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2006/10/15

『風の海 迷宮の岸』 小野不由美

風の海 迷宮の岸―十二国記 Book 風の海 迷宮の岸―十二国記

著者:小野 不由美
販売元:講談社
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天啓を受け、国の主たる王を選定する定めを負った神獣・麒麟。

戴国の黒麒麟・泰麒は蝕により蓬莱に流され、十年ぶりに蓬山に戻ってきたばかり。

幼い泰麒は天啓を持った王を選ぶことができるのだろうか?

10000HIT御礼十二国記レビュー第二弾『風の海 迷宮の岸』レビューをお送りいたします。

十二国記初読の際には、てっきり王となった陽子のその後の話が読めると思っていたので、肩透かしをくらった恰好になった『風の海 迷宮の岸』。それだって、一気に物語に惹き込まれたものですが。

この『風の海 迷宮の岸』は陽子と同じく、蝕に巻き込まれ蓬莱(日本)に流されてしまった胎果出身の黒麒麟・泰麒が主人公です。蓬莱では友だちを作ることも、家族に馴染むこともできず、常に違和感を持ちながら生きてきた泰麒。そんな泰麒が蓬山に戻り、本来の自分、自分の生まれてきた意味を知る物語です。

第一作『月の影 影の海』では語られることのなかった、十二国の摂理がこの『風の海 迷宮の岸』では存分に説明されているので、ひとつの物語として読むことはもちろん、「十二国記シリーズ」における資料としての役割も果たします。特に、麒麟と王との関係性についての記述がばっちり。

蓬山生まれの麒麟ならば、生まれながらにして可能である“転変”や“折伏”ができないことに悩む泰麒。何もわからない幼い自分に、本当に良く尽くしてくれる女仙たちに喜んで貰いたい気持ちが膨らめば膨らむほど、焦る気持ちも膨らんでゆき…。そんな泰麒を救う役目を果たすのが、不良麒麟・高飛車麒麟・威圧的麒麟・景麒(笑)です。

Photo_1





















自分で描いててなんなんですが、ぶっさいくですね。景麒になくてはならない“眉間のしわ”を描いてたときが一番楽しかったです。

そんな眉間にしわを寄せ、眼からコールドビームを発する麒麟・景麒(なんだ?そんなに景麒が嫌いか?いやいや、好きだからこそ虐めたくなるのです)が、段々と泰麒の愛らしさにノックアウトされる様が『風の海 迷宮の岸』前半の見所です。

後半はいよいよ、泰麒の王選びがスタート。州軍将軍として名高い李斎や、禁軍将軍であり次期国王の呼び声が最も高かった驍宗を見ても“王気”を感じることのできない泰麒。「中山までご無事で」と声をかける日々が続きます。そして、いざ驍宗が下山をすることが決まったときに、泰麒は罪を犯す。

王ではない者を王に据えるという罪を。

もう驍宗に逢えない、驍宗と離れたくない、驍宗の側に居たい。その気持ちを抑えることができずに、驍宗は王では無いと感じながらも膝を屈する泰麒。いつ自分は裁かれるのか、自分の罪が暴かれるのはいつなのか、あんなに離れたくないと思った驍宗の側に居ても、ちっとも笑うことのできない泰麒。

なんかもう、可哀想で可哀想で。蓬莱育ちというハンデを背負うだけでなく、珍しい黒麒麟であったがためにそれだけで注目を浴びる泰麒が痛々しくて。そんな泰麒が自分の犯した罪を初めて告白する場面。その相手は…冷血漢・景麒!

景麒は泰麒から驚きの告白を聞かされ、どんな言葉をかけてやることもできずにその場を去ります。なんか云ってやれよ(怒)そんな景麒が泰麒の前に連れてきたのが悪ノリ大将・延王尚隆。延王は泰麒に叩頭礼を強います。麒麟は自分の王以外には、決して膝を折らない生き物。その麒麟に叩頭礼を強要し、礼をしたくともできない泰麒に「含むところでもあるのか」と詰め寄る延王。

アンタは悪魔か!?

あぁ、私もすっかり泰麒贔屓に。でも、悪魔・延王のおかげで泰麒は救われます。“麒麟は自分の王以外には決して膝を折ることができない”ということを身を持って知ったのだから。そう、泰麒は間違ってなかった。泰麒はしっかりと自分の役目を果たしていたのです。感動の一幕。

結局は泰麒に思わせぶりな言葉だけを残し、“王気”がなんたるかをきちんと伝えていなかった景麒が要するに悪いわけ。

アンタ(景麒)の無口さ加減が生んだ悲劇かよ!

アンタ(景麒)なんて、裸で御前に参上し、陽子に鼻で笑われなさい!ふん。

というわけで、『風の海 迷宮の岸』は辛い想いを経験し、一段も二段も成長した泰麒の物語です。そして、泰麒が最も幸せだった時のお話。これからの泰麒に待ち受ける悲劇はこんなもんじゃない。景麒の所為にできるうちが華なのです。

小野不由美主上、「十二国気シリーズ」は陽子ものの長編があと2~3作あるという噂を耳にしました。陽子ものの長編はもちろんもちろん楽しみなのですが、泰麒の物語にもきちんと終焉を迎えさせてくださいね。できれば泰麒の春のような笑顔をもう一度。

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コメント

ついに十二国記祭りですね。泰麒のはちきれんばかりの笑顔や仕草やあどけない表情が文章を通してがしがし伝わってくるのでたまらないです。少年好きじゃないですけど、本当にかわいい。これから待ち受ける悲劇を思うと切なくなりますね。

投稿: ソラチ | 2006/10/15 08:06

☆ソラチさん☆
なんとか十二国記レビューを開始できました!読むとしばらく十二国気モードに突入してしまうのがわかっているので、読むのを躊躇してしまうんですよね。寝ても覚めても十二国記。
泰麒にまた、このころの笑顔を取り戻して欲しいと願いつつ、十二国記の新刊を待つ日々がもう何年も続いております。泰麒、戴国を早く救ってあげてね。

投稿: まじょ→ソラチさん | 2006/10/19 21:27

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