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2006/10/16

『東の海神 西の滄海』 小野不由美

東の海神 西の滄海―十二国記 Book 東の海神 西の滄海―十二国記

著者:小野 不由美
販売元:講談社
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-国が欲しいか-

疲弊し、痩せ細った雁国にもようやく緑が見え始めたころ、国内で発生した反乱。

六太の問いに「任せろ」と応えた延王・尚隆はこの危機を脱することはできるのか。

十二国の中でも賢帝と呼び声高い雁国の、長い歴史はここから始まった。

初読の際に「今度こそ王になった陽子の話にちげぇねぇ!」と意気込んで手に取った『東の海神 西の滄海』でございますが、期待に反して登場したのは延王・尚隆でございました。それだって、抜群におもしろかったんだから十二国記はやっぱりすごい。

『月の影 影の海』で陽子が雁国を訪れた時に既に延王の治世は500年以上続いており、その豊かさは陽子だけでなく楽俊をも驚かせましたが、そんな雁国も最初から豊穣な国だったわけではありません。先王(梟王)の死去から新王(尚隆)が登極するまでに、14年もの月日を要し、疲弊し、荒野と化していた雁国。そんな雁国を自ら欲し、導いていった尚隆と六太の物語がこの『東の海神 西の滄海』でございます。

500年もの長きに亘り、一国を治められるなんて、延王ってどんなに有能なの?と御思いの方もあろうかと思いますが…

雁国は有能な官吏でもっていると云っても過言ではございません。

あぁ、猪突に無謀に酔狂に。この3官吏が私、大好きです!登極間もない尚隆に戸籍を投げつけ、「(尚隆が登極するまでの)八年の間にどれだけの民が死んだか、その目で確かめろ」と食って掛かった猪突。尚隆に「すでに諡は用意してある。興王と滅王がそれだ。あなたは雁を興す王になるか、雁を滅ぼす王になるであろう。そのどちらがお好みか」と、王と会話することも許されない府官でありながらも挑発の言葉を口にした無謀。先王に諫言し牢に捕らえられたが、王によって投獄されたのだから王の赦免がなければ牢からは出ない、と錠のかかっていない牢に50年近く居座り続けた剛の者・酔狂。この3官吏が雁国を影で…というか表立って支えております。

この3官吏コンビが(くどいようですが)私、大好きでね!

王に向かって「莫迦」「痴れ者」「昏君」と暴言を吐き、しまいには「置物」呼ばわりです。でも、そこにあるのは信頼なんですよねぇ。我等が王(尚隆)は普段はちゃらんぽらんだけど、やるべきところではきちんとやってくれるに違いない-という信頼と、王たる自分が多少遊んでいても奴等に任せておけば国はしっかりと前に進んで行くだろう-という信頼。だからって、賭博場で一文無しになって、下働きに精を出して良いってわけじゃないんだけれどね(とんでもない王様だ)

そして、『東の海神 西の滄海』を語る上で外せないのが更夜。新王が登極するまでの疲弊した雁国で少しでも食いぶちを減らそうと崖から突き落とされた子ども、それが更夜です。更夜は妖魔に拾われ急死に一生を得ますが、国がどれだけ豊かになっても妖魔と人間が相容れることはできません。そんな悲しみを背負った更夜を救ったのが、尚隆に対して反旗を翻した元州令尹の斡由。斡由は更夜に命じて延麒である六太の誘拐を企てる。そこからこの物語は始まります。

妖魔の子どもとして迫害を受けてきた自分を救ってくれた-という恩義から、唯一の友人である六太の誘拐をも引き受けた更夜。そこには深い悲しみが横たわっています。でも、尚隆の「俺はお前に豊かな国を渡すためだけにいるのだ」という言葉に心を打たれます。妖魔も人間も関係なく、幸せに暮らしてゆける国。自分のように捨てられる子どもの居ない国。更夜が望んだ国はそんな国です。尚隆にならそんな夢を、希望を託せるかもしれない。

そして、尚隆も更夜のそんな願いを引き受けます。更夜の望む国を作るためには長い月日がかかるから…と、更夜を仙籍に残したまま、見ていてくれと別れを告げる尚隆。

尚隆、やっぱりやるじゃん!!

「のんき者ではあるが、莫迦ではない」尚隆。治世が500年を超えた今であっても、まだその約束は果たせたとは云い切れません。この約束が果たされるまで、尚隆の闘いは続くのです。そして、それを黄海から見守り続ける更夜の闘いも。『図南の翼』で犬狼真君が登場したときには嬉しかったなぁ(ネタバレです。余談です)

というわけで、与太者・尚隆の熱い想いを知ることのできる一作。そして、悪態をつきながらも尚隆を心から信頼している六太。この信頼関係を、陽子と景麒にも学んでもらいたいと願いつつ、次巻こそ陽子の物語。

そうそう、『東の海神 西の滄海』で私の号泣ポイントは180~184ページです。今日、カフェで読書しながら泣いている女を北海道で見かけた方、もしかしたらそれは私だったかもしれません。公共の場で…泣いちゃった!

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