« 『スウェーデン館の謎』 有栖川有栖 | トップページ | 『英国庭園の謎』 有栖川有栖 »

2007/01/07

『ブラジル蝶の謎』 有栖川有栖

ブラジル蝶の謎 Book ブラジル蝶の謎

著者:有栖川 有栖
販売元:講談社
Amazon.co.jpで詳細を確認する

最早お馴染みの火村&アリス夫婦が出逢った、風変わりな事件が集められた宝石箱。

その箱から今回飛び出すは…数々の蝶々。

美しい蝶と論理に酔う、国名シリーズ第3弾!

昨日はお休みさせていただきました“有栖川 国名シリーズ一気読みレビュー”企画でございますが、早くも飽きた…わけではございません。今日も一作一作丹念にレビューさせていただきますよ!

「ブラジル蝶の謎」

有栖川氏の短編構成は表題作がラストにくるものが多いような気がするのですが、本作は“蝶サンド”を果たすため、敢えてトップバッターにこの「ブラジル蝶の謎」が。

本作は瀬戸内海の小島に独りで暮らしていたロビンソン・クルーソーが、19年ぶりに本土に戻ってきたところ、蝶の舞う部屋で殺害され?というストーリー。犯人を指摘する火村の推理は、悪く無いけれども抜け穴も存在するよね?という感じで、ちょっと物足りない。19年と云えば、生まれたばかりの赤子が大学に入学するに至るほどの長い月日ですので、人も社会も大きく変わってしまうでしょうね。その変化が本作の推理の鍵です。

そうそう、蝶が天井に貼り付けられていた理由は非常にオーソドックスで、トリックがどんどん複雑化している中で、こういう作品を読むと原点に戻った感がして安心できます。

「妄想日記」

この作品は有栖川氏が創造した創作文字が面白くて好きです。この創作文字をなんとか解読しようと、数分にらめっこした過去が私にはございますが、まさかミスリードだとは…。しかも、床に描かれた○○○は、どうにらめっこしても浮かび上がってこないし。ぎゃぼ。

「妄想日記」は死体に何故火をかけねばならなかったのか、大オチのその理由が印象深いです。焼却された死体が登場するミステリは、被害者の身元を割れにくくするためか、犯罪自体を無かったものにするため、大抵この辺りが理由だったりするのですが、これは新説です。消えなかったのか?という疑問は敢えてスルーで。

「彼か彼女か」

この作品は『ブラジル蝶の謎』の中で一番気に入っている作品。それは何故って?もちろん<ミスター・マリリン>の蘭ちゃんですよ!私も「彼か彼女か」を読んだときには、有栖川氏に新キャラ出来たね☆と思ったものです。蘭ちゃんが<ミスター・マリリン>にやってきた訳ありな客の悩み事を快刀乱麻に解決する。そうね、シリーズ名はマリリン・シリーズでよろしいかと。有栖川氏、是非よろしく。

というわけで、本作のトリックは男性作家ならではないでしょうか?少なくとも女性はなかなか考え付かない(はず)。こういう、ちょっとしたとっかかりから、真相に辿り着く系のミステリって好きです(何度目だ、ナウシカ)。

というわけで、蘭ちゃんと資本主義と家父長制のふしだらでいかがわしい相互依存関係について、いつか蘭ちゃんと火村が語り合う様が見たいと願う一作。

「鍵」

この作品も好きですねぇ。ミステリの犯人どうこうでなく、被害者のそばに残されていた鍵は一体なんの鍵だったのか?という点に主題が置かれた本作。その鍵が玄関の鍵だったり、ただの宝石箱の鍵だったりしないのが有栖川流。最後にアリスがつまらない見栄と負け惜しみで横文字で解答するのが、夫婦っぽくて好き。そんなことで怒ってちゃ、夫婦生活やってけないわよ?

というわけで、火村は旅する先々で事件に遭遇しすぎではないかと思ったり思わなかったり。犯罪学者が犯罪を離れて、羽休めすることはできないのでしょうか?だって、次に控える「人喰いの滝」でも旅先でお呼びがかかってだたでしょ?最新作の『乱鴉の島』だってねぇ?ちょっと火村が不憫になってきました。

「人喰いの滝」

本作は漫画化されたものを読んだことがあって、ラストで犯人を嵌めた火村が極悪風だった(私がそう見えただけです~。漫画家さんに罪は無いです~)のが印象的でした。名探偵が犯人を嵌めて自供させる作品は数多くありますが、これって犯人が違うトリックを使ってたらどうするつもりだったんでしょうねぇ?だって、そんな大量の○○を購入している不審客がいたら、警察の足を使った捜査で浮かび上がってくるはずだもの。

でも、アリスの「人喰いの滝が、喰ったものを吐き出し始めたんです」は決まってましたね。火村に大抵美味しいところを持っていかれるアリスですが、そのセンチメンタルな物云いにうっとりさせられることもしばしば。

そうそう、トリックにも触れなくては。ネタ自体は『スウェーデン館の謎』と同じなのですが、こちらの方がスマートに感じるのは私だけ?人喰いの滝の精度の点だけリスクがともないますが、過去の実績から信頼おけるでしょう。

「蝶々がはばたく」

本作が“蝶サンド”のラスト作品。このトリックは一際印象に残りますね。ネタは人間消失モノなのですが、その現象が○○的なものでなく○○の力で為されたというところに、そのすごさを感じます(って、このフセ字はトリック知っている方もわからないのではないだろうか)今日みたいな日にも、そんな不思議な力が働きそうですよね。

しかし、今回もふたりで旅行ですか。三十路もとうに過ぎ去った大人が、そんなにそんなにいっしょには出掛けません。だーかーらー、あらぬ噂が立つんですよ。でも、蟹は私も食べたい。是非、ご一緒したい。

ラストの締め方がいかにも有栖川!なのですが、そこに書かれている情景はあまりにも重くって、読む度に胸がきゅんとします。

というわけで、これぞ!という光る作品が若干少ないかなぁと思ってしまった『ブラジル蝶の謎』。でも、安定したクオリティこそが有栖川スタイルなのかもしれません。

|

« 『スウェーデン館の謎』 有栖川有栖 | トップページ | 『英国庭園の謎』 有栖川有栖 »

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.f.cocolog-nifty.com/t/trackback/38084/4835926

この記事へのトラックバック一覧です: 『ブラジル蝶の謎』 有栖川有栖:

« 『スウェーデン館の謎』 有栖川有栖 | トップページ | 『英国庭園の謎』 有栖川有栖 »