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2008/03/15

『重力ピエロ』 伊坂幸太郎

重力ピエロ Book 重力ピエロ

著者:伊坂 幸太郎
販売元:新潮社
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「そんな子供も犬に食わせてしまえ」

「兄貴、むちゃくちゃだよ」

「そうだ、このむちゃくちゃがおまえの兄なんだ」

文庫化した『死神の精度』を再読したら、どうしてもスプリング兄弟に逢いたくなって再読してしまった『重力ピエロ』。読了まで、多少時間がかかってしまったのはご愛嬌ということで。

本作は遺伝子に縛られた兄弟と遺伝子によって生を断たれようとしている父、そして遺伝子を遺すことに躍起になっている男の物語。それはそれは悲愴で重苦しい過去を、ゆるやかに、時には楽天的に描く「本当に深刻なことは、陽気に伝えるべき」物語。

他の伊坂作品と比べても“山場”や“見せ場”の少ない本作。もちろん伊坂作品特有の“伏線地獄”は健在ではありますが、その方向性は読者を驚かせることでなく、文学的な方向に働いていると感じます。「春が二階から落ちてきた」とかね。仙台市で起こる連続放火事件がミステリ的エッセンスとして使用されておりますが、その犯人は明らかであり、もし放火魔が彼でなかったとしたら仰け反るほどの“どんでん返し”でしたけれども…まぁ、物語が成立しないやね。

個人的にレビュー冒頭の作品紹介(□で囲まれている部分)でも使用した兄弟の会話が大好きなんです。あとは癌に侵された父の

「おまえは俺に似て、嘘が下手だ」

なんて、たった一文なのに、うっすら眼に涙が溜まります。ペットショップから病室、そして自首(笑)までを描いたラストシーンは名台詞が多くて困る。これが書きたくて、それまでの物語があったに違いないと思わせる素敵シーンばかり。

以前、石持浅海氏の『水の迷宮』というミステリ作品のレビューで「ミステリにおいて犯人が捕まることなく、登場人物たちもそれを容認するという結末に喝!」と書いたことがあるのですが(あれ?うっかり『水の迷宮』のネタを割っている気がするな…まぁいっか)本作に於いてはこれに該当しないと個人的に思います。だって、家族なら…赦せるでしょう?家族なら、赦すでしょう?その赦しを以って、犯人がどう行動するかは別問題として。その意味でも『重力ピエロ』は深いなぁと改めて感じます。

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