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2016/03/30

『ラスト・ワルツ』 柳広司

D機関シリーズ第4弾。私が読んだのは単行本(↑)なのですが、文庫版(↓)にはロンドンでの密室殺人を舞台にした書き下ろし短編「パンドラ」が収録されているようなので文庫版がおすすめ。密室殺人とかなんて素敵な響き。

収録されている作品は3つ。個人的ベストは「アジア・エクスプレス」。走る鉄道という密室で外部からの応援(情報)も望めず、大きく変化してしまった状況に合わせて己の判断のみで的確に行動する…そんなスパイ小説として直球とも言えるシチュエーションに花を添える手品となぞなぞ。この作品はアニメでもやるようなのでとても楽しみです。cvも櫻井さんのようなので2倍楽しみ。

「舞踏会の夜」は約束を果たすついでに利用したのか、利用したついでに約束を果たしたのか。この微妙な違いのどちらが結城中佐に相応しいだろう…なんてことを考えるのが楽しい。

中編である「ワルキューレ」は個人的には微妙。(核心部分ネタバレします)雪村は結局D機関所属のスパイではなく海軍所属のスパイだったようですが、その雪村があれだけやれるとなるとD機関の優位性とか特異性って?と疑問に思ってしまいます。雪村はかなり大きな騒ぎを起こしたしスパイとして二流という意見は『パラダイス・ロスト』収録の「誤算」で反論したい。D機関所属のスパイも結構大きな騒ぎ起こしちゃってます。なによりD機関の最も特殊なところは結城中佐直伝のマインドだと思うのですが、雪村視点で書かれているあの文章にはそのマインドとそう変わらないものが流れている。読者相手にトリックを仕掛けたかったのはわかるのですが、上記のようなつじつまの合わないところが気になって個人的には楽しめませんでした。

ひとまずD機関シリーズは全作品読了。アニメもまだ見ぬ新作もとても楽しみです。

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2016/03/28

『災厄』 周木律


原因不明の集団死により死の国となってしまった四国。かの地では一体なにが起こっているのか。テロか、未知なる感染症か。ふたりの厚労省キャリアが災厄に挑む…という物語。

その設定はすんなり理解できたものの、登場人物たちが無能すぎることに違和感しかなかった1作。(ネタバレします)結局は植物の突然変異による感染症だったわけですが、感染症であるという証拠がない故に感染症ルートを却下するならば、テロだという証拠もなかったのでは。議場のイニシアチブが取れなかったんだとしても、感染症ルートをないものとする流れがまずおかしい。

そもそもあの会議に参加している人たちだけが原因を究明していたわけではなかろうに。それぞれの立場から感染症を疑っていた人もいたはずで、原因を特定するのにもっと相応しい人物が日本国内にはいなかったのか。植物学者とか細菌学者とか。常に植物なり細菌なりに向き合って、毎日それを考えている人がその可能性に思い至らないとかあり得ない。

物語としてスピード感があり読ませてくれるものの、そんな馬鹿なという箇所も多くって。そもそも主人公の斯波って格好つけてますけどクズですよね…。

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2016/03/27

『パラダイス・ロスト』 柳広司

おもしろいことに変わりないのだけれど、少し毛色が変わってきたD機関シリーズ第3弾。

これまでの2冊にくらべて、スパイの活動が目立つ&派手なものになってきた。(ネタバレします)例えば「誤算」で老婆が騒ぎを起こすように仕向けるまではいい。でも、それを(うまく切り抜けるつもりだったとは言え)自分で解決しようと舞台の最もスポットライトが当たるところに出てきちゃダメだろうと思ったわけですよ。

「失楽園」も結局は一般人に正体見破られてますからね。米国人の彼が危険(一度助けた恋人再び逮捕されるかもしれない)を冒してまで英国に情報を流すとは思えないのでセーフ…ってことになるだろうか。もっと底を見せない終わり方が良かった。

そんなわけで、個人的ベストは「暗号名ケルベロス」の前篇です。あくまで前篇のみ。やはり頭脳戦&隠密行動であって欲しいのです。後篇は自ら名探偵買って出ちゃった上に、スパイまでやめてますからね。なんというか、私がこれまでの2冊で作り上げてきたD機関の人間像と違う。別に人間味があってもいいんです。でも、プロフェッショナルでいて欲しい。

少し辛口になってしまいましたが、それでも一気読みしてしまうおもしろさ。『ラスト・ワルツ』も楽しみです。

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2016/03/25

『ダブル・ジョーカー』 柳広司


『ジョーカー・ゲーム』に続くD機関シリーズ第2弾。おもしろくて一気読み。

今回はスパイ視点ではなく、敵対する者であったり狩られる者であったり巻き込まれる者という第三者視点の物語が多く、誰がD機関のスパイなのかわからないミステリ要素(?)もあり。そして背中をうっすらと這う恐怖感。結城中佐の指導により何者でもなくなったスパイたちの物語といった感じです。

個人的ベストは表題作「ダブル・ジョーカー」。鮮やかに風機関を出し抜いてくれてすっきりしました。「柩」(こちらも好きな作品)で結城中佐の過去が明らかになりましたが、スパイとして実際に命を削る経験をしたことない者(風機関)が死線を経て「死ぬな」「殺すな」の境地に至った者に勝るわけがないですよね。

そして思いがけず『ジョーカー・ゲーム』収録「ロビンソン」の裏側も読めて良かった。こういうサービスは好きです。

それにしてもアニメ公式ではD機関のスパイたちが何人も紹介されていますが、どういう描かれ方をするのだろう。今回のような第三者の視点を借り、スパイが誰かわからないところに面白みがある作品では紹介済みの彼らは使えませんよね。とても楽しみにしているので、ぜひやられた!と言わせて欲しいものです。

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2016/03/23

『ストリート・クリスマス Xの悲劇’85』 古野まほろ

『命に三つの鐘が鳴る』 『パダム・パダム』に続く二条シリーズ第3弾。

テロリストに占拠された特高の中と外。見えぬテロリストの目的と不可思議な状況で起こった殺人事件。果たして犯人は銃を所持していたテロリストか、拳銃技術を持った仲間のひとりか…なんてお話ですが、

事件が起こるまでの135頁が本当に辛かった

正直、アウトライン(省庁間で陣取り合戦をやっている)さえ把握しておけば読み飛ばしていいと思います。私も途中から単語だけ拾う形にしましたが、事(黒幕が描いた青写真)の真相については理解できたので大丈夫。

そして肝心の殺人事件。犯人は誰か、そして(ネタバレですが)内通者は誰かの論理は綺麗です。ただ、中と外の両方を鮮明に把握できる読者は二条よりも推理の難易度が下がっていることが残念でしょうか。内通者及び黒幕の存在は肝ですが、その存在がすけすけなのがとても気になります。あとは殺害(?)現場がトイレじゃないことはわかりましたが、どうやって死体を運んだんでしょうねえ。

黒幕の描いた計画が結構ザルな気もするので他省庁相手取ってそこまでうまくいくとは思えないのですが、ザルになってしまったのはあくまで二条というアンタッチャブルの所為ということでよろしいでしょうか。それにしてもテロリストに動機を与えたのが外田警部ってのがまほろスキーにとってにやりポイントですね。

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2016/03/18

『片桐大三郎とXYZの悲劇』 倉知淳

2016年本ミス2位、このミス7位。ドルリー・レーンの悲劇四部作へのオマージュにあふれた短編集。

近年の倉知作品から考えるとかなり骨太。しっかり本格してます。ドルリー・レーンの悲劇四部作を読んでおいた方が何倍も楽しめるはず。私も悲劇四部作は既読ですが、もう15年は前のことですのでほぼ忘れていると言っても過言ではなく、何倍も楽しめなかった口です。覚えていたのはレーンの耳が聞こえないことくらい。とほほ。

冬から始めて秋まで4つの章(短編)が収録されておりますが、「夏の章」の真相がとにかく胸糞悪いです。それを引きずったまま「秋の章」を読んだので、せっかくの趣向をまったく楽しめなかったのが個人的な反省点。インターバルを取れば良かった。もっとも論理的で綺麗だと思ったのは「春の章」でした。

本当に「夏の章」がトラウマ。これは悪い意味で真相忘れられない作品です。ラスト2行がとても重く、なんだか胸に刺さりました。

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2016/03/14

『ミステリー・アリーナ』 深水黎一郎

2016年本ミス1位、このミス6位の多重解決ものの力作。

多重解決ものとはひとつの事件を異なる視点で解き明かすことによって何通りもの解決がある(ように見える)作品のことで、推理合戦的な手法で用いられることが多いですね。『毒入りチョコレート事件』が有名。

その多重解決、本作に用意された解決は…ってネタバレもネタバレなので具体的な数字を挙げることは避けますが、多いです。多すぎです。正直、中には無理筋もありますが性別トリックや人数誤認トリックの中には唸らせてくれるものもあります。ミステリをよく読む人ほど「そうだ、その手もあったか」と楽しめるはず。ミステリをあまり読まない人だとテキストを捏ね繰り回してるようにしか思えないかも。難しいところですね。

(ここから本筋に関するネタバレです)
参加者の回答によって正解がスイッチするというミステリー・アリーナ(推理闘技場)に仕掛けられた罠は看破したのですが、参加者全員が仲間だとまでは思っておりませんでした。随分偏った見方をする偏狂的なミステリヲタばかり集ってるな…とは思ったのですが(笑)

個人的にはとてもとてもたのしめました。エンタテイメントミステリの名作、そう言って過言でないと思います。

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2016/03/11

『私が彼を殺した』 東野圭吾


『どちらかが彼女を殺した』
に続く最後まで読んでも犯人の名前が書いてない加賀恭一郎シリーズ。

犯人候補が2人から3人に増えており、確率で言えば難易度は上がっている(かもしれない)。おもしろいのが犯人候補3人の視点入れ替わりで書かれているのに、最後まで犯人がわからないところ。

(ネタバレします)解決の鍵となるのが毒入りカプセル=ピルケースの動き。そして、そのピルケースの動きを追って行くと3人全員が(一旦は)犯行不可能な立場になってしまうところがおもしろい。実際にはふたつめのピルケースが存在しておりピルケースそのものを入れ替えることができたのは誰か、で犯人を特定できるのだけれど…身元不明(元妻)の指紋云々よりも付いているべき美和子や西田の指紋が付いていないことを鍵にした方がスマートなような気がします。

個人的には加賀の出番が少なく、加賀のなにを考えているかわからない得体の知れない感じが伝わって来なかったのが残念。

驚きの真相を謳って第4の人物・美和子が犯人なんてのも良かったと思うのはトリッキーすぎるでしょうか。

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2016/03/09

『珈琲店タレーランの事件簿』 岡崎琢磨

ビブリアが流行った際にどこの本屋でもいっしょに山積みされていた本作。何年かごしでようやく読めました。

ビブリアからの連想、表紙から得られるイメージからあっさり読める短編集かと思いきや、短編を繋ぐ背骨のキャラクタ部分にいろいろトリックが仕掛けられておりました。しかし、なぜか心踊らない。(軽くネタバレします)アオヤマさんがいつまでもカタカナ表記なので青山さんではないのだとは思っておりました。だから「やられた!」という爽快感がなかった…と言うわけでもなく。なんというか、設定を最大限に活かせてないというか、文章読み難くありませんでしたか?表記が揺れていて、真面目に読むととても疲れてしまいました。

バリスタさんの過去も微妙だったかな。そんなに他者の心を開くのが上手な人物には思えませんでした。ふたりの辛口な言葉の応酬もあまり魅力的に思えず…マイナスなことばかり書いてしまいましたが、私には合わなかったようです。

でも、コーヒーだけは飲みたくなりました。

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2016/03/07

『ジョーカー・ゲーム』 柳広司

映画は観ておりませんが、春のアニメ化を前に読了。

とてもおもしろかった。スパイ養成学校・通称D機関に所属するスパイたちが自らの知恵と技術と力で以て諜報戦と生き抜く短編集。作品ごとに変わる主役と、名前と過去を捨てて生きるスパイの生きざま、その潔さがオーバーラップしていていい。

個人的なベストは表題作「ジョーカー・ゲーム」。主役である佐久間中尉の過去なんてまさに知りたいところ。アニメのキャラクタ紹介を見るに彼を背骨にして進むのでしょうか。原作の背骨はD機関の設立者であり、かつて伝説のスパイとして活躍した結城中佐。彼からのさりげなく、でも露骨に与えられるヒントがいつも物語を解決に向かわせますが、それってどういう気持ちからの行動なんだろう。生徒を送りだす師の気持ち…だと思うのは少しセンチ過ぎるでしょか。

刊行済みのシリーズ作品はあと3作。アニメ開始前に読了したいところです。

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2016/03/01

『神様の裏の顔』 藤崎翔

第34回横溝正史ミステリ大賞を受賞したエンタテイメントミステリ。

清廉潔白、まるで神様のような人と愛され慕われた教師の通夜で暴かれていく『神様の裏の顔』。果たして神様の本当の顔は犯罪者だったのか。軽快な語り口とユーモアで読ませる1冊です。

あれよあれよと、まさにドミノのように暴かれた神様の裏の顔ですが、次の展開が読めるのが残念。(ここからがっつりネタバレしてます)「神様→実は犯罪者」の展開のあとは「やっぱり神様だった」の展開しかないので。その勘違いを訂正していく流れも思い込みや決め付けが過ぎる部分があって残念。いや、もともと思い込みと決め付けからスタートした狂騒劇なのですが。そして、火のないところに煙は立たないことを考えると、神様の身近な人間=長女が真犯人という図式まで読めちゃいます。ただ、この先に一捻り加えてあるわけですがこれがまた微妙。記述にアンフェアな部分があるかどうかは検証していませんが、個人的な好みの問題で好きではありません。

でも、この部分をうまく処理して映像化すればかなりおもしろいものになりそうな予感。ものすごく三谷幸喜っぽい(笑)

レビューも若干辛口ですが、とてもたのしく読みました。話題になるのがわかります。

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