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2007/01/14

『スイス時計の謎』 有栖川有栖

スイス時計の謎 Book スイス時計の謎

著者:有栖川 有栖
販売元:講談社
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作者・有栖川有栖をして「どこから見ても本格ミステリ」と云わしめる4作品を収録。

美しい論理をとくとご賞味ください。

有栖川 国名シリーズ第7弾!!

“有栖川 国名シリーズ一気読みレビュー”も本作『スイス時計の謎』と次作『モロッコ水晶の謎』で終了。既に『モロッコ水晶』も読了しているのですが、8作品しか無いにも関わらず、一月半ばになっても企画終了していないところが情けないですな。そうはいっても、残り2作品、張り切って参りましょうか!!

「あるYの悲劇」

本作はアンソロジー『「Y」の悲劇』のために書き下ろされた作品。『「Y」の悲劇』も所有しておりますが、あのアンソロは有栖川氏と法月氏の作品がかろうじて読める…といった感じでしたね。二階堂氏の作品なんて…アンチミステリとも云えない。

「Y」と読むことのできるダイイング・メッセージを扱った本作ですが、もちろん「Y」と読むのが正解!とはゆきません。この「Y」は別の文字記号を表しているのですが…あとがきで有栖川氏が述べているように、書き方はあれでOKでも、瀕死の被害者の手が一画目よりも上に上がったとはどうしても思えないですねぇ。でも、この作品の本質は「どこに書いたか?」ですから、まぁいっか。

この作品の被害者はバンドマンなのですが、彼を死に至らしめた凶器が“フライングV”(イメージが湧かない方は是非ググってみてください)だという、そのこだわり様に脱帽。まさに「Y」の悲劇。

そうそう、この作品は34歳独身者の独白から始まるのですが…アリスですよね?最初、この独白がアリスによるものだとは思わず、犯人によるものだと思ってました。だって、一瞬でもアリスがナンパを考えるだなんて!!寂しいなら、迷わず助教授に電話しなさい。休講にしてでも、彼はやってくるでしょう。

「女彫刻家の首」

この作品は死体から切り取られた首の消滅を扱った作品です。先程のダイイング・メッセージといい、主題からして本格の彩りですね。

さて、ミステリで死体の首が切られる場合、被害者の誤認や入れ替えを考慮するのが常套手段であり、大抵は“雪の山荘”か“嵐の孤島”が舞台で、警察が介入できないように意図されているものです。でも、本作は早々に警察が被害者を特定!では、撲殺に使われた凶器が特殊なもので、凶器の特定=犯人検挙か?というわけでもありません。凶器、転がってますから。というわけで、みなさんも犯人が首を持ち去った理由を推理くださいませ。

私はこの解釈、好きですねぇ。ただ、犯人が○○なんですよ。むしろ○○だったから、計画に綻びが生じたときにストップがかけられない。浅はかですこと。

「シャイロックの密室」

本作はタイトルからして本格。タイトルに「密室」と付く作品は、どんなにダサいと云われようと果てることが無いと私は信じております。スマート。

“ノックスの十戒”か“二十則”の中に、「一般生活で必要とされない特殊な知識や能力を用いたミステリは禁止(かなり意訳です)」というのがあるのですが、この作品はこれに抵触しているかも。しかも、解決編までその知識が登場することはないし。でも、この作品は倒叙形式(犯人視点で描かれている)だから、火村&アリスの推理の過程を覗けない→だからセーフってことなのかな?いまさら“十戒”や“二十則”を守っていては、ミステリは書けないとはいえ、やっぱりコンプされた作品を望んでしまうのが本格ミステリ好きなのです。

でも、こういった専門知識をふとしたきっかけでしったミステリ作家は、「これで一作書ける!」と神が舞い降りるが如く興奮するのでしょうね。私にもいつか神が降りてくることを祈って(ミステリを書こうと思ったことは一度もありません…悪しからず)

「スイス時計の謎」

表題作でござい。「ロシア」から「モロッコ」まで8作の表題作の中で、この「スイス時計」が個人的にいっとぅ好みです。最も本格、最も論理的ですよね。

それが端的に表現された箇所がこちら。引用です。

「いくら考えても火村先生のロジックは崩れないんだ。将棋で言えば詰んでるし、チェスで言うならチェックメイト。お前が犯人だ、と俺も思う。あの推理だけで裁判に懸けられるかどうかは疑問であるにせよ、俺にとっては動かぬ証拠に等しい」

最高ですね!!

物的証拠が無い中での犯人指摘。でも、あまりにも美しい論理は、動かぬ物的証拠に等しい。何度でも云いましょう、最高ですね!!本作で火村が披露した論理は、本当に美しいです。この論理だけで、国名シリーズ表題作中ベストだ!と云い切れるほど。是非、この美しい論理のフルコースを召し上がってください。

さて、本作では恋だの愛だのに無縁も無縁だった、アリスの忘れられない過去の恋愛に触れることができます。プロローグとエピローグで描かれるアリスの心情。この事件の中でどうやって変化していったのか。アリスはこれからも書き続けることができるのか。これもまた見所。

本格ミステリたる要素が詰まりに詰まった『スイス時計の謎』。『ペルシャ猫の謎』が番外ベストならば、本作は正統派ベストですね。

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