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2006/10/30

『図南の翼』 小野不由美

図南の翼 十二国記 講談社文庫 Book 図南の翼 十二国記 講談社文庫

著者:小野 不由美
販売元:講談社
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先王の死から27年。

徐々に荒廃してゆく恭国を救うため、蓬山を目指した珠晶は弱冠12歳。

少女を駆り立てるその想いとは?そして最後に供麒が跪いた相手とは?

十二国記シリーズ第5作目『図南の翼』は、恭国が舞台。恭国といえば『風の万里 黎明の空』で供麒を引っ叩いた(笑)幼い女王が統治する国です。十二国広しといえども、麒麟を素手でぶっとばす王の居る国はこの国くらいでしょう。慶国も将来そうならないとは云い切れませんけれども…。

『図南の翼』主人公である珠晶は若干12歳。先王の死から27年の時が経ち、王の居る時代を知らない子どもです。珠晶は豪商の娘として生まれ、なに不自由無く暮らしてきた、そしてこれからも苦労することなく暮らしてゆけるであろう少女。そんな少女が蓬山を決意する。幼い胸に芽生えたその想いには、どんな真相が潜んでいるのか。

まず、『図南の翼』を語る上で欠かせないのが蓬山へ昇山するということの意味。『風の海 迷宮の岸』で驍宗様や李斎が昇山してきますが、彼らは剛の者。せっかく蓬山まで来たんだから、騶虞でも捕まえて帰っか!という強者だったため、昇山の辛さや厳しさがどうにも伝わってこなかったのですが、この『図南の翼』では蓬山に昇るということがどれだけ過酷なことなのか、死を覚悟して挑まなくてはならない道だということを知らされます。蓬山(黄海)には道は無い…たしかに歩くための平らな地面はあるけれども、そこには休むための宿や街が存在しない。そんな道なき道を進む珠晶たちに立ち塞がるのは…妖魔。

そんな過酷な黄海であっても、その黄海を知り尽くし、昇山する王候補たちを導くことを生業とする者が居ます。それが剛氏。彼らは黄海を行く上でどこが危険なのかを知り、依頼主をその危険から守る。仕事の無い時期には蓬山までの道を歩き、道なき道であっても決して消えてしまうことのないように手を入れる。しかし、剛氏は決して自分の依頼主以外は助けようとしません。なぜ剛氏は皆を助ける知識を持っているのに、それを伝え、一緒に危険を回避しようという心積もりがないのか。その理由を仕事があがったりになるから…としか思えない珠晶はやはりまだ幼いのでしょう。

そして剛氏と同じく黄海で生きる一族・朱氏。剛氏と異なるのは、朱氏は黄海で騎獣として扱うことのできる妖魔を狩ることを生業としています。人身売買で売られた子どもや、親を失った子どもが朱氏となる。その由来は朱い旅券を持ち、もう二度と自分の生まれた土地には戻らない戻れない決意をすることから、朱氏と呼ばれます。国を持たない一族は一族同士で結束するしかない。そんな孤独を抱えた朱氏と珠晶が出逢った場面からこの『図南の翼』は始まります。珠晶が蓬山までの護衛として雇ったのが朱氏・頑丘。この頑丘が良いんです。無口で必要なことしか…むしろ必要なことすらも語らない頑丘。そんな頑丘に頼るしかない珠晶、それが不本意で堪らない珠晶。このふたりの関係がラストにどうなるのか?それが『図南の翼』の見所のひとつ。どんなに生意気でも、苛々させられても、なぜか眼の離せないオーラを放つ珠晶は一体何者なのか?

そして、頑丘と共に珠晶の蓬山への道程を手助けする謎の男・利広。

利広好きです♪

巨大ねずみに三官吏に利広に…あんたはどれだけ浮気性なの?というお言葉が矢のように突き刺さっておりますが、気にしない気にしない。ちなみに今回の再読で最も私の中で株の上がったキャラは浩瀚(主に『黄昏の岸 暁の天』で活躍?)だったりします…って増えてんじゃんか!?

って、利広の話です。利広は幼い珠晶の昇山を止めるでもなく、むしろノリノリ。しかも、蓬山まで珠晶が辿り着けば、彼女が王になって登極するだろうという確信を持っている。そして、珠晶が王になった暁には自分と出逢ったことに意味が発生するという意味深なお言葉。貴方、何者ですか?実際のところ、大物だろうなぁとは思っておりましたが、あそこまで大物だとは思っていなかったのですよ。そうだよねぇ、12歳の女王じゃ、朝廷が荒れるに決まっているものねぇ。そこに利広がバキッと…登場できるのかは疑問ですが、彼の後ろにあるものはとにかくでかいですからねぇ。と、私も意味深な言葉を吐いてみる。とにかく、あの飄々としていながらも腹黒いめちゃくちゃ黒い彼に、私はノックアウトでございます。

そして、犬狼真君の登場。この犬狼真君も謎な人物なのですが、別れの場面で明かされる彼の名前を聞くだけで、ばぁっと世界が広がります。うわぁ、小野不由美主上そこまでやってくれますか!という感じ。彼はまだ黄海で彼の国が彼の望む姿になるのを待ち望んでいるのですね。本当に嬉しく思う。ただ、昔よりも性格悪くなりましたか、真君?アニメ版では『風の海 迷宮の岸』に登場したように記憶しているのですが、アニメ版の青みを帯びた黒髪が素敵でした。

真君と別れた後、珠晶に待ち受けているのは…麒麟との邂逅。あんなに自信たっぷりに「王になる!」と宣言していた珠晶も「どうして、麒麟が来るのよ…!?」と困惑気味。「私は奏の生まれだからね」これは利広。「俺は柳の生まれだ。ちなみに駮はおそらく黄海の生まれだと思うぞ」これは頑丘。それでも尚、戸惑う珠晶に「天神、麒麟まで巻き込んでおいて、いまさら何を言う」「-行け」と声をかけ、背中を押す頑丘。この暖かい三人の関係に、ぐっときてしまいます。みんな珠晶が好きなんだなぁって。そして、十二国記屈指の名台詞がこちら!

「-だったら、あたしが生まれたときに、どうして来ないの、大馬鹿者っ!」

ファーストコンタクトから平手打ちだもん、やっぱり恭国主従は素敵ですね☆でも、主上が赤ん坊だったら…これはネタ(笑)

というわけで、一国を巻き込めるだけの運の強さを持っていなければ王たる資格は無い。

羽搏いて旋風を起こし、弧を描いて飛翔する。雲気を絶ち、青天を負い、そして後に南を図る。南の海を目指して。
その鳥の名を、鵬という。
大事業を企てることを図南の翼を張ると言い、ゆえに言うのだ、王を含む昇山の旅を、鵬翼に乗る、と。

そう、それも悪くないね、頑丘。

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コメント

“10000HIT御礼 十二国記レビュー”お疲れ様です。
そして、ついに『図南の翼』ですね。
『魔性の子』で偶然、出会った十二国記シリーズの中で一番、好きな一冊です。やっぱり、珠晶のキャラが最高に好きで印象深かったです。
特に、蓬山へ昇山する理由が…。何というか、そういう理由で昇山すること自体が王になる素質だよね、って思いました。

早く最新刊が出て欲しいと思いつつ、じっくり書いていってほしいとも思うシリーズです。

投稿: mangayomi | 2006/10/30 04:41

やっぱり「図南の翼」いいですね!!
「風の万里 黎明の空」の読後だと、すぐに「黄昏の岸 暁の天」を読みたくなりますが、ぐっとこらえて順番通りに読んだ価値がありました。本当に面白い。今回の再読では、頑丘と駮の愛情に心打たれました。素敵だ。

投稿: ソラチ | 2006/10/31 23:53

☆mangayomiさん☆
コメントありがとうございます!!“10000HIT御礼”だなんて銘打っておりますが、読んで書いてる自分が一番楽しんでおります。やっぱり十二国記は偉大だ。
『図南の翼』は根強い人気がありますよねぇ。また右サイドバーにアンケートを復活させて、十二国記でどの作品が一番人気なのか調査してみようかと、ちょっとだけ思いました。
私も珠晶のキャラ大好きです。ただの“おしゃま”な女の子かと思ったら、しっかりとした王たる素質を持っていて、自国の麒麟を足蹴にする(してない?)っていうんですから。陽子と珠晶のドSコンビの出逢いをいつか読みたいなぁと思います。

投稿: まじょ→mangayomiさん | 2006/11/01 22:12

☆ソラチさん☆
なります!なります!!『風の万里 黎明の空』から『黄昏の岸 暁の天』へ『図南の翼』すっとばし症候群。でも、その『図南の翼』がこれだけ名作だっていうんだから、十二国記は怖いです。
頑丘と駮にはぐっときますね。騎獣には名前は付けないと頑丘が云ったときの、珠晶の台詞が良いんですよね!「単に名前を呼ぶより、ずっと気持ちの上では親密なのよ、分かってる?」にいっつも涙してしまう私。これは絶対に頑丘の涙だと思ってます。

投稿: まじょ→ソラチさん | 2006/11/01 22:24

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