« 『東の海神 西の滄海』 小野不由美 | トップページ | 『図南の翼』 小野不由美 »

2006/10/29

『風の万里 黎明の空』 小野不由美

風の万里 黎明の空〈上〉―十二国記 Book 風の万里 黎明の空〈上〉―十二国記

著者:小野 不由美
販売元:講談社
Amazon.co.jpで詳細を確認する

天命により慶国女王となった陽子。

しかし、胎果出身の陽子は、文字も制度も世界のあらましすべてがわからない。

わからないまま傀儡の王となって慶国を統べることになってしまうのか?

○日ぶりのレビュー更新…言い訳は致しますまい。この『風の万里 黎明の空』も読了してから一週間以上経過しておりますが、頑張ってレビューしたいと思います。

さて、この『風の万里 黎明の空』には3人の少女が登場します。『月の影 影の海』で慶国女王に即位した陽子。陽子と同じく虚海を越え、こちらの世界へと流されてしまった鈴。そして芳国公主でありながら、父の暴虐を知ろうともしなかった祥瓊。『風の万里 黎明の空』はこの少女たちの成長の物語です。

ここで激白するのなら、上巻の鈴と祥瓊については

とにかくいけ好かない小娘です。

鈴の不幸自慢と祥瓊の簒奪者への恨みつらみには、正直虫唾が走ります。確かに虚海を越え、言葉もわからない知人も頼れる人も居ない鈴は不幸です。でもね、妖魔に父親が喰われる様でも看取れたあんたは幸せよ-といけしゃあしゃあと云ってのける、その歪んだ精神が気に食わない。そして、公主としての責任を果たすことなく、ただ美しいものに囲まれ幸せに暮らすことが当たり前だと思っていた祥瓊も気に食わない。学生時代、義務と権利について教え込まされましたが、まさにそれですよね。公主としての権利は存分に行使するけれども、義務は負わない。負わないどころか、そんな義務があることすら知らなかったというのですから。

そんなふたりがそれぞれの思惑を持って慶国へ向かう。方や同じ海客である景王なら自分を哀れんで助けてくれるかもしれないという希望を持って、方や自分の失った地位や財宝をあっさりと手中に納めた景王への恨みを抱えて。その旅中に出逢うふたりの人物もまた、この物語のキーパーソンです。

不幸自慢・鈴が出逢うのは慶国の難民であり、前述の家族を妖魔に喰われた少年・清秀。清秀に出逢い、不幸自慢を繰り返していた自分が恥ずかしいものだと気づき始めた矢先に事件は起こります。妖魔に襲われた傷が原因で、視力が極端に落ち込んでいた清秀が馬車に撥ねられる。撥ねられた清秀を見ても、慶国・和州の民は知らんぷり。それは、その馬車が止水の郷長・昇紘の馬車であり、彼に楯突けば自分の首もまた撥ねられることを知っているから。悲しみに暮れる鈴の中に芽生えたのは、郷長・昇紘への恨みと、昇紘のような役人をのさばらせておく景王への怒り。そこから、鈴は昇紘への反乱を企てるグループへの参加を決意します。

そして、祥瓊が出逢うのは困った人間を拾わずにはいられない星の下に生まれた巨大ねずみ・楽俊です。無事雁国の大学に主席で入学し、延王直々に傾きかけている柳国の視察を以来された楽俊。柳国の宿で同室になった祥瓊に盗人の罪を着せられた楽俊ですが、そこは雁国冢宰の裏書した旅券を黄門様の印籠の如く、バキッを見せ付けて難を逃れます。そして、慶国に行きたいという祥瓊の素性をも受け入れた上で一緒に旅をする…

楽俊ってのは、本当に良く出来た巨大ねずみですね!

だったら、巨大ねずみとか云ってんじゃないわよ、貴方。とにかく、楽俊から公主の義務がなんたるかを教えられ、自分を恥じる祥瓊。そして、慶国・和州で行われていた公開処刑の場で、芳国でも同様の処刑が日常的に行われていたことを止められなかった自分への戒めも含めて、石を役人に投げつけるという暴挙に出る祥瓊。当然、祥瓊も役人に追われる羽目になり、その場を助けてくれた男の下に身を寄せることとなります。

そんな中、景王・陽子は金波宮を離れ、和州に程近い里家で遠甫という老人の下でこの世界のあらましを学んでいる最中でした。着実に知識を吸収し、成長を果たしていたある日、遠甫が誘拐されるという事件が発生。やっぱり陽子にトラブルは付きもののようです。そして、その誘拐犯の影を追っているうちに…鈴と祥瓊、その仲間たちと合流します。

景王であるという素性は隠して。

ここが最高なんですよ。王が反乱軍に参加しているとは知らずに、王の直属の軍である禁軍を勝手に動かしたのは誰なのか。すっかり反乱軍に馴染んだ陽子が、実は王だったと知ったときの仲間たちの反応はどうなのか。そして、景王へのいろんな想いを抱えて慶国までやってきたふたりの少女は、陽子に出逢いどんな言葉をかけるのか。ここからはダイジェストで印象深いシーンを幾つか。

①景麒に跨り、禁軍に前に立ちはだかる陽子

「お前たちの主はいつから靖共になった!靖共のために拓峰を攻めるというなら、禁軍全てを反軍とみなすがよいか!!」と、禁軍将軍をも萎縮させる程の覇気を持って宣言する陽子。というか、血まみれの姿で景麒を騎獣扱いするだなんて…

陽子って素敵☆

やっぱり陽子はドSだわ。まぁ、あの場では景麒に跨ることが出来る=景王という図式を示すことが一番効果的だったわけですが、だからってねぇ?血を忌み嫌う麒麟に「死ね!とまでは云わん、病め!」ってことですからね。そんなに景麒が憎かったですか…。

②陽子が景王であると仲間たちに宣言する鈴&祥瓊

鈴&祥瓊、というか祥瓊が素敵なんですよね。「我が芳国は先の峯王が公主、祥瓊と申す。-一国の公主が王に面識があってはおかしいか。我の身元に不審あれば、芳国は恵候月渓に訊くが宜しかろう。先の峯王が公主、孫昭をご存知か、と」あぁ、祥瓊、そんな立派な啖呵斬れたんですねぇ。若干嘘が混じってますが(公主を追われた後に景王が建っているとか、いま月渓に照会されたら一発で捕まるとか)あの場で、堂々と公主たる自分を宣言できるっていうのが祥瓊の成長の印です。えっと、鈴は…采王の御名御璽ってのは確かにすごいんですけれど、虎の威を借る狐状態なもんで。でも、鈴だってとっても成長しましたのよ!

③陽子・感動の初勅

勅命とは王直々に宣下する法律。そのなかでも初勅はこれから王がどんな国を作ってゆくか、どう国を導いてゆくかを端的に現すと云われてます。遠甫の下に陽子が身を寄せるようになったのも、その初勅がなかなか決まらなかったからなのですが、此度の反乱軍参加で陽子は自分の初勅を見つけてまいりました。その初勅は「伏礼を廃す」。ちょっと長いけど引用します。

「地位でもって礼を強要し、他者を踏みにじることに慣れた者の末路は昇紘の例を見るまでもなく明らかだろう。そしてまた、踏みにじられることを受け入れた人々が辿る道も明らかなように思われる。人は誰の奴隷でもない。そんなことのために生まれるのじゃない。他者に虐げられても屈することのない心、災厄に襲われても挫けることのない心、不正があれば糺すことを恐れず、豺虎に媚びず-私は慶の民にそんな不羈の民になってほしい。己という領土を治める唯一無二の君主に。そのためにまず、他者の前で毅然と頭を上げることから始めてほしい」

うわぁ、感動やね。この直前の「(他者に頭を下げさせなければ安心できないような)そんな者の矜持など知ったことではない」も最高なんですが。陽子ドS…じゃない、

慶国はきっと良い国になるよ…。

慶国の行く末を暖かく、ずっと見守って行きたいと思います。

風の万里 黎明の空〈下〉―十二国記 Book 風の万里 黎明の空〈下〉―十二国記

著者:小野 不由美
販売元:講談社
Amazon.co.jpで詳細を確認する

|

« 『東の海神 西の滄海』 小野不由美 | トップページ | 『図南の翼』 小野不由美 »

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.f.cocolog-nifty.com/t/trackback/38084/3996211

この記事へのトラックバック一覧です: 『風の万里 黎明の空』 小野不由美:

« 『東の海神 西の滄海』 小野不由美 | トップページ | 『図南の翼』 小野不由美 »