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2008/03/24

『シャーロック・ホームズの冒険』 コナン・ドイル

Book シャーロック・ホームズの冒険

著者:コナン・ドイル,延原 謙
販売元:新潮社
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もともとは拍手御礼の特製レビューだった本レビュー。ミステリ好きの方なら大抵の方が喜んでくださって、かつ広く普及している作品を…と悩んでいる私の脳裏にふと浮かんだのが「ホ、ホ、ホ、ホームズ!!」。私ったら、ミステリスキースキー云っていながら、ホームズ作品を見事に無視しているではありませんかっ!私の脳内議会は満場一致でこの『シャーロック・ホームズの冒険』を特製レビューとすることを決めたのでございました。

ホームズ第一作『緋色の研究』とも迷ったのですが、青い背表紙新潮文庫の愛読者としては順繰り読んでいくしかない!しかも『冒険』には名作が多いし!!と、この『冒険』をチョイスした私。本当にこの『冒険』にはホームズ作品の中でも有名かつ愛されるべき作品が多い。

まずは私の愛して止まない「ボヘミアの醜聞」。ホームズが生涯唯一敗れた女性として“あの女”と呼ぶアイリーネ・アドラーとの対決を描いたこの作品。ボヘミア皇太子のスキャンダルを握る女から、その証拠を奪い取るために立ち上がったホームズ。す、好きです。2006年年末にyahoo動画で無料公開されていたドラマシリーズももちろん観ましたとも。いやぁ、ホームズの数少ない敗戦試合を文庫収録の一発目に持ってくるところが憎いですね、新潮文庫。というわけで、ホームズの手際は鮮やかなれど、したたか且つ大胆不敵な女には敵わないこともあるのさ…という、ちょっとラヴな物語。

そして次に収録されている「赤髪組合」も名作。大英百科事典を書き写すだけで週に4ポンド(今のレートに直すと800円くらいなんですが…当時の価値だとどのくらいなのでしょうか?とにかく高額収入であるようです)貰えるという、超おいしいアルバイトの裏に隠された巨大な犯罪とは?という作品。この「赤髪組合」に限らず、ホームズ作品には「ちょっとした謎が大きな犯罪撲滅に繋がる」系のお話が多いです。末端(?)から巨大な悪へと辿り着くホームズの手腕に酔いしれる一作。

そして「花婿失踪事件」。こ、これも好き!消えた婚約者を探して欲しいという依頼を受けたホームズ。ホームズ自身が変装の名人であるが故に、この結末へと早々に辿り着くことができるのでしょうな。だって、婚約までする仲なら普通は気付くもん!そんなとこ疑わないもん!!(笑)

「オレンジの種五つ」は、読了後なんとも云えない気持ちになりますねぇ。ホームズが導き出した真相が真実だったのかは藪の中でございます。新潮ホームズ初読が中学生だった私は、KKKがどういう団体なのかよく知らず、知らないながらも恐ろしく思ったものです。教科書でKKKが登場したときには、妙に嬉しくなりました。

「唇の捩れた男」も結末は「花婿失踪事件」と同じでございます。ホームズ作品で誰かが失踪したり消えたりした場合は、まずこのパターンを疑え…というのがセオリー。「花婿」と同じ感想となってしまいますが…妻よ、気付けよ!!

そして有名すぎるあの作品「まだらの紐」。これはもう有名過ぎて有名過ぎて、ツッコミどころも満載。あれですか?東洋(この作品ではインド)はどれだけ怪しい呪術や未知数の毒薬があふれかえる危険な地域なのですか?(笑)しかし、ベッドサイドにそんな意味不明の紐が垂れ下がっていたら、私ならソッコー縛り上げてしまうことでしょう。邪魔臭いもん。偉いね、娘たち。この「まだらの紐」事件の動機も「花婿」と同じ動機が繰り返されているのですが、こんなに事件が耐えないのならば、そんな悪習辞めてしまえばいいのに…。

というわけで、ホームズ作品は現代のミステリに求められているような論理型ではなく、閃き型驚き型の作品が多いのが特徴です。この電光石火型にうっとりしてしまう私は、まだまだ甘いのでしょうか?ワトソン(ワトスン表記はどうあったって許せない!)を小馬鹿にしたあの口調で、どんな閃きがホームズに訪れ、解決に向かったのかを読む時間が愛しくて愛しくて堪らないわけです。

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2008/03/23

『映画篇』 金城一紀

映画篇 Book 映画篇

著者:金城 一紀
販売元:集英社
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スクリーンに描かれる友情、恋愛、人生、死

スクリーンと共に築かれる友情、恋愛、人生、死

金城一紀が描く5つの物語

阿呆で爽快な物語を書かせたらピカイチだと個人的に思っておる、金城一紀。そんな金城一紀が、映画への愛と5つの異なる主題を詰め込んだ作品集がこの『映画篇』です。

私は読書はすれども映画は(比較的)観ない性質です。正直、映画よりも読書の方が優れていると思っていたり。行間を読む…なんて崇高さが好きなのではなく、妄想を働かせ易いからなんですけどね。自分好みのキャラは、自分好みの容姿をしていて欲しいじゃないですか(笑)あとは、映画の「2時間に収めなきゃ!」感が得意じゃないかったり。「なぜにそこを削る!?」って経験を何度かしたからでしょう…『亡国のイージス』なんて観客置いてけ堀、全然意味が解らなかったもんね。

なので、本作に登場する映画の殆どは知らない&観ておりませんでした。それでももちろん楽しめる、素敵作品集に仕上がっておりましたけどね。

個人的に最も好みだったのは「愛の泉」。ちょっと阿呆な語り口で家族への愛を描いた作品なのですが…良いです。ちょっと“うるっ”ときちゃいました。アホアホパワーに溢るる愛すべき中学生のケン坊を始め、従姉弟の面々が最高なんですよね。こんな従姉弟たちなら欲しいぜ。

「ドラゴン怒りの鉄拳」で描かれた、氷解してゆく主人公の心模様も良い。「俺、もっさんのことちゃんと好きです。だから、いい加減なことはしないつもりです」という台詞にはうっかり胸キュンしちゃいました。一度で良いから言われてみたい。そして、いい加減なこともして欲しい(笑)

「ペイルライダー」のおばちゃんも格好良かったですね。覚悟を決めた女ってのは強い。自分から望んで得た強さではないけれど、大きな代償を払って得た強さだけれど、それでも私はおばちゃんに「格好良い」って言葉を贈りたいです。

ゾンビーズシリーズのような底抜けに明るい作品も良いけれど、金城一紀はこういう胸に響く作品も書けるから凄い。好きです。「太陽がいっぱい」がそうさせるのでしょうか?

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2008/03/22

『のだめカンタービレ #20』

のだめカンタービレ #20 (20) (講談社コミックスキス) Book のだめカンタービレ #20 (20) (講談社コミックスキス)

著者:二ノ宮 知子
販売元:講談社
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クロキン、それは青緑色だよっ!(意味不明の叫び)

まさかクロキンがあそこで同棲を持ちかけるとは夢にも思いませんでした。『のだめ #20』感想は、もうこれに尽きます。崩壊しつつあるクロキンの人格。ターニャに「バカ」呼ばわりされて白目剥いちゃって…いぶし銀は何処へ?

20巻はクロキンのぶっとび発言も含め、LESSON114が良かったデスネ!峰&清良のラヴラヴを初めて読んだような気がする…いつの間にかデキてた2人だったから。瀬川悠人くんもゲスト出演してましたし(笑)

あっ、ハロウィン(?)のだめも可愛かったデスネ!のだめのふきだしがもやもやホラーテイストなのが最高です。あんな細かいポイントで笑かしてもらえるとは思っておりませんでした。

んで、原因(?)のラヴェル ピアノ協奏曲ト長調、聴きました。第Ⅲ楽章が実にのだめっぽいデスネ!飛んだり跳ねたり撥ねたり。個人的には飛び込んでくるホーン隊の音に心奪われちゃったんですケドネ!内緒ダヨ!(って、内緒になってないから)「KISS」本誌の方では、千秋&Ruiの共演ラヴェルが始まりますが、どんな素敵描写になるやら。

マスターヨーダがなにか好からぬことを考えておるようですが、のだめはマスターヨーダの試練を克服することができるのでしょうか?21巻でそこまで到達…しないだろうなぁ。到達しちゃったら、そこで『のだめ』が終わるような気がするし。モッタイナイ。

20巻もコンサトに行きたくなるような素敵描写がいっぱいでございました。地元ホールの公演内容を確認してみよう…ラフマニノフが聴きたい。武満でも良いよ(笑)

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2008/03/21

『君の望む死に方』 石持浅海

君の望む死に方 (ノン・ノベル 845) Book 君の望む死に方 (ノン・ノベル 845)

著者:石持 浅海
販売元:祥伝社
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癌に冒された私の余命はあと6ヶ月

ただ、無為に過ごすことになろう6ヶ月

だから…私は君に殺されることにしたよ

いつもは密林のアフィリを使うのですが、なぜか表紙画像が用意されていなかったためセブンアンドワイで。密林で画像が用意されていたので差替え。どうしてそんなに表紙画像に拘るのか…もう皆様お解かりですよね?あの!あの作品の続編がついに登場です!!

続編と云っても、探偵役が同じであることを除けば別の作品。本作の趣向はちょっと変わってますよ。とてもネタバレ無しでは語れませんので…いきなりネタバレレビューの開幕でございますっ!!

本作は“自ら殺されることを望んだ被害者”と“被害者が自らの味方であることを知らない加害者”、そして“病的なまでに悪意を察知する探偵”の物語です。あれ?なんか探偵の紹介に毒が混じってますね。

とにかく趣向の凝らされた本作ですが、その最たるものは

探偵が殺人事件を未然に防いでしまう

ということでしょう。事件が起こってから登場し我が物顔で舞台を引っ掻き回すのが“探偵”ならば、事件を未然に防ぎ皆が納得する結末を用意するのが“名探偵”。では、本作の探偵役・碓氷優佳はどうでしょう?最後の「私はすべて知っていますよ」「殺人は私のいないところでやってください」という態度はどうなんでしょう?

個人的には「探偵が殺人への道をすべて塞いでしまった結果、加害者は動くことができず、加害者を夜な夜な待ち続け途方に暮れる被害者」というラストを用意して欲しかったところです。張り巡らされた悪意をすべて解き明かしておきながら、被害者の“殺されたい”意志が強いことを知り、事件の発生を容認してしまう探偵役って…必要だったわけ?

趣向自体は最高に好みなんですがね!探偵役の彼女がいけ好かないだけなんですよ!!『扉は閉ざされたまま』でも感じたことですが、彼女は妄想が過ぎる上、自分の妄想が正しいと猛進し過ぎなんですよ。物語の都合上、その妄想はすべて正しいんですけれど。

被害者と加害者が織りなす心理戦はなかなか楽しめました。同じ事象をどちらのサイドからも描くので、「もう読んだよ!」感は若干ありましたけれども。でも、<著者のことば>で石持氏が仰っている「みんなそれぞれに努力していることがよくわかりました」という作品に込められた意図は充分に伝わってまいりました。

この作品がどう評価されるのかは分かりませんが、『扉は閉ざされたまま』の続編として上梓されるに納得のクオリティでございました。面白い作品を読んだ、と言うに充分。ご馳走様でした。

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2008/03/20

『空中ブランコ』 奥田英朗

空中ブランコ (文春文庫 お 38-2) Book 空中ブランコ (文春文庫 お 38-2)

著者:奥田 英朗
販売元:文藝春秋
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「いらっしゃ~い」

今日も陽気なお出迎え

あのぅ…本当に治してもらえるのでしょうか?

『イン・ザ・プール』に続く、トンデモ精神科医・伊良部シリーズの第2弾です。直木賞受賞当時は奥田英朗に全く興味が無かったので、完全スルーしておりました本作。セクシィ看護師・マユミさんが私の好物です。

前作では「伊良部の行為は治療か?悪ふざけか?」と迷ったものですが、本作を読んで確信しました。伊良部の行為は治療でも悪ふざけでもなく…

本気だ

と。ところどころに現れる治療的発言(「義父のヅラ」の「禁断?強迫?」とか)から、伊良部が医療知識ゼロの単なる阿呆でないことは解りますが…スイッチ入っちゃうのでしょうね、患者を迎えた瞬間に。「またこの患者と遊べるに違いない」スイッチが。友だちのいない学生時代を過ごした弊害でしょうか?

しかし、「義父のヅラ」とはすごいタイトルですね…タイトルを確認した瞬間にワックワクしちゃいました。

「あぁ、私にもこの気あるよ…」って(笑)

さすがに見ず知らずの方のお帽子を無理矢理引っぺがすような無作法はいたしませんが、お帽子に伸びる手を我慢するべく脂汗を掻いたりはしませんが、うずうずはしますよね。「バレてないとお思いですか?」とか「蒸れませんか?」とか「そのお帽子おいくらですか?」とか聞きたくて!!!なんかもう、開き直っちゃえば良いのに…って本当に思います。

すみません…私もつい悪ノリしちゃいました。

というわけで、伊良部が本気だと解った今、この作品を楽しむにはいっしょに楽しんじゃうのが最適だと悟る。シリーズ第3弾『町長選挙』ではどんなトンデモをやらかしてくれているのでしょうか?期待大です。

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2008/03/16

『零崎曲識の人間人間』 西尾維新

零崎曲識の人間人間 (講談社ノベルス ニJ- 21) Book 零崎曲識の人間人間 (講談社ノベルス ニJ- 21)

著者:西尾 維新
販売元:講談社
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“殺し名”第三位に列せられる殺人ファミリー・零崎一族

そんな零崎を脇役として支え続けた“少女趣味”の物語

「零崎を始めるのも、悪くない」

うわぁ…ピュアラヴストーリーじゃないですかっ!?

殺さずにはいられない殺人鬼ファミリー・零崎一族の中で、“菜食主義者”と呼ばれる異質な存在…それが“少女趣味”こと零崎曲識。『人間人間』はそんな曲識を脇役に据えた4つの物語です。

「ランドセルランドの戦い」では策師が零崎一族に仕掛けた“小さな戦争”を、「ロイヤルロイヤリティーホテルの音階」では財力・暴力・権力の3世界を股に掛けた“大戦争”と最強の成りかけを、「クラッシュクラシックの面会」では両手を失った少女と刺青少年が創る新しい家族の形を、そして「ラストフルラストの本懐」では殲滅されゆく零崎一族の最期を。時系列も事件も登場人物も、とにかくバラバラな本作。共通するのは脇役として登場する…零崎曲識。

正直、もっと逝っちゃってる人を想像していたのですが(笑)結構普通の人でした、零崎曲識。いや、燕尾服でコントラファゴット吹いてる長髪のにーちゃんを“普通”と評するのはどうかと思うのですが…西尾作品だから、ね。某巨大鋏や某釘バットのようなわかり易い(笑)得物は持たない曲識の得物はズバリ“音楽”です。楽器を用いて、楽器が破壊されれば自らの声帯を用いて、相手の神経に音を送り込み操ってみせる零崎曲識。そんな彼の唯一のポリシィは…通り名でもある“少女趣味=少女以外は殺さないこと”。

その“少女趣味”の誓いを立てることとなった契機が冒頭の「ピュアラヴストーリーじゃないですかっ!?」の叫びなんですが…ちょっと良いですよ、胸キュンしちゃいますよ、貴方。偶然果たした一瞬の邂逅を忘れることができずに、あの日の少女の面影を捜し求めて、少女だけを殺め続ける曲識。そんな曲識の最期の時に現れたのは…誰よりも出待ちが長く、誰よりも出どころを心得ている赤い最強。『人間試験』には負けますが、じわーっときました。あぁ、零崎として生きてきて良かったねって。

そんな零崎ファミリーのハートフルかつアットホームな関係は「クラッシュクラシックの面会」でも垣間見ることができます。零崎の生き残りである人識&舞識が、共に生きてゆく決意を決めた瞬間。泣かない舞識を痛々しく思う人識と、人識と連弾でき得る可能性を秘めた舞識。そんなふたりの前途を祝すかの如く、曲識が贈った一冊のノート。解らないなら解らないままで良い…そんな難解なメッセージがまさしく零崎流。

零崎シリーズは次なる人識の物語で終焉を迎える模様。壊滅した零崎のたったひとつの希望である人識が、そんな物語を紡ぐのか…終わってしまうのは寂しいけれど、早く読みたい。複雑です。

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2008/03/15

『重力ピエロ』 伊坂幸太郎

重力ピエロ Book 重力ピエロ

著者:伊坂 幸太郎
販売元:新潮社
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「そんな子供も犬に食わせてしまえ」

「兄貴、むちゃくちゃだよ」

「そうだ、このむちゃくちゃがおまえの兄なんだ」

文庫化した『死神の精度』を再読したら、どうしてもスプリング兄弟に逢いたくなって再読してしまった『重力ピエロ』。読了まで、多少時間がかかってしまったのはご愛嬌ということで。

本作は遺伝子に縛られた兄弟と遺伝子によって生を断たれようとしている父、そして遺伝子を遺すことに躍起になっている男の物語。それはそれは悲愴で重苦しい過去を、ゆるやかに、時には楽天的に描く「本当に深刻なことは、陽気に伝えるべき」物語。

他の伊坂作品と比べても“山場”や“見せ場”の少ない本作。もちろん伊坂作品特有の“伏線地獄”は健在ではありますが、その方向性は読者を驚かせることでなく、文学的な方向に働いていると感じます。「春が二階から落ちてきた」とかね。仙台市で起こる連続放火事件がミステリ的エッセンスとして使用されておりますが、その犯人は明らかであり、もし放火魔が彼でなかったとしたら仰け反るほどの“どんでん返し”でしたけれども…まぁ、物語が成立しないやね。

個人的にレビュー冒頭の作品紹介(□で囲まれている部分)でも使用した兄弟の会話が大好きなんです。あとは癌に侵された父の

「おまえは俺に似て、嘘が下手だ」

なんて、たった一文なのに、うっすら眼に涙が溜まります。ペットショップから病室、そして自首(笑)までを描いたラストシーンは名台詞が多くて困る。これが書きたくて、それまでの物語があったに違いないと思わせる素敵シーンばかり。

以前、石持浅海氏の『水の迷宮』というミステリ作品のレビューで「ミステリにおいて犯人が捕まることなく、登場人物たちもそれを容認するという結末に喝!」と書いたことがあるのですが(あれ?うっかり『水の迷宮』のネタを割っている気がするな…まぁいっか)本作に於いてはこれに該当しないと個人的に思います。だって、家族なら…赦せるでしょう?家族なら、赦すでしょう?その赦しを以って、犯人がどう行動するかは別問題として。その意味でも『重力ピエロ』は深いなぁと改めて感じます。

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2008/03/04

『イン・ザ・プール』 奥田英朗

イン・ザ・プール (文春文庫) Book イン・ザ・プール (文春文庫)

著者:奥田 英朗
販売元:文藝春秋
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青白い蛍光灯の下、進んだ先には「いらっしゃ~い」

能天気な精神科医のお出迎え

こいつ、本当に医者か?

直木賞受賞作『空中ブランコ』が文庫化されたのを機に、トライしてみました『イン・ザ・プール』。トンデモ精神科医・伊良部とその患者たちが織りなすコメディ作品…だったのね。直木賞を受賞するくらいだから、もっと真面目な作品かと思っておりました。

収録されているのは表題作を含めた5作品。依存症に強迫神経症、陰茎強直症なんて際どい症状まで。そして何より、私の超得意技にして謎の中国人・妄想癖さんもいらっしゃる!

個人的ベストは携帯依存症の「フレンズ」なのですが。この作品あたりから伊良部の行為が治療らしく(見えるように)なってきたように思います。表題作「イン・ザ・プール」はどうしても治療とは思えませんで。「いてもたっても」のセクシー看護師・マユミさんのアシスト(「患者さん。○○、確認してきた方がいいですよ」)も意図的かつ治療なんですよ…ね?

治療行為なんですよね?(ふと、原点に還る)

この作品集の凄いところは、程度の差こそあれ「私もちょっとこの気あるな…」と読者に思わせるところです。私なんてまんま妄想癖だしっ!(私って美人方向には向いておりませんが)皆さんもいずれかの作品で「あぁ、この気持ちわかる…」と心のどこかで思ったはず。その兆候が顕著に突発的に現れるからこそ、人はトンデモ精神科医・伊良部が待つ、地下室の扉を叩く…んですよね?

直木賞受賞の『空中ブランコ』も手元にあるので、近いうちにレビューをお送りできると思います(いまはちょっと寄り道中。違う本を読んでいたりする)。本作を上回る、どんな症状の困ったちゃんたちが登場するのか、いまから楽しみです。

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2008/03/03

『犯罪ホロスコープⅠ 六人の女王の問題』 法月綸太郎

犯罪ホロスコープ1 六人の女王の問題 (カッパ・ノベルス) Book 犯罪ホロスコープ1 六人の女王の問題 (カッパ・ノベルス)

著者:法月 綸太郎
販売元:光文社
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夜空に瞬く星をつなぎ、物語をつむぐ

星座にまつわる6つの謎を解き明かすは、あの法月綸太郎

名探偵は真実を拾い上げ、新たな物語を描くことができるか?

『法月綸太郎の功績』以来○年越しの“綸太郎シリーズ”ノベルス発売ですよ、奥さん!!『名探偵コナン』の名探偵図鑑に掲載され、名実共に殿堂入りを果たした(笑)法月綸太郎のシリーズ最新巻ですよ、奥さん!!!

黄道12星座をモチーフに綸太郎が謎と対峙する新シリーズ。『犯罪ホロスコープ1』と銘打たれた前半戦は牡羊座から乙女座までの6戦。双子座と蟹座はそれぞれ『あなたが名探偵』『気分は名探偵』で既読か…あとの4星座に期待!

というわけで、本作の個人的ベストは「ゼウスの息子たち(双子座)」です…って既読作品じゃないですかっ!?でも、この趣向の作品が好きなの。すんごい好きなの。これだけは譲れないの。騙された感が堪らない優秀な1作。次点は「ヒュドラ第十の首(蟹座)」かしら…ってまたもや既読作品!?「ジャーロ」以外の媒体に発表された作品の方がレベルが高いのは…やっぱり読者数の差かしら?(言っちゃった!?)

演出に最も度胆を抜かれた作品を挙げよと言われれば、間違いなく「六人の女王の問題(牡牛座)」なんですがね。いきなりト書きが挿入されたときには「ざ、斬新…」と苦笑いしてしまいました。あとがきで作者の法月氏自ら「省エネ対策」と仰っておりましたが…すごい省エネですね。

全体を通してちょっと物足りない印象を受けてしまったのは、「綸太郎復活!」の興奮から個人的な審査ハードルを上げてしまったからでしょうか?後半戦は私の所属する(笑)水瓶座の作品が掲載されるでしょうから、もっとハードルが上がってしまうような気もしますが。やっぱり自分が大好きですから(笑)

とにかく、『犯罪ホロスコープⅡ』の発売までにまた○年以上かかってしまうようなことの無きように…宜しくお願い致します。

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2008/03/02

『不気味で素朴な囲われた世界』 西尾維新

不気味で素朴な囲われた世界 (講談社ノベルス ニJ- 20) Book 不気味で素朴な囲われた世界 (講談社ノベルス ニJ- 20)

著者:西尾 維新
販売元:講談社
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奇人三人衆、そして静かなる人払い令

本物を眼の当たりにし、自分が偽者であることを自覚する日々

ついに壊れた時計が動き出す

1ヶ月に亘る放置プレイからの復帰第1弾レビューは、『きみとぼくの壊れた世界』と同じ世界観を成す本作『不気味で素朴な囲われた世界』…タイトルを覚えるのも一苦労です。

本作の主人公は名前に一本筋を通す男、串中弔士。日常を揺るがすような、日常が非日常に至るような、そんな瞬間を待っている中学1年生。奇人変人に囲まれ、自分が“偽者”であることを強く強く意識する日々。そんなある日、愛すべき姉が殺されるという非日常が唐突に襲い掛かって…という物語。

本作で探偵を務めるのは『きみとぼくの壊れた世界』で探偵役を務めた病院坂黒猫の従姉妹・病院坂迷路。「目は口ほどにモノを言う」を地でゆく、決して脚色でなく嘘のように「一言も喋ることのない」探偵役です。もう、どんな人間なのか想像することもできません。迷路(黒猫と区別の為こう呼ぶ)の台詞はすべて主人公たる弔士が代弁してくれるのですが、このあたりに叙述トリックが用意されているのではないか?と個人的には疑いました。ある意味この読みは外れていなかったと言えるかもしれない、本作。

時計台を使った物理トリックは、小串(弔士の姉)の体を下方にひっぱるほど○○が下に向くのであれば、狂った時間は4時間半以上になるのではないか?と思ったり。でもまぁ、なかなか面白い物理トリックだと感じました。まさに「思いついたらやらずにはいられない」系のトリック。

本作はこの手の風刺が効いた作品でしたね。「思いついたらやらずにいられない」が推理小説家からすれば「思いついたら(このネタで1本)書かずにいられない」になると読み替えてみたり。現在のミステリ界に警鐘を鳴らす…とまで大袈裟なものではありませんが、なかなか鋭い思考だと思いました。

そして、本作で尤も優れているのが…事件の動機なんですよ。実際の犯人たちの動機はちょっと弱いのですが(いくらコントロールされていたからって、そんなに簡単に一線を越えることはできない…と、本作の趣向を理解した上で言いたい)、黒幕(?)の動機が最高なんですよね。これなら頷ける。「好きな人といま以上に接近したいから」「好きな人がこちらを振り向いてくれなくて苦しくて」そんな理由で人は殺せないかもしれないけれど、黒幕が持っていたこの動機なら…殺せるかもしれない。そう一瞬でも読者に思わせる力強さがあったと思う。

そうそう、黒猫の再登場も嬉しかったです。やっぱり意味も無く饒舌な探偵役の方が私は好きです。

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