を否定しているかのように感じる思春期の機微はわかります。わかりますがあそこまで悪しざまに他人を罵れますかね。岬洋介→殺人犯に違いない→人格を否定しても構わないはずだの論法もわかるのですが…やはり気分は悪い。岬の左耳の件を嘲笑った個所が一番腹立たしかったですね。岬自身がクラスメイトなど眼中になかったからいいですけど。左耳の件も彼なりに克服したことを知っているからいいですけど。

最後の一行のような趣向は個人的に大好きです。(ネタバレします)作中のキャラクタと作者を同一視しない術はミステリで鍛えられています。大丈夫です。新たな道をきちんと見つけ歩んでいる彼の次回作、『もう一度ベートーヴェン』がいまからとても楽しみです。

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2016/10/11

『二の悲劇』 法月綸太郎

綸太郎シリーズ鋭意再読中です。今回は二人称が重要な鍵となる悲劇シリーズ第2弾。

女性ふたりがルームシェアしていたマンションの一室で起こった殺人事件。顔を焼かれた死体はどちらの女性のものなのか…な展開かと思いきやもっとじめっとしております。女性ふたりの取り違え(入れ違い)がしばらく描かれておりましたが(ここからネタバレします)最初に親父さん(警察)が読んだ通りの事件でしたよね。最初から被害者と目されていた女性が被害者で、逃亡していた同居人が犯人。そして犯人の自殺。あれ?綸太郎が登板する必要ありましたか?1yardに気付きましたが、あれも数日もすれば郵送されてきたので…。

というわけで二人称「きみ」に辿り着いたのが綸太郎の功績かと言うと、個人的にはそうでもないような。警察だって馬鹿じゃない。6年前に死んだ二宮にそっくりな人物が竜胆を襲ったとなれば関係者を洗いなおすはずで、その過程で双子の存在に間違いなく気付きますよね。

読者からすると「きみ」=二宮じゃない誰かは明らか(とまでいかなくとも最初の記述で察した人は多かったはず)なので、じゃあ他の登場人物の誰だってことになるのですが、登場しているようで登場していないんですよね。私の大好きな言い方をすると「ノックスの十戒」と「ヴァン・ダインの二十則」のそれぞれ10番に抵触しているような。その点がややアンフェアで、もっとクリアで驚きのある存在であって欲しかったと思います。

綸太郎のどうしようもないことをぐだぐだ考える度はかなり高くて、そこは良かったです(笑)

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2016/10/09

『探偵・日暮旅人の探し物』 山口幸三郎

ドラマは観ていませんが旅人は松坂桃李で脳内再現しました、日暮旅人シリーズ第1弾。てっきり爽やか日常系ミステリだと思っていたのですが、ミステリっぽいのは収録されている4編のうち1編だけ。しかも、爽やかまで返上しなくてはならないかもしれないなんて。

探し物探偵の日暮旅人は視覚以外の五感を失った(眠っている)代わりに、音や匂い、温度、重さなどの視えないものが視える特異体質である。そんな彼がその目を使って依頼人の探し物を見つけるわけですが…もうちょっとミステリ仕立てになっているととても嬉しいです。まあ今回はシリーズ導入、キャラクタ紹介的なところがあるので仕方ないのかもしれませんが。

それでもあのラストがなければ私は次巻以降を手には取らなかったかもしれません。
(ここからネタバレしてます)まさかの黒旅人。事情があるのでしょう。突然引っ越していってしまった“たぁ君”、誘拐事件の噂、旅人が保育園から持ち去った己の過去、旅人が探している誰か。私、気になります。

かなりシリーズが進んでいますが、この伏線はどこまで読めば回収されますか。旅人の視覚以外の感覚は起きますか?本当に、こんなラストだと思っていなかったのでその落差がすごいです。気になって仕様がない。

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2016/10/06

『メビウスの守護者』 川瀬七緒

大好きな法医昆虫学捜査官シリーズ第4弾。今回も安定したおもしろさです。そして相変わらずリアルな虫の描写。

今回もウジの齢から死亡推定日時を絞っていく赤掘ですが、それが解剖学から判定される経過日時と大きく異なっており、スタートから捜査会議で失笑を買います。でも赤堀にはもう岩楯という強い味方がいますからね。読んでいるこちらも心強い。そして赤掘が虫を信じて自分の主張を認めさせる=捜査を前進させる前半から読み応え十分なのですが…前半ハイライトでもある雨のシーンは本当にキツいです。来そうだなと思ったら想像力はオフにすることをお勧めします。このシリーズはこんなにおもしろいのにどうあっても映像化できなさそうなのが残念です。私も見ない。

ミステリ色が強くなっていく後半も最後まで犯人と動機を読ませない作りになっていて楽しめます。意外な犯人は誰かな…で考えると普通に当たるんですけどね。でも、この作品の良いところは犯人よりもその動機でしょうか。ミステリあるあるの言っていることは分かるけれどもこれっぽっちも理解できない系です。(ここからネタバレします)香水の調合に血液やら消化途中の食べ物ならが必要だから人ひとり殺してバラバラにしようっていうんだからぶっ飛んでますよね。そしてそれが世に出るまで黙秘を続け、ローンチされたから真相を語る。プロの犯行です。でも真相は語ったけれども肝心な部分は知らぬ存ぜぬを通しているから未だ逮捕できないでいるんでしたっけ。岩楯頑張れ。

今月末には第5弾の発売が決定しているのでそちらも楽しみです。本当におもしろい。もっとたくさんの人に読んでもらいたいシリーズです。想像力はオフで。

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2016/10/02

『頼子のために』 法月綸太郎


『一の悲劇』
ドラマ化から法月綸太郎ブームが来てます。十余年ぶりの再読。ドラマはとても楽しく観ました。前評判より綸太郎がしっかり変人で良かった。謎のミステリ好き家政婦とか、法月家のテーブルがまるで麻雀卓とか、昼ドラ的愛憎パート長すぎるもっと長谷川博巳を映せとか、そもそも何が『一の悲劇』なのか視聴者はわからないよなあとか突っ込みどころは多々ありましたが、丁寧に作られていて良かったと思います。納得いかないのは久能刑事を無能化したことくらいかな。

さて、本日のレビューは法月綸太郎初期の名作『頼子のために』です。物語は愛娘である頼子を殺された父親の手記から始まり、復讐、そして自殺未遂で手記は幕を閉じます。そして、その手記の内容に疑問を持ち捜査に乗り出したのが綸太郎ですが(ここからネタバレします)綸太郎が手記に疑問を持った→手記は事実ではない→何のために手記は書かれたのかを考えていくと真実に到達できるのでしょう。手記の大きな目的は頼子を妊娠させたのが柊であると誤認させるため。では、父親であり復讐者でもある彼がそんなダミーを用意し殺さなくてはならなかったのは何故なのか。誰かを庇うため?彼が殺人を犯してでも庇いたかった相手とは?素晴らしいですね。

27年前の作品なので個人情報の概念がガバガバなのは多少気になります(笑)

個人的には14年前の事件の真相、頼子はなぜ車道に飛び出したのかが胸に刺さります。こうなってしまう前にそれぞれが胸に秘めた苦悩と誤解を解きあう方法はなかったのでしょうか。

最後の綸太郎の決断は私は否定的ですが、倫太郎らしいなとも思います。

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